「お前はもう死んでいるとばかりに…岸田首相が安倍元首相に“嫌がらせ”で関係悪化を 心配する声」という記事が、デイリー新潮(2021.11.8)に出ている。自民党内部の権力闘争にはあまり関心がないし、どうでもいいが、さすがに、元最高権力者と現最高権力者の争いとなれば、関心をもたざるをえない。題名のごとく、重要人事を岸田首相が、安倍元首相の意志に逆らって決めつつある状況を、記事は「心配」しているわけだ。
しかし、本当に、岸田首相が安倍氏の意向を無視して人事を進めているなら、大いに応援したいどころか、もっと先に進んでほしいとすら思う。
二人の関係は、周知のことだが、長いこと岸田氏は、安倍首相からの禅譲を期待して、忠犬のごとく振る舞ってきた。しかし、一向に禅譲の気配はなく、前回の総裁選、つまり安倍氏自身が政権を放り出したときには、さすがに岸田氏を推すのかと思いきや、安倍氏は菅氏を推薦して、圧倒的な差で菅首相が誕生した。岸田氏は、再起不能とまで言われたものだ。
これまでの歴史が示すところは、権力の禅譲などということは、滅多に起きない。名の通った権力者が、権力を禅譲した事例など、ほとんどないのではないか。権力は、要するに闘い取るものなのだ。麻生氏が、総裁選について、権力闘争といったのは正しい。たまに、正しいことを言うのだと、多少感心したほどだ。
岸田氏は、広島で、安倍氏に筆舌に尽くしがたい侮辱を受けたはずである。実際、広島県連は、岸田氏を突き上げているという。それにもかかわらず、昨年の総裁選では、安倍氏によって推薦されることはなかった。おそらく、これは、安倍氏が抱えている政治的困難の急所を二階氏と菅氏に握られているから、菅推薦という道しかなかったともいえる。
逆にいえば、現在、岸田氏は、安倍氏の制裁与奪権限をもったことになる。首相が、黙認すれば、安倍氏は直ちに刑事責任を問われるような件を、いくつか抱えていると言われている。岸田氏が首相になれば、処し方を間違えれば、岸田氏に政治的に抹殺される可能性すらあるから、懸命に高市氏を推したのだろう。河野氏の当選を阻むための措置で、本当は岸田氏本命だったなどというのは、この記事が指摘しているように、事実とはとうてい考えられない。総裁選の決戦投票で岸田氏を支持したのは、岸田氏以上に河野氏のほうが、安倍氏追い落しの可能性が高いからに過ぎない。
そして、今回は正真正銘、岸田氏は権力を闘って勝ち取った。もう安倍氏など恐れる必要はないのだ。力関係は逆転している。安倍氏と違って、岸田氏は、露骨に「嫌いな人」を潰しにかかるような人には見えないが、権力者になった以上、これまで散々自分をこけにしてきた人物の意向を組み続けるようなことをするはずがない。茂木幹事長、林外務大臣の起用(との意向が固められているという)をみれば、実力ある人材を登用しての政権運営を実行しようとしていると感じられる。パソコンをいじったこともない人物をIT担当にして、適材適所などと公言した人物とは大分違うようだ。
安倍氏が首相時代に行ったことは、無残なほど日本をだめにした。そういう意味では、「お前は死んでいるとばかりに」ではなく、本当に「政治的」に葬り去ってほしいものだ。自民党広島県連だけではなく、良識ある国民の多くがそれを望んでいるに違いない。