鬼平犯科帳 昔の人は記憶力がよかった?

 鬼平犯科帳を読んでいて、特に感心することに、「記憶力」がある。とにかく、登場する人物の記憶力かよい。もちろん、小説だから作り事ということで済ませることもできるが、しかし、記憶というのは、様々な形態があって、時代とともに伸びるものもあるし、衰えるものもある。現代人は、多くの人が感じているのではないかと思うが、記憶力は落ちていると思われる。よくいわれるのが、昔は知人の電話番号などをいくつも覚えていたが、今は自分の番号すら忘れがちだ。私も実はそうだが、よく聞く話だ。口承文学は、人が覚えて伝えられたものだし、平家物語は、琵琶法師が暗唱していたものを吟唱したという。
 もちろん今でも、舞台俳優は、かなり長い台詞を覚えているわけだし、落語家も一人で50分近い話を語り続ける。しかし、そうした人は、覚えることが仕事であり、日常的な鍛練によって記憶力を鍛えているに違いない。
 ところが、鬼平犯科帳に登場する人たちは、記憶のスペシャリストというわけではない。それが非常な記憶力を発揮する場面が、たくさん出てくるのである。

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鬼平犯科帳 長谷川平蔵の油断

 長谷川平蔵は、何度か危機的状況に陥ったことがあるが、その最大の危機は、京都に父の遺骨処理のために、休暇を利用して訪れていたときだった。休暇中であったにもかかわらず、虫栗一味をほとんど一網打尽にするという、実に水際立った働きを示した直後のことだ。にもかかわらず、この後で起きた事態は、まるで長谷川平蔵らしからぬ、間抜けな行動の連続によって起きたのだった。小説だから、どうということもないが、どこがどう問題だったのか、やはり、考察したくなるのである。
 この逮捕劇で一躍有名人になってしまった平蔵は、江戸に帰ろうとするが、奈良見物を京都西町奉行の三浦伊勢守に勧められて、断りきれず承知する。しかし、虫栗一味の吟味の間暇なので、同行の木村忠吾と一緒に、愛宕山参詣にいく。しこたま飲んだあとの帰途、突然女に助けを求められ、脇差しを抜いて追いかけてきた30男が、女を差し出すように頼むが、それを追い払う。このとき、平蔵は、この30男が「只者ではない」と直感している。その後女を連れて、宿に帰る途中、この男があとをつけてくるのだが、平蔵は、それをうまく撒いてしまう。つまり、この日既に、只者でない男が、一端引き下がったのに、あとをつけてくる、という事態を、後々気にしていない。これが第一の油断。 “鬼平犯科帳 長谷川平蔵の油断” の続きを読む

鬼平犯科帳 鬼平の危急

 久しぶりに鬼平について書きたくなった。鬼平のドラマを見ることができるサイトの契約をとめてしまったので、あまり書かなくなったのだが、小説は、何度も繰り返し読んでいる。小説にしても、ドラマにしても、鬼平が大変な剣術使いで、ドラマでは必ず最後は平蔵が切り合いの先頭にたって、盗賊と闘う場面になる。実際にこのような切り合いは、ほとんどなかったそうである。町奉行や火付け盗賊改めが捕縛にやってきたら、ほとんどは抵抗もせず、大人しくお縄についたと、歴史書には書かれている。それでは時代劇として面白くないから、切り合いをいれるのだろう。
 小説やドラマでは、更に、平蔵が襲われたり、あるいは騙されて、盗賊の集団に囲まれ、あやうく命を落とすという場面がいくつかでてくる。そのなかでも、もう一歩援軍が遅れたら、確実に死んでいたという場面もいくつかある。

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Law & Order 自殺幇助問題

 日本でも、医師による嘱託殺人が起き、実行者は起訴されたが、丁度今、Law & Order で自殺幇助をテーマにしたドラマを見た。18シリーズ1回「残像」。妻と子どもが自宅に帰るのを見送ったトーマスが、そのあと塩化カリウムを自ら注射して、自殺する。しかし、他殺の可能性もあるので、とりあえずグリーン(殺人課の刑事)が呼ばれる。そのとき、トーマスの弟のルーポ(刑事)が、帰国し、自分も捜査に加わりたいというが、身内だから難しいという話をしているところに、もう一人の同じような自殺事例が発生する。そこでルーポも加わる。(その後相棒となる)
 仮釈放になっているリンガード(以前自殺幇助で実刑判決を受け収監されていた)に会いに行くが、自分は関係ないと言い張る。
 トーマスは、末期癌でかなり苦しんでいることで、覚悟の自殺だったが、もう一人のドリスコルは、ジャーナリストのノーランが、自殺をする現場におり、映像にとって、放映することになっていることを知る。しかも、ノーランは、10年前、リンガードが疑われた自殺幇助事件で、リンガードに実行したことを白状させた人物だった。

