オリンピックはできるのか 審判が確保できないというが

前回の東京オリンピックを実際に、東京に住んでいて体験した人間からすると、今回のオリンピックのどたばたはあまりに恥ずかしいと感じる。本来は招致活動などはすべきではなかったのだと思っているし、東日本大震災から間もない時期には尚更のことだし、福島の原発事故は完全にコントロールされているとか、7月8月の日本の気候は温暖で過ごしやすい、などという嘘までついたことが、今日の現状につながっていると考えざるをえない。
 さて、私は、オリンピックは中止すべきであると思っているし、そういう見解も多数あるわけだが、そうした意見は、すべて大手メディア以外から出ている。開催・中止に関するウェブの見解をみてみたが、多くは開催不可能論である。もちろん、絶対に行われるという意見もある。たとえば、「2021年東京五輪の中止はありえない!絶対に開催される理由」(https://answersong.com/news/tokyo-2020-2021-olympics/)という文章は、題名の通りの主張をしているが、その理由は、新型コロナが終息していなくても開催可能、そもそもワクチンが完成するから終息する、ウィルス対策よりも経済再生が優先されるというもので、およそまっとうな思考がなされていないような文章である。森会長や安倍首相(当時)がやるといっているからやるのだ、という信念があるようだが、世界一金のかからないオリンピックだとか、国と都は3兆円を別途しまっているとか、まるで事実と思えないことも書いてある。現在の時点で、オリンピックをどうしてもやるのだ、というためには、こういう論理を使わないと説明できないということでもある。

 それに対して、困難であるとか、中止すべきという見解は、より具体的である。たとえば、「東京五輪の開催は可能か-海外メディアの見方」(https://www.miyoshin.co.jp/entry/2020/07/27/173000)は、イギリスのエコノミストのアンケートで、来年開催できると考えている日本人は、17%しかいないいう数字をだしている。もっとも、この記事は、IOCは、中止にしようとはしないだろうという考えを示している。それは収入の大半を占めるアメリカのテレビ放映権が入らなくなる、感染症のために中止にすると、以後も開催しようという国が少なくなるなどという理由からだが、IOCが開催を追求することは、当然だろう。しかし、現実は別だ。
 youtubeで、オリンピック委員会の内情を、内部告発による情報をもとに、いろいろな角度から検証している、清水有高氏と本間龍氏の映像は、極めて具体的かつ重要な材料を提供している。最新の映像では、ふたつのことが明らかにされている。
 ひとつは、駐車場問題である。
 新型コロナウィルス対策として、選手の送迎は一人一台の車にして、他のひとたちの会場への運搬のバスは、3密を避けるために定員の3分の1程度に抑えるという決定があるのだそうだ。そうすると、当然車の数が数倍に増えるので、駐車場スペースも数倍必要となる。もともと、東京に駐車場などあまりないのだから、想定された数倍の駐車場を確保することは、もちろんほとんど不可能である。二人は、いろいろな案を空想的にだしているので、実に愉快なのだが、常識的に考えて、無理であることは否定できないだろう。神宮球場を駐車場にしようとか、道路を通行止めにして、駐車場にするとか、考えられるとしても、すべて不可能なようだ。神宮球場案は実際にお願いにいって、けんもほろろに断られたらしい。
 この駐車場問題は、単にそれだけではなく、もっと前の段階が問題となる。つまり、そんな車やバスをどうやって調達するかという問題だ。当然既にある車やバスを活用することになるから、本来使われている場面で使用できなくなる。また、元々渋滞が問題になっているのに、それだけ車やバスを増やせば、更に渋滞を加速させることになる。それはどう解決するのか。こうしたことが、いまだに解決されないままになっているというのがひとつである。
 もうひとつは、審判の問題だ。これは、7月段階でもこの二人のyoutubeで出されていたが、現在なおまったく解決されていないということで、新たに、話題として出されていた。通常、国際試合の審判は、1年くらい前の段階で、誰が参加できるのかの確認がなされるのだという。つまり一年前には、審判がほぼ確定していなければならないということだ。ところで、現在の段階でも、断る人が多く、必要な人数が集まっていない。多少足りないというレベルではないらしい。
 オリンピックのような最高レベルの国際的試合では、当然正規に認定された国際審判員でなければならない。その人数は限られている。そして、その基準は非常に厳しいそうだ。絶対的な条件として、英語がネイティブレベルで使えないといけないというのがあるという。試合中に、双方からの猛烈な抗議がある場合が少なくないが、それは英語で処理される。ゲームの内容に関する抗議で、しかも感情的になっているから、対応に求められる語学力は想像がつくだろう。日本には、国際審判員として認定されている人は、非常に少ないそうだ。多くが欧米の人だが、今、欧米では新型コロナウィルスの第二次感染拡大が起きている。そういうなかで、審判としても、参加すれば感染する恐れるがあると思って、断る気持ちは当然だろう。選手ならば、決まった代表選手が、危ないと思って辞退しても、二番手三番手はいくらでもいるから補充可能である。しかし、審判はそうはいかない。そして、すべての競技で、すべての試合に、きちんとした審判を揃えなければならないわけである。審判がいなければ、試合は成立しない。その問題が、ほとんど解決不可能な状況に陥っているという、オリンピック委員のなかからの告発があったのだそうだ。
 このyoutube以外でも、たとえば、医師の関係者からの見解もある。オリンピック中に感染者が大量にでる可能性があるが、その場合に、日本の病院で対応することは、絶対的に不可能といえるだろう。新型コロナウィルスだけではなく、熱中症も大量に発生するに違いない。
 前にも書いたが、現在ヨーロッパで、毎日のように感染者数が過去最多を記録しているのは、バカンスの時期に外国人の観光客を受け入れたからである。オリンピックで期待する観光客が押し寄せたら、どういうことになるかは、自明のことである。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です