卒業生インタビュー1-3 宮地さつきさん(法政大学)

スクール・ソーシャル・ワーカーとスクールカウセンラー

-スクールカウンセラーとは違うんだと実感したようなことはありますか。
宮 家庭訪問するカウンセラーもいらっしゃいますが、関係機関をまきこんでいくとか、社会資源をつくっていく活動などは、大きく違う点だと思います。相談室でのすごし方について、カウンセラーは話をきいて、活動しながら、本人の気持ちに寄り添っていくということは大事にされます。一方で相談室をどう使うか、学校のなかでどう機能させていくか、子どもの学習権をどう保障していくかというようなことはあまり考えられてはいませんでした。学校は子どもたちにとって、家庭の次に大きな居場所であり、社会資源です。

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-スクール・ソーシャル・ワーカーがいたから解決できたと感じるようなことはありましたか。

宮 スクールソーシャルワーカーがいたから解決できた、ということを証明するのは難しいですね。また、「解決」をどこにおくか、ということもあると思います。ただ言えることは、子ども達やその家族が「より良い生活」を送れるようネットワークを広げ、人と信頼関係を築きながら自立していく道を、当事者の方々と共に模索することはできたと思っています。

例えば「養育環境」と一言で言っても、経済的困窮やひとり親家庭、多子家族、親が病気、特に精神疾患などがある場合や、虐待や放置する親、あるいは子どもを学校に行かせない親、問題は実に様々です。対応も就学援助、支援学級、放課後の過ごし方、学習援助など。関係機関は、学校はもちろんのこと、適応指導教室、地域のNPO団体、主任児童委員、福祉事務所、保健課、社会福祉協議会、サービス事業所、病院、児童相談所、警察など多様な機関が関わる必要が出てくる場合が少なくありません。親から分離する必要があると児童相談所が考えるようなケースでも、知的レベルが高い子どもの場合には、受け入れ先によっては逆にトラブルメーカーになってしまう場合もある。また、別のケースでは、高校に進学したいが親が認めない場合、本人の学力保障とともに、親をどう説得するか、誰が伝えるのか、並行して検討しながらいろいろな関係者が本人の希望を実現するために努力する。子どもからすれば、親に励まされて受験したい、自分の可能性を応援してほしいというのは当然の願いです。福祉では、エンパワーメントというのですが、やはり本人のエネルギーを最大限に引き出すような方法で、課題に取りくむ必要があります。そのために、親と向き合えるだけの環境を整えていくことで、本人の学校生活をサポートしていくことが、私たちの仕事だと考えています。

-7年くらいやって、なりはじめのときと、全国的に状況が変わってと思うのですが、仕事やその体制だけではなく、研修、全国的な組織など変化をおしえてください。

宮 大きく変化したことの一つには、福祉関係の資格保有者が担い手になってきたことでしょうか。事業開始当時は、開始が急だったこともあってか、全国的にも、退職教諭が任命されることが多かったようですが、現在は、『社会福祉士または精神保健福祉士』の保有者を募集している地域が増えているように感じます。また、私が大学院に入った頃、全国組織として学校ソーシャルワーク学会が設立されました。以前からNPOの協会がありましたが、こちらは市民活動として草の根の実践を丁寧に積まれていました。一方、学会には研究者と教育委員会や学校を拠点に実践されている方、さらに現職教員の方々もメンバーに加わっています。学部4年生の時、卒業研究のために、すでに試験的に活動を始めていた大阪府教育委員会にお邪魔しましたが、いまも西日本の方がより活発に実践が進められているような印象があります。
-まだまだ全国的には浸透していないということですか。

宮 拡大してきていると言っても、実際には、スクール・ソーシャル・ワーカーがいない県もあります。配置する必要がない、と判断されているところもあると思います。また、配置はされているけれども、身近に十分な支援体制が構築できていないところも多いと思います。各県に研究者がいて、スーパージョンが受けられる体制ではありません。地方にいくほど、一人の先生が近くの県を走り回って、後方支援を行なっているところもまだまだたくさんあります。これは、この領域だけの問題ではないと思いますが。

