アフガニスタンの首都陥落

 アメリカの完全撤退表明から、アフガニスタンの首都陥落まで、予想以上に速かった。まだ米軍の撤退が完了していない段階で、既にガニ大統領は他国に亡命してしまった。首都の混乱を防ぐためだなどと言っているようだが、もちろん、殺されないためだろう。もちろん結果としては、混乱が小さくなるし、タリバンとしても、わざわざ捕まえる必要もないに違いない。アメリカが再び介入してくる可能性は低いのだから。
 それにしても、この20年間は何だったのか。そういう疑問に駆られる人は多いはずである。実際に、ベトナム戦争からリアルタイムで、報道に接してきた世代の多くは、アメリカのアフガニスタン介入は、やがてはベトナムの二の舞になると予想されていた。そうした予想からすれば、意外に長くもったというべきかも知れない。国内の対立があると、国を保つことが、本当に難しく、国民が不幸になってしまう、典型的な例がアフガニスタンだ。

 現在の一連の戦争状態が生じたのは、1978年の社会主義者たちによるクーデターだったと思われる。その5年前にクーデターによって王政が倒れ、共和制になっていたが、今度もクーデターが起きたわけだ。そして、タラキ大統領と副大統領のアミンが対立をつづけ、学者で理論的な社会主義者だったタラキは、ソ連に頼り、アミンはアメリカを志向する。アミンの勢力が増大し、タラキはソ連に軍事介入を要請、そしてタラキの暗殺、ソ連の軍事介入、アミンの暗殺と続き、1980年から10年間、ソ連と反ソ連の間に軍事衝突が続く。これにアメリカが介入して、あらゆる反ソ連勢力を援助して、育っていったのがアルカイダであり、タリバンだった。結局、ソ連は敗北して、更に崩壊してしまう。しばらくは、内戦状態になるが、やがてタリバンの支配が確立し、アルカイダのオサマ・ビン・ラディンが、中東やアフリカで起こしたテロのためにアメリカに追われる身となり、タリバンに匿われていたとき、2001年9月11日に、アメリカでの同時多発テロを引き起し、直ちに、アメリカがアフガニスタンに軍事行動を起こし、これまでのアメリカの傀儡政権による支配と、タリバンの攻勢という対立関係が続いてきたわけである。
 この間の動きについては、結局、本当のことはまだわからないことが多数あり、さまざまな見方が横行している。
・ソ連はアフガニスタン介入に大きな反対があったにもかかわらず、何故軍隊を送ったのか。
・アミンは本当にアメリカ側にたつ決意だったのか。
・対ソ連のアフガニスタン戦争のなかで、比較的国民の支持があり、腐敗していなかったとされるマースード将軍は何故、誰によって暗殺されたのか。
・反ソ連勢力への援助のさい、アメリカは勢力の性質を吟味しなかったのか。その後の反米勢力にも大きな支援をしていて、それが結局、反アメリカ勢力を形成することになる。
・オサマ・ビン・ラディンは、本当に同時多発テロを起こしたのか。また、オバマによって殺害された人物は本当にオサマ・ビン・ラディンだったのか。
・アメリカが、アフガニスタンに侵攻した本当の理由は何だったのか。
・タリバンは、本当に残虐な独裁集団なのか。それなら何故アフガニスタン国民を支配することができたのか。また、急速に勢力を再拡大できたのか。
・そして、最大の謎とされているのが、アメリカは、同時多発テロを本当に知らなかったのか。情報機関(例えばモサド)は、情報をアメリカに伝えていたから、まったく知らなかったことはないだろうが、具体的にどの点まで把握していたかは、いまだに謎である。アメリカが、911前に既にアフガニスタン侵攻の準備をしていたことは明らかになっている。つまり、単純なテロ対策ではなかった。
 さて、こうしたさまざまな疑問を提起しつつ、とりあえず、アフガニスタンの内乱は終結し、再度のタリバン支配が復活する。西側によって誇張された側面があるに違いないが、女性の教育や社会的活動を厳格に制限していたとか、イスラム原理主義的な行動を義務付けていたとか、タリバン支配への否定的なことがらが、示されていた。しかし、タリバンもこの20年間に学習したはずである。アメリカを敵にしたことで、20年間のゲリラ戦を強いられた。アメリカやカブール政権が、かなりあっさりと引いたのは、タリバンとの妥協が成立しているのかも知れない。そして、アメリカは、タリバンが、以前のような無茶な原理主義政策はとらないという見通しをもったのかも知れない。それは、今後のタリバンの動きで少しずつ明らかになるだろう。ただ、間違いないいのは、タリバン政府が、中国とより近い関係をもっていくだろうということだ。
 ソ連が侵攻する前のカブールの映像をみたことがある。本当にきれいな街だった。この40年間絶え間なく続いた戦闘で、すっかり昔の面影はなくなってしまったが、少なくとも、戦闘が続いているよりは、政治が安定したほうがよい。
 ソ連とアメリカというふたつの超大国がアフガニスタンに侵攻して、武力制圧を試み、都合のよい政府を打ち立てたが、結局、ソ連もアメリカも軍事的に敗北して、撤退した。アメリカは敗北したのではないというかもしれないが、敗北したことは否定しようがない。上記の疑問は、これから折々調べていきたいと考えている。
 アフガニスタン戦争の意味することは、どんな大国も、外国を武力で支配し続けることはできない時代なのだということだ。それを、肝に銘じる必要がある。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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