動画ライブ配信の女性殺害 投げ銭の弊害?

 埼玉県越谷市で、インターネットのライブ動画配信サービスをしていた女性が、視聴者だったと思われる男性に殺害される事件が起きた。越谷市は、私が勤めていた大学があるところなので、少々驚いたが、もともと犯罪が多い地域である。私が勤めていたころ、とくに前半期は、特に女子学生の部屋が空き巣に入られることが、けっこう頻発していた。その理由は、かなり明確で、とにかく街灯が少なく、夜になると住宅地は非常に暗くなるのだ。その後、街灯設置運動などの成果で、多少改善されたが、もっと改善の余地がある。
 もっとも、今回の事件は昼間であるし、特定人物を狙ったものなので、事情は異なるのだが。
 報道を読むと、以下のことがわかる。
・被害者の女性は、ライブ動画配信をしており、どうやら投げ銭システムを利用して、収入をえていたようだ。
・加害者の男性は、8歳も年下だが、彼女のライブ配信の視聴者で、当人のいうことには、一度会ったことがある。
・加害者は、女性から「配信者と視聴者の関係に戻ろう」と言われ、他の男のものになるなら、殺してしまおうと思ったというのが、動機らしい。
・加害者は自首をしている。

 
 おそらく、この事情以外にも、まだ報道されていない背景があるように思われるが、住んでいる地域も違い(加害者は茨城県)、たった一度会って、「俺のもの」だという感覚をもち、配信者と視聴者の関係に戻ろうと言われただけで殺害してしまうということが事実だとしたら、若い人々の感覚が違ってきたのかと思ってしまう。また、投げ銭システムについても、考えざるをえない。
 まずは精神の変化の可能性だ。小説の世界では、妻に裏切られると直ぐに殺害しまう話がいくらでもある。オペラの世界でも、カルメン、パリアッチなど。しかし、欧米人は、耐えざる戦争を経て、現在に至っており、殺し合い、血塗られた事件に満ち満ちている。それに食事も肉食が多く、血気盛んである、などという把握もある一方、日本人は、島国で外との交渉が少なかったせいか、あまり、残酷な話は多くない。戦後欧米風の食生活が進み、病気などの体質も欧米に似てきたなどといわれるが、血なまぐさい気風も浸透してきたということなのだろうか。
 そうした都市伝説的な俗説はともあれ、私たちのような世代には、やはり、理解が難しい事件が多くなっている。
 ライブ動画配信という、個人を世間に晒すことになる映像を流し、それに賛同するひとが、その映像をみただけで、投げ銭をする。賽銭のような感覚なのだろうか。ジャーナリストがいろいろと調べたことを、視聴者に提供する、その見返りとして、視聴料を払うような感覚であれば、自然な支払いと思われるが、単に、映像としてのおしゃべりのようだ。若い女性がそうした投げ銭を得るためのライブ映像を流し、それに多額のお金を提供した男性がいたとすれば、それは、見返りを求めていると考えざるをえない。当然コメント欄にも多数書き込んで、会うように強く求めたに違いない。実際に、被害者は、この加害者の男性と一度あっている。しかも、自宅で殺害されたのだから、自宅を教えていたことになる。自ら教えたのか、あるいはつけられたのかはわからないが、後者であるにせよ、あまにガードが甘い気がする。
 不思議な感覚は、加害者の男性にもある。カルメンを殺害したホセも、パリアッチで妻を殺害したカニオも、殺害相手は妻であり、昔風にいえば「俺の女」といえる。しかし、この男性は、殺害した女性とは、一度会っただけではないか。それが、「俺の女」という感覚になってしまうのだろうか。
 まだ、二人のやりとりがどうだったのか、報道ではわからないが、やはり残念なのは、女性の用心の不十分さだ。既にネットでもいろいろと書かれているが、素顔を晒したり、実際に会うことは、危険すぎる。youtubeでも、アバターやコンピューターの合成音声を利用しているものが多いのは、こうした被害を受けないためだろう。
 もちろん、投げ銭を期待して、多額の収入をえたいということで、実際の姿をだしているとすれば、それに伴う危険を予め徹底的に予防しておく必要があるだろう。
 男性側の感覚の変化だけではなく、女性の側の変化もあるのかも知れない。
 
 報道内容は、あくまでも加害者が語ったことに基づいているわけで、当然都合のいいように語っているに違いないから、そのまま事実と受け取ることはできない。「配信者と視聴者の関係に戻ろう」といわれたと、いかには、以前はそれ以上の関係であったことを匂わせているが、それもわからない。後続の報道に待ちたい。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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