ドホナーニが亡くなった

 今月6日に、指揮者のクリストフ・フォン・ドホナーニが亡くなった。ブムロシュテットについで、現役最長老指揮者だった。冥福を祈りたい。
 ただ、私は、ドホナーニをほとんど聴いてこなかった。もっているCDは、ブラームスの1番と2番、そして、リヒャルト・シュトラウスの「サロメ」のロイヤル・オペラのライブDVDだけだった。ブラームスは単品で購入したので、聴いたと思うのだが、あまり印象に残っていない。サロメは悪くないけれども、なんといっても、サロメにはカラヤンの圧倒的名演があるので、どうしても辛くなってしまう。というわけで、優れた指揮者であることは充分に認識していたが、普段聴く対象ではなかった。
 しかし、亡くなったということになると、きちんと聴いておくべきだと思い、とりあえず、「クリーブランド・ボックス」を注文して、今日届いた。ドホナーニは主にヨーロッパで活躍した指揮者だが、1992年から2002年まで20年間、クリーブランドの音楽監督を務めていて、このボックスの評価が非常に高い。経歴からみて、ヨーロッパの典型的なオペラ劇場でたたき上げた指揮者だが、残念ながら、このボックスには、オペラは、ワーグナーの「ラインの黄金」「ワルキューレ」の2曲しかない。当然、指輪全曲の録音をめざしていたのだろうが、中止になったのだろう。アメリカで、アメリカのオーケストラをつかって、ワーグナーのセッション録音するというのは、かなりの費用がかかるはずで、費用と販売実績との関係で、中止になったと考えるのが自然だろう。
 このボックスをみると、なにか中途半端さが目立つのだ。ブルックナーは、1と2が欠けており、マーラーは、半分しかない。実力の割に、それにふさわしい人気ではなかったために、録音にも制約がかかっていたのかも知れない。
 ボックスが届いて、モーツァルトの「ハフナー」マーラーの5番、そして、「ワルキューレ」の一幕を聴いた。
 これみよがしの味付けをしない指揮者という印象だ。誠実な演奏というべきだろう。「ハフナー」は、上品な味わいのある演奏で、とてもよかった。
 しかし、マーラーの5番は、少々不満だった。実は、この曲を、市民オケで先日演奏したばかりなのだ。そのときの指揮者は、この曲の「のめり込むような感触」を強調する人で、この曲をしきりに「演歌」だといっていた。テンポの揺れを強調し、歌うところは徹底して歌わせるような演奏をした。それに対して、ドホナーニの演奏は、もちろん、超一流オケの演奏だから、しっかりしているのだが、この曲を上品に演奏しているような感じで、やはり違和感を感じるのだ。古典的な交響曲として演奏したと評されたカラヤンですら、ずっと味付けが濃いし、歌うときには、徹底して歌う。ドホナーニでは、とくに激情的な第2楽章は、あっさりした感じで物足りなかった。
 続いて「ワルキューレ」の一幕を聴いた。最初はよかったのだが、次第に緩んできて、有名な最後の二重唱は、私には物足りなかった。あの場面はジークムントとジークリンデ二人が兄妹であることを認識し、かつ愛しあう高揚感に溢れた音楽だから、もっと推進力がほしいのだが、何か落ち付いた雰囲気だったのが不満だ。それとオーケストラと歌唱のバランスが、歌手が過度に浮きでるような響きだったが、実際にはもっとオーケストラがひろがりをもって包み込むような音響がほしかった。
 私は、まだまだドホナーニの音づくりに慣れていないということかも知れないので、もっとたくさん聴いてみるつもりである。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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