安倍晋三氏の反中国発言 習近平国賓招待を決めたのは誰だったか?

 「台湾有事は日本の有事だ」などと、かなり大仰なことを発言している安倍元首相は、よほど自分の地位に危機感をいだいているのだろう。あれだけ岸田氏を後継にするといいながら、結局突き放し、9月の総裁選では高市氏当選のために全力をあげていた。決選投票では岸田氏を推薦したといっても、それまでの岸田排除からみれば、人事で安倍氏の要求を、岸田総裁が飲まないのは、ごく当たり前のような気がする。
 盟友の高市氏と一緒に、反中国キャンペーンに熱をあげている。そうやって、岸田氏に揺さぶりを掛けているのだろう。
 しかし、いくら忘れっぽい日本国民でも、習近平首席を日本に国賓として招待したのは、安倍首相(当時)だったことを忘れるわけにはいかない。国賓としての招待に関しても、自民党内でかなりの議論があった。現在でも、当時の招待に反対する記事や書き込みは、多数残っていて、簡単に見ることができる。そうした、自民党内部ですら強かった反対を押し切って、安倍首相(当時)は、招待を決定した。そして、その日程は2020年4月の予定だった。

 しかし、予定の2020年になって、大きな社会情勢の変化が生じた。1月からコロナの感染拡大が起こり、今から考えてみると、第一波はたした感染状況ではなかったが、日本国内では大変な騒ぎになっていた。しかし、政府の感染対策はかなりゆるいもので、PCR検査をあまりせず、したがって感染数が不自然に少ないと考えられた。少なくとも当時は、PCR検査をあまりしない体制にしていたのは、習近平の国賓としての来日とオリンピック開催があるからだと、多くの国民は受け取っていた。しかし、欧米での悲惨な状況が伝えられ、オリンピック開催に関する否定的な発言がIOC理事からだされて、安倍晋三が慌てふためいたことは、多くの人が覚えているだろう。突然、全国の学校を休校にするといいだし、批判を受けながらもそれを強行した。アベノマスクを配布するなどという、頓珍漢な政策を実施した。なんとか、ふたつのことを乗り切りたい、そのためには、コロナの感染などあまりしていないという状況にしたいが、しかし、対策をとっているというポーズを示したかったのだろう。
 だが、そうした奮闘も空しく、習近平の国賓招待は延期となり、オリンピックも一年延期になった。その後一年延期を安倍晋三が強行に主張したために、多くの二年延期説を退けて1年延期となり、今年に多くの問題を抱えながらの強行開催となり、莫大な借金を残すことになった。
 ところで、習近平の国賓招待も、中止になったわけではなく、あくまでも延期である。ただし、コロナの感染があるから、当面はないだろうし、このまま立ち消えという可能性が高いとは思う。岸田首相は、習近平首席との電話会談では、この話題はでなかったと述べ、記者会見で、何も決まっていないと語っている。
 
 もちろん、盛んに自民党右派は、現在でもはっきりと中止せよと迫っている。しかし、私の見方が不足しているだけかも知れないが、安倍氏は、盛んに中国批判をやっているにもかかわらず、「中止」の声にのって、自分でも習近平首席の国賓招待などするな、と岸田首相に迫っているようにも見えない。それはそうだろう。自分で強行して決めたのだから、今更反対を「明言」するわけにもいかないのだろう。
 しかし、私自身は、自民党右派にのって、中国けしからん、国賓招待中止などと主張するつもりはないし、むしろ安倍首相(当時)が、当初反中国だったのを、中国との協調路線に切り換えたことは、むしろよいことだったと評価している。安倍外交で最も評価できる部分だとすらいえる。その他の成果などほとんどないのだから。安倍氏が何故、自民党内右派の代表でありながら、途中で、ある程度親中国路線に切り換えたのか、正確にはわからないが、日本会議の会長の安倍政治評価の文章を読んだときに、なんとなく理解した。そこで、日本会議の会長は、安倍首相はよくやっているが、中国政策だけはよくない。もっと中国と協調してやっていくべきだと述べていたのである。正直驚いたのだが、日本会議の有力メンバーである安倍氏としては、そこにあわせたのかと思ったものだ。安倍晋三というひとは、自分の教養と思考力によって、自立的な方針をたてることができるようにも思えないから、外交政策について、日本会議の会長にこうした評価をされれば、従う気持ちになっても不思議ではない。そして、習近平国賓招待までいくのか、と更に驚いたことを覚えている。
 
 現在、さかんに中国批判をしているのは、あきらかに、右派としての本家帰りということもあるだろうが、岸田首相への揺さぶりだろう。その揺さぶりも、たくさんある安倍氏の政治的疑惑に対して、捜査が自分に向かないように、圧力をかける意図だろう。しかし、揺さぶりも、極めて大きな「自分の実績」である「国賓招待」をどうするのか。ぜひ、安倍晋三氏の見解を聞きたいものだ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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