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Law & Order 安楽死とキリスト教原理主義 シリーズ16第4話

正確には、ドラマで実行されようとしたのは、安楽死ではなく、尊厳死だ。身体につないでいる管を全部抜く手術をするという確認から始まる。夫ロバートは、妻カレンに、約束した通りにする、と呼びかけるが、カレンは答えない。かといって、植物状態ではなく、ロバートを見つめている。従って、彼女の意志の本当のところは、ドラマは明らかにしない。これが最後の場面につながっている。
 医師との確認をしたロバートは、車に乗って出ようとする。外には12団体の尊厳死反対の団体がデモと集会をして、激しくロバートを罵る。日本だったら、こんなに正々堂々と正面から出ないと思うし、アメリカでも多少の配慮をするのではないかと思うが、ここはドラマなので、乗車して少し走り出した途端に爆発して、当然ロバートは即死、まわりにいた人も4人が怪我をする。

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Law & Order リアルタイム番組のでのトラブル 誰の責任か

 テラスハウスの番組の内容で誹謗中傷を受けた出演者の中村花さんが自殺した事件は、記憶に新しい。私自身は、この手の番組を見ないので、番組にかかわることはわからないが、その後のSNS上の誹謗中傷については、関心があり、ブログに既に書いた。ただ、この事件の問題には、番組そのものの「やらせ」要素もずいぶんと議論になっているようだ。台本はなく、ごく自然に起きていることをカメラが追う、というふれこみだが、台本があるのではないか、台本ではなくとも、何らかの指示があるのではないか、しかも、対立を煽るような指示があるのではないか、というようなことが、多くの人に疑念として抱かれているのだろう。もし、これが、アメリカで起きた事件ならば、何らかの裁判になった可能性がある。もちろん、日本でも今後、何らかの提訴もありうるのだが。
 Law & Order をずっと見ているのだが、そのなかに、まさしくリアルタイム番組を扱ったテーマがあった。2000年に放映されたシリーズ11の15回目「特別エピソード」である。当時、アメリカでもリアルタイム番組が、いろいろと議論になっていたのだろう。内容は以下の通りだ。 “Law & Order リアルタイム番組のでのトラブル 誰の責任か” の続きを読む

law & order 飲酒運転と植物人間へのレイプ

 Law & Orderをみていると、日本とまったく法意識が逆ではないかと思うことがある。シリーズ8には、そう感じる例がふたつ続いた。
 3人がひき逃げ事故にあって死亡した。犯人が捕まるのだが、犯人とその弁護士は、飲酒運転をしていたので、意識がなく、無実であると主張する。そして、飲酒の事実を認められれば、無罪が確定するかのようにドラマは進行する。たまたま担当した判事が、飲酒運転撲滅を強く意識しており、この裁判をそれに活用しようとする。しかし、検察としては、ここで法の矛盾に突き当たる。犯人は、飛行機で飲酒をして、そのまま運転し、ひき逃げをするのだが、検察は、飛行機内で世話をしたCAに聴取する。15杯くらい飲み、ぐでんぐでんに酔っていたことがわかる。検察は、それでは無罪になるというので、それを隠そうとする。判事とも険悪になったりするわけだ。最終的には、3人も轢いて殺してしまったことへの反省の気持ちを引き出し、取引をするのだが、このドラマをみて、日本人ならそもそも納得できないものを感じるだろう。
 日本なら、飲酒運転で事故を起こせば、それだけで有罪だし、まして意識がないほど泥酔して、3人もひき逃げしたら、かなりの重罪になるはずである。酔っていたので意識がなく、故意ではないから無罪だ、などと思う人間はまずいないといえる。しかし、アメリカでは、無罪なのだろうか。まさか、法の規定を無視したドラマを作るはずもないのだから、なんとも不可思議だ。 “law & order 飲酒運転と植物人間へのレイプ” の続きを読む

