ロシア国民は今後も従順なのか

 ウクライナ戦争では、相互にドローン攻撃で相手に損害を与えている。しかし、その傾向はまったく異なる。ロシアが、大量無差別攻撃を行うことで、民間に損害を与えているのに対して、ウクライナは、とりあえず民間を狙わず、軍需工場、石油精製・貯蔵施設、そしてエネルギーを運搬する鉄道などを標的にしている。
 ウクライナは2022年いらいずっと爆撃の被害を受けているから、ある意味免疫が強くなっており、また、ロシアの意図通りになって、降伏すれば、より過酷な運命がまっているから、頑張らなければならないという精神が勝っていると思われる。
 他方、これまでロシア国民は、直接爆撃を受けるようなこともなく、住宅が破壊されたり、病院が爆撃されることもない。だから、戦争は関係ないことのように生活してきた人が多いようだが、ここにきて、ウクライナによる石油施設の攻撃によって、にわかに石油不足という事態に見舞われている。今後もウクライナは徹底的にこの攻撃を継続するだろうから、エネルギー不足になる国民の範囲は次第に増大していくはずである。とくにこれから冬にかかるので、極寒の地であるロシアで、エネルギー不足で暖房が使えないとなると、命にもかかわる事態の危険性がある。
 ウクライナは侵略されている側だから、どれだけ被害が大きくても、闘わねばならないという意識が消えることはないだろう。また、これまで一方的にやられてきた感のある状況から、ロシアへの空爆によって、戦争能力そのものを削いでいる状態になっているから、希望もでてきているだろう。
 ロシア国民は、周辺自治共和国のように、兵隊にとられていた人びとは、戦争の悲惨さを肌で感じているだろうが、モスクワ周辺の人びとは、ほんとうになんらの疑問も感じず、むしろ、ロシアのやっていることは正しいのだ、という感覚をもっているひとたちが多いように感じられた。現地のひとに意見をもとめるyoutube番組などでみるかぎりそうだ。
 今後、ウクライナの攻撃がより効果をあげて、エネルギー不足がどんどん進行して、電気もつかない、暖房もつかえない冬がきたとき、ロシア国民は、どうするのだろうか。
 私は戦後生れなので、戦争中のことは実態をしらないが、記録によれば、どんな酷い爆撃(たとえば東京大空襲、原爆)をうけても、国民が政府に不満をもってたちあがるということがなかった。敗戦となる前の半年は、全国でアメリカによる空爆が行われ、多大な犠牲者や建築物の破壊がおきていた。しかし、反政府運動は起きなかった。もちろん、労働組合や共産党などが徹底的に弾圧されて、力を失っていたということもあったが、それでも自然発生的な反戦運動がおきても不思議ではない状況だったといえる。封建時代の徳川時代ですら、一揆がおきていて、領主の施策を変えさせることはあったのである。明治以降のほうが、そういう意味で、住民の反撃、反乱などは少なくなっていったし、とくに昭和になってからは、むしろ反乱をおこすのは軍部のほうになっていた。
 どうして、このような国民性が育ったのか。戦後しばらくは労働争議なども少なくなかったが、現在ではストライキですら、滅多に起きない。
 おそらく、権力に従順という意味では、現在のロシア国民は日本人に似ているかも知れないと思う。これは、やはり、明治以来の政府のやり方、つまり、徹底的に反対運動を弾圧するということが効果をもったのであり、ソ連とロシアでは、スターリン体制とプーチン体制の「成果」なのだろう。スターリン体制は、革命後の混乱を切り抜けた2代目指導者であるスターリンの独裁であり、プーチンは、ソ連を倒したクーデターのあと、やはり2代目大統領である。政治の安定のために、徹底的な弾圧政治を行った点で共通している。そして、国民にとっては、混乱から安定をもたらしてくれたという意味での消極的支持があるのだろう。
 今後ロシア経済と国民生活が落ち込んでいくなかで、国民がどのように対応するのか、従順なままの宮中クーデタによる政権交代になるのか、あるいは国民が積極的な反乱がプーチン体制を倒すのか、また別の道になるのか。ロシア国民の「従順」さという観点からも注視していきたい。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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