-法政大学に移ることになったのは、何故とか、何をやろうと思ったかなどはどうでしょう。

宮 3つあります。まず1つは、スクールソーシャルワーカーとしての資質向上のあり方について検証していきたいと考えています。学校の先生や、親御さんへの伝え方や、価値を押しつけても仕方ないし、学校現場は基本的に年中忙しいですので、先生たちのペースを尊重しつつ、子どもたちの学習権や自立が阻害されていないかを考えていくスタンスですけど、使ってもらわなければ、存在価値がありません。さらに誤解を恐れずに言うならば、東日本大震災を直接経験する中で、いまのスクールソーシャルワーカーとしてのスキルでは、先生方はもちろん、そこで暮らす子どもたちやその家族をサポートすることに限界を感じていました。あらゆる関係機関と共に協働体制を築いていくことができるようなソーシャルワーカーとしてのスキルとシステムづくりが急務だと感じたことから、違う立場でそれに寄与していきたいと考えました。2つめに、これまでの実践を、少し足を止めて整理をしたいと考えていました。この7年間、試行錯誤を続けながら、また、周囲の支えがあったからこそ、微力ながらがむしゃらに実践を積み重ねていくことが出来ました。その中で少しずつ、その活動を少し違う角度から客観的にみたとき、どのように映るのかに関心が向いてきました。そして3つめに、大学でのソーシャルワーカー養成への関心です。現場でさまざまな新任ソーシャルワーカーと出会う中で、ソーシャルワーカーを目指す学生が、大学教育のなかで、どういった学びをして、現場にでてきているのか、にも関心がわいてきました。私は臨床心理学科にいたので余計感じるのかもしれません。新カリキュラムになり、養成プログラムが充実した中で、純粋に福祉職を目指す学生がどのような養成を経て、どのような自己覚知をしながら、進路選択をしていくのかに関心がありました。これらの理由から、今回、実習指導室での仕事をいただくことができたことは、現場にも学生にももっとも近くで関わることのでき、研究とも向き合える最良の職場であると感じています。

-ここではどういう仕事をしているんですか。

宮 実習指導室では、社会福祉士・精神保健福祉士・心理実習の事務を請け負っていますが、私の業務は、主に社会福祉士の実習事務になります。実習先と日程調整したり、学生とのマッチング、さらには巡回指導や帰校日の調整などを、各クラスの担当教員と相談しながら進めます。本学の特徴として、地域ごとにクラス分けがされています。実習先は1人につき1~2ヵ所ですが、クラスの中で高齢・障がい・児童・社会福祉協議会・福祉事務所などさまざまな領域に実習へ行く仲間と学び合うことで、疑似的に他領域のことを学ぶことが出来たり、地域全体を見渡しながら福祉を学んでいくことができる、というユニークな取り組みがなされています。このような学びのスタイルは、これからの地域福祉を考えていく上で、とても理にかなっているなと感じています。

-実習指導室での業務は任期付で最大5年間と伺いましたが、次は考えていますか。
宮 まずはこの5年間の間に、博士課程への進学を考えながら、これまでの実践の整理をしたいと考えています。理論と実践の両面で整理をして、その上で、研究職になるのか、現場に戻るのか、まだ、私のなかでも定まってはいません。ただ、いま月1回の頻度で、スーパーバイザーとして福島に入っていて、現場で悪戦苦闘している後任のスクールソーシャルワーカーたちを後方支援しているのですが、やっぱり現場はいいなとしみじみ感じます。確かに大変そうだし、疲弊することもたくさんあることも知っていますが、生き生きやっているなと思います。どのような職につながったとしても、そういう息づかいを感じることのできる仕事に就ければいいと思っています。

スクール・ソーシャル・ワーカーの未来を考える

-川崎の事件がきっかけになって、スクール・ソーシャル・ワーカーを各校に1名ずつ配置しようという政策的動きもあるんですが、そういうことはどう思いますか。

宮 まず、大きな課題として、それだけの人材がいるのかということが1つあげられると思います。私が最初に仕事に就いた、文部科学省が広げた時期もそうでしたけれど、何もない状態で、人がいない中で、やるよということだけがアナウンスされてしまっていると、現場がかなり困惑します。学部でも、スクール・ソーシャル・ワーカー課程が全国的にも少しずつ広がっていますが、『スクールソーシャルワーカー』という資格があるわけではありません。福祉と教育の領域にまたがっているこの分野について、学部の養成課程の中だけで、すぐに学校に入って耐えられるだけの専門性が取得できるかというと、正直、まだまだ課題が山積みだろうと思います。

-資格もばらばらだしね

宮 統一する必要があるかどうかも考える余地がありますが、わたしの後任の二人も、社会福祉士でも精神保健福祉士でもありません。もちろん、資格があればより良いとは思いますが、資格があるからといって、それがすぐ学校現場で役に立つかというと、難しい面が多々あります。今の時期は、資格保有者と相談援助の経験者、両面から人材を発掘していきながら、双方の知識や技法、価値観などを融合させながら、相乗効果を図っていくことで、質・量ともに担保している地域も多いと思います。

しかし、現状を嘆いていても仕方ありません。その必要性が認められたことを前向きに捉えながら、研究者と実践者がともに学び合いながら、日本におけるスクールソーシャルワークの理論化と人材育成を、時間をかけて行っていく以外にないと思います。

-臨床心理士だと大学院レベルの教育があって、カリキュラムもあり、試験もある。社会福祉士の大学院レベルの資格があればいいとか?

