Law & Order リアルタイム番組のでのトラブル 誰の責任か

 テラスハウスの番組の内容で誹謗中傷を受けた出演者の中村花さんが自殺した事件は、記憶に新しい。私自身は、この手の番組を見ないので、番組にかかわることはわからないが、その後のSNS上の誹謗中傷については、関心があり、ブログに既に書いた。ただ、この事件の問題には、番組そのものの「やらせ」要素もずいぶんと議論になっているようだ。台本はなく、ごく自然に起きていることをカメラが追う、というふれこみだが、台本があるのではないか、台本ではなくとも、何らかの指示があるのではないか、しかも、対立を煽るような指示があるのではないか、というようなことが、多くの人に疑念として抱かれているのだろう。もし、これが、アメリカで起きた事件ならば、何らかの裁判になった可能性がある。もちろん、日本でも今後、何らかの提訴もありうるのだが。
 Law & Order をずっと見ているのだが、そのなかに、まさしくリアルタイム番組を扱ったテーマがあった。2000年に放映されたシリーズ11の15回目「特別エピソード」である。当時、アメリカでもリアルタイム番組が、いろいろと議論になっていたのだろう。内容は以下の通りだ。

 部屋でみなが言い争いをしているが、そのうちビルの下に死体があるのを発見。それが参加者のウェス・テータムであることがわかる。警察が来て取り調べているが、撮影隊はその模様をとりたがる。素早く制作責任者は、出演者を避難させてしまうが、屋上から落としたのは、ジャンキーだと主張。やがて集められた出演者たちは、ウェスを付き合いにくい嫌なやつだといい、ジェレミー・ポールと揉めていたと白状する。ジェレミーは、彼に我慢できなかったからやり合ったと認める。現場責任者は、番組は問題がないならつまらないのだと主張し、捜査に協力しないと宣言。警察は、番組の予定表を入手、すると、当日予定の記入されていないカメラマンがいることがわかり、調べると、15時間も撮影していたことを白状し、当日現場の屋上で、事件を撮影していたことを認める。そこで、その映像の提出命令を出すが、判事による審査となり、判事の命令で、判事、検察、弁護士が映像をみると、ウェスとジェレミーが争って、ジェレミーがウェスをビルから突き落としてしまう場面が写っている。その後、ウェスがジェレミーを徴発するように指示されていたことがわかり、指示したのは誰で、どのようにしたかが問題となる。結局、テレビ局の若い副社長のスタークが、スウィート週間(特別に力をいれて番組を作る期間)に、評判をとるために、ウェスをけしかけたことがわかる。しかし、リアルタイム番組は現実的であることが求められ、トラブルに人気があることを認めるが、それ以外はすべて否定。検察は、「口論」の候補者リストがあり、それに基づいて、番組制作の相談をしている団体があることを突き止め、そこで、「一番死んでほしい候補」を「ウェス」とスタークが述べていたこと、そして、ジェレミーが突き落としてしまったあと、ウェスが倒れていくところにいくと、まだ息があり、「スタークにけしかけられた」と死の間際に言っていたことが、明らかになり、結局、司法取引で有罪をスタークが認めることになる。

 制作側が、視聴者の興味を引くために、ある種のトラブルを好むことは認めるが、やらせではないと主張するのは同じだ。それは、なにか重大な事故が生じても、それは出演者たちの責任であると主張するためでもある。Law & Orderのドラマでは、制作者は、出演者を決めるときには、厳格な審査をして、精神的な安定をもっていることが、絶対条件であると、警察に主張する場面がでてくる。しかし、実際には、トラブルメーカー的な出演者が混じっている。
 警察も検察も、この件では、直接に突き落とすことになったジェレミーを起訴はしていない。少なくとも、起訴して量刑が決まる(つまり司法取引をしている)場面は出てこない。検察のマッコーイと、カーライルは、総責任者こそが、直接の責任を負うべきであると考え、逮捕、起訴するが、当初は、まわりもかなり意外に受け取っている。というのは、彼は直接細かいところでの指示をだしているようには見なされておらず、若いが副社長である。しかし、喧嘩をあおるようにウェスに指示し、実は、ウェスが一番「死んでほしい」(殺したいという意味ではなく、おそらく、なんらかの理由で番組中に死んでしまうことになれば、視聴者への訴えという点で好ましいという意味だろうと解釈する)人物だったと述べていたと、明らかにされてしまったことで、当人が有罪を認めることになるわけだ。
 これはあくまでもドラマだから、限定的に受け取る必要があるが、Law & Order という番組の主張は明確であると受け取れる。
 つまり、リアルタイム番組で、なんらかの指示の下で事故が起きた場合、直接番組の出演者として事故を起こした当人ではなく、それを指示した制作側が法的責任を負うべきだという主張である。
 しかし、日本ではそういう主張は、なされるが、ほとんどあいまいにされてしまい、結局、出演者本人が、マイナスの影響を受けてしまう。テラハ事件でも、番組制作者であるフジテレビは、なんら責任をとっていない。番組を中止したという程度の責任のとり方で終わっている。最初に書いたように、アメリカならば、中村さんの遺族が、おそらくフジテレビを提訴したのではないだろうか。ドラマではあるが、Law & Orderでは、副社長が起訴されているのだ。日本でも、今後、SNSで誹謗中傷した者に対する提訴が行われる可能性は小さくないと思うし、そうすべきであるとも考える。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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