オリンピックののたれ死にが現実的になってきた

 東京が緊急事態宣言を考慮し始めているということだ。政府は、できるだけ避けたいようだが、このままコロナの感染が進んでいけば、緊急事態宣言をせざるをえないに違いない。できるだけ短くしようとしても、現在の緊急事態宣言などは、それほど効果を望めないから、1月は継続するに違いない。それでもなお、オリンピックを開催するのか。
 菅首相は、依怙地になっているような様相すらある。アメリカで、ニューズウィークの取材に対して、中止という選択肢はないと言い切っている。そして、バイデン大統領からは、菅首相の開催への努力を支持するという言葉引き出して、勇気をえたようなことを言っている。しかし、段選手団の派遣の約束と、バイデン大統領の開会式への出席の約束を得ることはできなかった。自民党内からも、感染がコントロールできなくなったら、オリンピック中止をすぱっと決めるべきという声も出された。
 他方、IOCからは、オリンピックを開催して、感染拡大などが起きたら、それは日本政府の責任であるとの表明があったという。以下のような記事で紹介されている。

 
「Covidへの対処は日本政府、東京都の責任」
「大会前後や大会中のCovid(新型コロナ)への対処は日本政府の責任であり、程度は下がるが東京都の責任になる。IOCとしては、感染拡大や日本国民と(選手ら)の接触を最小限に抑えるため、政府や東京都、大会組織委員会との合意の上で可能な限りのことをやっている。その部分には責任がある」https://news.yahoo.co.jp/articles/4d33042dff5e9e4747d1eb0dfe25d4a633329a04?page=2
 
 日本国民の世論として、朝日新聞では今年の開催派が20%だが、毎日新聞では9%である。ちなみに、日本の大手新聞社は、オリンピックのスポンサーだから、否定的なことはほとんど書かない。そのなかで、毎日新聞だけは、オリンピックに関するネガティブな情報もメディアらしく載せているので、この数字の違いになっているとかがられる。もちろん、中止派が最も多い。つまり、国民の大半は、オリンピックの今年の開催は望んでいない。
 オリンピックの表向きの目的も、「震災復興」から、「コロナに打ち勝った証」に変化し、そして、バイデン大統領との会談では、「世界の団結の象徴」になった。要するに、高邁な理念などないのだ。はっきりしているのは、コロナには敗北していることを認めざるをえなくなったことだ。当然だろう。世界の感染は、現在過去最大を記録しているのだ。毎日数十万人(昨日は、70万人だった)の感染者がでている。ワクチン接種が進んでいる地域でも、感染拡大しているところがあるのだ。
 オリンピックを開催すれば、コロナの感染が拡大することは明らかであろう。それを否定する理由は、まずだれも示せないだろう。そうした場合の責任は、日本政府と東京都にあると、IOCに言われてしまったわけだ。
 日米共同声明のための共同記者会見で、菅首相は、感染が拡大している状況で、オリンピックを開催するのは、無責任ではないか、というアメリカ人記者の質問を完全に無視して、別に日本人の記者に新たな質問をださせるという、「無責任」を態度で示してしまった。日本では、都合のいい質問しか受け付けないで、気に入らない場合には、「それはあたらない」で済ませられるかも知れないが、国際社会では通用しない。実際に、バイデン大統領は質問に多弁なくらいに答えていた。銃規制という日米問題には無関係な内容だったが。
 
 既に海外の観客はいれないことが決まっているから、インバウンドという、経済界が最も期待していたことは、放棄されている。
 自民党内部からも、疑問視する声が、おおっぴらに語られるようになった。
 ワクチンも公表している内容には、かなりの疑問がつく。ファイザーは、9月までに全国民分を保証したと、菅首相は言っているようだが、ファイザー側の説明をみれば、約束したのは、「協議をする」ということだけだ。(日本の説明によると、今日9月の増加分が5000万人分だとわかったらしい。)
 感染対策は万全の準備をしているというが、組織委員会のホームページをみれば、海外の選手に対する対策は、極めて緩いものだし、コーチ、役員、審判、スポンサー関係者たちへの対策は、まったく語られていない。実際にはあるのかも知れないが、公表されていない以上、国民が不安になるのは当然だろう。
 
 つまり、全てがオリンピック開催は無理だという方向に進行していることは、明らかだ。日本のオリンピック関係者と、IOC委員だけが、絶対やると意気込んでいるが、開催しても、開催しなくても、大きな損失を被るのは、日本であり、負債を負担するのは日本国民だ。本当に情けない政府だ。
 世界的に最大級の感染が継続しており、日本も東京が緊急事態宣言を発出せざるをえない状況になっているのだから、誰がみてもオリンピックを開催できる状態ではないのだ。やがて、政府もそれを認めざるをえなくなることは確実だ。その決定が遅れるほど、損害は大きくなる。のたれ死にという以外にいいようがない。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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