4月27日に、北朝鮮情勢について書いたが、その後大きな変化があった。27日には、金正恩が政治的には死んでいること、政治的に内部抗争が生じていること、その後混乱が起きる可能性があることを書いた。
5月1日に、肥料工場の竣工式に出席するという形で、金正恩とする人が登場し、これまでの病気説、死亡説を覆したということに、一応なっている。しかし、それでも、その報道をそのまま受け取られない人たちも少なくない。そうしたさまざまな見解をチェックした上で、再度書く必要があると思った。
登場した金正恩についても、実は多様な見方があり、登場によって「ひとつ」になったわけではない。
ひとつは、替え玉(影武者)説であり、これも、既に昨年から影武者が登場していたとする説と、今回の人物は影武者だとする説がある。替え玉説にたつ人は、金正恩の鼻、ホクロ、耳たぶなどをさまざまな写真を検討することで、何人かの異なる金正恩なる人物がいて、その一人以外は替え玉である、そして、今回もそうだとする。もちろん、それぞれの写真を検討しつつ、明確な違いは認められず、単にたまたま太っている時期か違うか、写真を撮ったときの確度などで生じる程度の違いだとする説がある。ただ、たまたま私が今回チェックしたものでは、影武者説の人は、右目脇のホクロを強調していたが(ある写真とない写真がある)、本人説の人は、そのホクロは問題にしていなかった。
私自身は、影武者など現代ではありえないということは、言い切れないと思う。金正恩のような独裁者は、必ずしも頻繁に市民の前に現われるわけではないし、写真は加工が可能な時代だから、ありえないわけではないだろう。
第二の本人説も、健康だとする説と、本人ではあるが、健康を害しているとする説がある。健康説の人は、今回の不在は、新型コロナウィルスの感染から逃れるために、平壌から離れる必要があったとする。そして、不在の間、各国の反応を見極めていたという。それに対して、やはり病気であり、手術もしたのだが、とりあえず、今回無理をして出てきたという説の人もいる。
さて、どれが正しいのだろうか。少なくとも、北朝鮮のメディアが本人を登場させたのだから、これまでの議論には決着がついたなどというのは、国家の報道が、歪曲を含んでいることが多いことは、歴史的に明らかなのだから、そのまま信じるわけにはいかないと思う。つまり、影武者の可能性も絶対的には否定できないのではないか。ただ、実際に出てきたとされる金正恩の姿をみても、かなり不健康であって、歩き方がまったくおかしいし、カートを使って移動するなど、一国の指導者としての躍動感などはまったく感じない。顔もかなりむくんでいて、無理していることは明らかだと感じた。トランプにあったときなども、それほど移動しているわけではないのに、息を切らしていたというから、それ以上の悪い状態なのだろう。とすると、逆に、わざわざ健康とはいえない人物を出してきたことは、影武者説にはたちにくいともいえる。影武者なら、もっと健康な人物をだしたほうがいいからである。
不在のときには、通常の指示などが簡略化されていたとか、あるいは、アメリカ軍が偵察飛行しているのに、何ら反応しなかったとか、やはり、政治的空白状態だったことは否定できないだろう。しかも、新型コロナウィルスが怖いから、ある意味政治的に必要な場から逃げるなどということは、権力性が弱まることは避けられない。やはり、健康問題はずっと以前からあって、いよいよ政治的空白が生じる程度になり、中国などの干渉をも引き起こしてしまったという可能性も考えられる。おそらく、北朝鮮の権力内部には、アメリカとの関係を築いていくことを主眼としたいグループがあり、伝統的に中国との結びつきを維持すべきとする勢力とが、争っていると考えるのが自然だろう。その決着は、まだ先のことに違いない。政治的死亡説は、こうした点から、多少大げさではあるとしても、基本的には、いまでも維持できると考えている。