宮 社会福祉士も現在、生涯研修制度ができ、基礎・共通・専門の大きく三段階の学びの機会を設けています。以前までは、試験に合格したらそれで勉強終わり、といった状況でしたが、現在は、日々変化する社会情勢や福祉を取り巻く変化や利用者のニーズに寄り添った実践を重ねていく必要が浸透し、資格取得後も研鑽を行っていくことが推奨されています。その研修とも併せて、大学院で学ぶことも、より専門性を高めていく上では有効な選択であると考えます。

-一線で仕事をしているなかで、大学院卒はどのくらいいましたか。

宮 先ほども述べましたが、西日本や関東は大学が多いことも手伝ってか、多くの方が、大学院で学んでから現場に出ていたり、現場で実践を重ねながら大学院で学んでいる方が多いと思います。一方、私がいた福島県を含めて、東北地方はごく少数です。配置枠が少ないこと、大学が少ないこと、指導いただける先生が限られていることなどが要因として考えられます。

-小学校からずっと不登校だった中学3年生が、高校にいきたいということになったときに、家庭の問題が背景にある場合があります。生活保護を受けているお金を母親が使ってしまう、子どもは高校に行きたいのに、しかし、学校は家庭に入り込めない。そんな時、学校と家庭の間をとりもってくれる人がいるといいなと思っていたんです。

宮 先生方にとって、とても悩ましい課題ですよね。ただ、注意しなければいけないことは、ソーシャルワーカーだから、何をやっても良い訳ではありません。いまは、所属している教育委員会や学校の考え方、さらにはワーカー自身の力量に委ねられている部分が大きいかと思っています。その子が、なぜ高校に行きたいのか、なぜ、不登校状態になってしまったのか、なぜ母親は保護費を使い込んでしまうのか、なぜ学校と家庭の関係が十分につながることができない状況にあるのかなど、問題の背景に目を向けることと同時に、その子やその保護者の今できていること、強み、社会資源などもしっかりとアセスメントしていくことで、問題解決の糸口を模索していきます。先生方が最も子どもたちや保護者と接している時間が長い分、情報もたくさん持っています。それらをいっしょに整理をしながら、アセスメントすることは、間接的に、先生方をエンパワーメントしていくことにもつながります。そして、実は先生方ができることも、まだあるのだということにも気づかれることも多々あります。

-とくに若い女性が入っていくときに、どうやって、コンタクトをつけていくのですか。

宮 多くの先生方は、最初、どのように関わってよいのかわからず、戸惑われています。その学校の受け入れ体制にもよりますが、まずは窓口となる先生としっかりと関係を築いていくことから始めます。校内に1人でも2人でも、理解をしていただいている先生がいることが大切になります。そこから、共有できる担任の先生につながっていきます。先生の特性として、基本的には教えることが好きだと思います。分からないことがあるので、教えてくださいと、先生の懐に入っていく。1つ1つの事例や実践を積み重ねながら、先生方の信頼関係を重ね、ネットワークを築いています。さらに、大学院時代の経験もあってか、私が学校に入る時に大切にしていることは、保健の先生の存在です。管理職がどれだけ養護教諭に一目置いているか、また、養護教諭自身のアンテナの高さや校内での位置付け、どのようなことに課題意識を持っていらっしゃるかなどが、学校でソーシャルワークを展開していく上で、とても重要な視点になると考えています。

-ソーシャルワーカーになる素質というのは、人と接触するのが好きというのが、基本ですか。

宮 勿論それも大切な要素だと思います。併せて、最近思うのは、「そうぞうりょく」、イメージ(想像力)とクリエイティブ(創造力)が大事じゃないかということなんです。相手がどう思っているか、感じているか、痛みを受けているのかをイメージする。そして、この先、どういうことが必要となっていくのか、どういうことがあれば、その人にとって、よりよい社会環境になっていくのか、そのクリエイティブな力があって初めて、いま専門職として自分が何をしなければいけないのか、何をどのタイミングでどのように巻き込んでいくべきか、実際のプランニングができていくと感じています。

-最後に、臨床心理学科の学生に、あるいは、将来入りたいと思っている高校生にアドバイスを。臨床心理学科を卒業しても、就職がないと躊躇する傾向があると言われているんですが、

宮 これを言うと先生方に怒られるかもしれませんが、臨床心理学科に入ったからといって全員が臨床心理士にならなければいけないわけではありません。私の友達も、大学院に進学して臨床心理士を取得し、病院や福祉施設などに勤めている人もいれば、まったく心理職には就かずに民間企業やアパレル関係、音楽活動で頑張っているなど、いろいろな分野に就職していきました。しかし共通していることは、どのような職場でも人と関わる仕事、人に影響を与える仕事をする上で、臨床心理学の学びはとても有効であるということです。特に、人との関わりが希薄だと言われる現代社会だからこそ、実は、臨床心理学科で学んだことを具現化し、他者と円滑なコミュニケーションを図ることのできる人材は、どのような分野においても重宝されるのではないでしょうか。さらに、私が文教大学で学べてよかったと思うのは、小さな大学からこそ、学生同士のつながりが密で、学部を超えて横のつながりを大事にするところは、文教の特徴だと、卒業して改めて実感しています。せっかく同じ4年間を過ごすのであれば、一人で黙々と勉強するよりは、いろいろな人と切磋琢磨して活動していくことが、社会に出たときに活きていくだろうなと思います。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。