Law & Order 自殺幇助問題

 日本でも、医師による嘱託殺人が起き、実行者は起訴されたが、丁度今、Law & Order で自殺幇助をテーマにしたドラマを見た。18シリーズ1回「残像」。妻と子どもが自宅に帰るのを見送ったトーマスが、そのあと塩化カリウムを自ら注射して、自殺する。しかし、他殺の可能性もあるので、とりあえずグリーン(殺人課の刑事)が呼ばれる。そのとき、トーマスの弟のルーポ(刑事)が、帰国し、自分も捜査に加わりたいというが、身内だから難しいという話をしているところに、もう一人の同じような自殺事例が発生する。そこでルーポも加わる。(その後相棒となる)
 仮釈放になっているリンガード(以前自殺幇助で実刑判決を受け収監されていた)に会いに行くが、自分は関係ないと言い張る。
 トーマスは、末期癌でかなり苦しんでいることで、覚悟の自殺だったが、もう一人のドリスコルは、ジャーナリストのノーランが、自殺をする現場におり、映像にとって、放映することになっていることを知る。しかも、ノーランは、10年前、リンガードが疑われた自殺幇助事件で、リンガードに実行したことを白状させた人物だった。

 リンガードの娘のミラが、ドリスコルの担当看護師だったことを突き止め、免責を条件に、ドリスコルに薬や装置がわたった経緯を自白させる。その中でミラが、方法や道具・薬の入手方法を教えたことも認める。そして、ALSだったことを気にしての自殺だったことから、その病名が正しかったのかを調査したところ、実は異なる脊椎性筋萎縮症という、ALSよりずっと軽い病気だったが、当初間違った診断があり、それをあえて訂正せず、ドルスコルは誤解で自殺したことがわかる。そして、訂正させずに自殺に追い込んだのがミラであると、免責を与えたにもかかわらず起訴することになる。しかし、看護師であるミラの説明に敗色濃厚になったとき、検察が、死刑廃止のサイトを見つけ、そこにミラの賛同意見が掲載されていることを突き止める。ミラは、証言の際、自ら死ぬ権利があるといい、苦しまずに死ぬことができる方法を教える。しかし、実行はまったく自分でやるのだと主張するが、検察は、「あなたは死刑廃止論だね」と確認したあと、その理由をミラに尋ねる。その死刑反対サイトは、死刑の方法が苦しみのある残酷な刑罰という理由で反対しているが、処刑の方法は、ミラが教える自殺の方法と同じ塩化カリウムを使う方法であり、ミラは返答に窮してしまう。
 勝利を確信した検察だが、ミラの父親リンガードが証言にたつ。リンガードは、やったのは自分で娘ではないと言ったあとは、検察の質問にまともに答えず、ただひたすら宗教家のように、死ぬ権利があることを叫び続け、判事による制止も無視する。しかし、実は、致死量の薬を自分でうっており、そのまま倒れて死んでしまう。法廷は大混乱となる。
 シリーズの最初であり、かつ検事正、検事、刑事がまとめて交代したからか、かなり力の入ったドラマで、気が抜けない展開だった。
 さて、こうした安楽死、自殺幇助という問題は、本当に難しい。オランダとかスイスのように、制度化され、法で手順や基準が決まっている場合は、そうしたルールを守っているかどうかがチェックされるだけだし、また、制度として行われるので、必ず届出と検察による事後調査がある。従って、実行する側も、ルールを守って行う場合がほとんどだ。
 しかし、日本やアメリカのように、制度化されていない場合には、届出などなされないし、発見された場合でも、判断は極めて難しい。今回の日本の事例では、主治医以外の医師が、報酬を得て、しかも、人がいないときを見計らって、実行してそのまま去ってしまうという方法だから、犯罪性を免れないが、それでも警察は半年以上の捜査をした上で逮捕、起訴となっている。
 このドラマで考えてみよう。
 最初のトーマスの場合は、完全に一人だけで実行して、それを映像にとってある。もちろん、薬の入手や方法などは、誰かに教わったり、援助を受けただろうが、実行の段階ではまったく自分だけで行っているので、事件性がない「自殺」と処理されている。
 2番目のドリスコルも、当初は同様な扱いだったが、ノーランというテレビマンがその場にいて、映像をとり、それを放映する計画だったことから、より慎重な捜査が行われた。しかも、リンガードの娘ミラがドリスコルの担当だったことから、計画的な自殺幇助だったことが疑われた。しかし、それでも、それだけなら、やはり実行は自分で行っていたことが、映像によってはっきりしているので、起訴される可能性は少なかっただろう。ただ、ここでは問題になっていなかったようだが、ノーランは、ドリスコルが薬を点滴で注入しているのを見ているわけだから、自殺を止めなかった不作為の罪に問われることはないのだろうか。交通事故などで危機にある人を、可能であれば、援助する義務を課している国があるが、そうした義務を怠れば、不作為の罪に問われることになる。アメリカは、それがないのかも知れない。
 このままだと不起訴のままだったが、ドリスコルは間違った病名を伝えられたのではないかということから、何故そうした勘違いが生まれたのかが調査された。そして、自殺をするように、深刻な病名を伝えたのが、意図的である、それは未必の故意による殺人であるということで、起訴されたわけである。この場合、カルテの問題が起きなければ、やはり、罪には問われなかったといえる。
 日本では、自殺幇助・関与は、基本的には、処罰の対象となるようだ。このドラマの場合、器具や薬を手配するだけだから、自殺関与にあたるのだろうが、日本では犯罪となる。従って、アメリカよりも厳しいといえる。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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