Law & Order どちらが殺したのか

 第8シリーズ第4回は、非常に難しい、しかし興味深いテーマだった。
 誕生日のプレゼントを贈るために、友人に安く売ってくれるように頼み、ニューヨークの夜の暗い場所で待ち合わせる。妻は夫と一緒にそこにいくのだが、嫌がり早く帰ろうというが、夫は、約束なので車から出ると、待ち伏せていたのは、「殺人をしてみたい」という若者で、いきなり車内にいた妻を撃って逃走する。夫は急いで病院に運ぶが、頭部を撃たれていて重体だ。車内には小さい女の子が乗っていて、帰宅したあと、両親が喧嘩していたと警察に告げる。誤解した警察は夫を逮捕するが、直ぐに誤認だったことがわかり、捜査の結果、若者3人の仕業だったことがわかる。最終的に、そのなかの一人が、殺人そのものに興味があって、撃ったことを突き止める。
 助かることを期待していた夫に、脳死状態になったので、臓器提供をしてほしいという要請があり、夫はそれに応じる。
 裁判が進行するなか、検察が、妻のカルテをみて奇妙なことに気づく。死亡時刻、死亡診断書を書いた医師、そして、臓器摘出の時間があいまいだった。そして、臓器摘出した時点では、まだ妻は生きていたのではないかと判断する。そして、それがやがて被告側にわかってしまうと、殺人罪を問えなくなるので、漏れる前に、司法取引に持ち込もうとするのだが、何かおかしいと感じた弁護士が、取引を拒否する。そして、証拠提出をせまり、検察が隠していたことを突き止め、殺人罪が成立しないことを主張する。 “Law & Order どちらが殺したのか” の続きを読む

Law & Order 黒人の暴動

 主にニューヨークの犯罪を扱ったドラマだから、当然黒人問題が様々な観点から関わっている。そのなかで、現在起きているアメリカの騒動を考える上で、Law & Order の第4シリーズ19回目を紹介したい。こちらの暴動は、今起きている状況より、ずっとおとなしいが。
 二人の黒人の少年がバスケットのボールでドリブルをしながら、ハーレムの歩道を歩いている。後ろから知り合いと思われる黒人少年が走ってきて、ボールを奪い、しばらく進んであと、後方に大きく投げる。とられた一人が、ボールを追いかけ、車道に走り出て、丁度走ってきた車に轢かれて死亡する。轢いたのは、ユダヤ人のバーガーだったが、その場は逃げてしまう。そして、数時間後に弁護士を伴って自首する。
 ドラマをみている者は、たぶん防ぎようがない事故だったろうということと、逃げたのは何故という疑問をもつ。ベーガーは「ハーレムで黒人を轢いて、無事にいられるか?」と逆に刑事たちに問いかける。不可抗力の事故だったので、自分から警察にやってきたのだという。検事も起訴すべき事案ではないと考えるが、そのままに不起訴にするのもどうかと、大陪審(起訴すべきかどうかを、市民の審議にかける場)にかける。結果は不起訴となる。 “Law & Order 黒人の暴動” の続きを読む

Law & Order 死刑をめぐって

 アメリカは、日本とともに、先進国として死刑制度を残している例外的な国である。もっとも、多くの州は廃止しており、制度的に許容している場合でも、実際の死刑判決がほとんどでていないというところも多い。Law & Order は、ニューヨークを舞台としているが、1995年にパタキ知事によって再導入された。Law & Order は、第6シリーズにあたり、このシリーズでは死刑の話題がしばしば登場する。そして、実際に死刑判決がでるのが第3回で、死刑執行がなされるのが最後の第23回である。
 ある死体が発見されるが、それは潜入捜査官クロフトだった。死刑が再導入された時期だったので、警官が殺害されたとあって、刑事たちは必ず犯人を捕まえると意気込み、検察は最初の死刑適用事例にしようと考える。結局、犯人は、表は社会的地位が高く裕福な公認会計士のサンディグであり、家族と幸せな生活を営んでいるが、裏では、麻薬王の一人の手下で、公認会計士としての地位を利用して、資金洗浄に協力していた。それをクロフトに嗅ぎつかれて殺害したのだった。 “Law & Order 死刑をめぐって” の続きを読む