ちょっと風邪気味で寝ていたのだが、youtubeを見ていると、偶然ショルティ指揮のシカゴ交響楽団によるマーラー5番の映像が出てきたので、全部聴いてしまった。寝ながらのイヤホンなので、音はまったくよくなかったが、いろいろと興味深いものだった。
半月ほど前に、私が所属する市民オケでもこの曲を演奏したのだが、練習の合間に話題になったのは、第3楽章でソロのホルンが目立つにような位置取りをして演奏するのが多いが、いつからそうなったのだろうか、ということだった。私がライブのこの曲を4、5回聴いていたのだが、80年代以前で、ずいぶん前のことで、ホルンを立たせたり、前にだしたりはまったくしなかった。私が知っているかぎりでは、ラトルがベルリン・フィルの音楽監督になった最初の演奏会で、マーラーの5番を演奏したのだが、そのとき3楽章でホルンの首席を協奏曲のソロの位置、つまり指揮者の横に立たせて演奏させていたのが、最初であった。その映像をみてびっくりした記憶がある。その後、前に立たせることはあまりないとしても、特別な位置にたって演奏するのは、なんども映像でみた。私たちの演奏会では、座って演奏したが、それでも、時間をとって、木管のフルートの位置あたりまで出てきて、特別感をだしていた。
このシカゴの演奏では、そうしたことはまったくなく、また、演奏会場に見覚えがあるので、情報をみると、1986年代、東京文化会館での演奏だった。おそらく、NHKで放送されたものの録画なのだろう。著作権の処理がどうなされたのかはわからないが、youtubeでみられたのは、ありがたかった。
もうひとつ気付いたのは、演奏者に高齢者が実に多いということだった。私たちの練習のとき、指揮者が、シカゴ交響楽団の名物トロンボーン奏者がついに退団したようですね。80歳代だったそうです。アメリカのオーケストラって、定年がないので、本人が辞めるというまで辞めないのだ、という話をしていたのを思い出し、たしかに、ヨーロッパや日本のオーケストラなら、当然定年で辞めているだろうというようなひとたちが、たくさんいるのだ。アメリカでは、定年制度というのは、年齢による差別であるという社会的な認識があるので、通常定年というシステムはないといわれている。たしかに、アメリカの大学の教授は、テニュアという資格をとると定年がなく、本人の意志が続くかぎり教授でいられる。100歳のピアニストとして有名だったホルショフスキーは、亡くなるまで、たしかカーティス音楽院の教授で、NHKで放映されたドキュメントでは、授業として、自宅で学生に教える場面があった。おそらく、日本のような年齢給ではなく、教えた時間枠によって給料が計算されるのではないかと思うし、また、日本のような年功給ではなく、一般的に職務職能給だから、定年はなくても雇用側は困らないわけである。
ただ、オーケストラのような、かなり肉体を酷使するような職業では、高齢になれば技術的な低下が起きるので、80歳を超えて演奏するというのは、困難なのではないかと思うのだが、70歳代の奏者はけっこう存在しているようにみえた。
そういう平均年齢がえらく高いオーケストラであるが、厳格なショルティの指揮の下、実に楽々とこの難曲をこなしていた。テンポは速めで、しかも、最近よくあるこまかくテンポを動かし、大きく表情つけをするのではなく、しかし、ダイナミックレンジは広く、怒濤の進軍のような雰囲気の演奏に感じた。2、3日前にネルソンス指揮ルツェルン祝祭管弦楽団の演奏を聴いたのだが、(これもyoutube)ショルティとは正反対の、濃厚な味付けと工夫をした演奏だった。これはアバドがなくなって代役を務めた演奏だが、時代とともに工夫が必要だと指揮者が感じるようになるのだろうか。
それにしても、あの難曲を速いテンポで演奏しているのに、こともなげに楽々と弾いているように感じさせるのは、やはりシカゴは、スーパーオケだと感じた。