市立小プールの水、流し続けで市教委、担当教諭に弁償請求

 川崎の市立小学校で、5日間(他の記事では6日間)にわたり水を流し続けるミスがあり、損害額が190万になった。そして、担当教諭と校長に過失があったとして、損害の5割95万円を2人に請求したという記事が話題を呼んでいる。「小学校プールの水、5日間出しっ放し 川崎市が教諭らに賠償請求 損害額は」
ヤフーニュースでは、記事の翌日時点で2000件以上のコメントがついている。
 この記事では詳細がわからないが、とにかく、担当教諭がミスをしたことは間違いないだろう。そして、損害が200万円近くになり、教育委員会が校長と担当教諭に弁償を請求したという骨格は、間違いないようだ。

 
 これは、弁償請求が適切であるかというこの事例の問題と、そもそも学校のプールで水泳指導をすることが妥当か、というふたつの問題がある。実は、このプールの水をめぐるミスは、少なからず起こっており、しかも、その損害額が非常に大きくなる。ガラスが割れたというのとは違う。しかも、実は意外に複雑な作業を要求されるにもかかわらず、こうした担当に割り当てられるのは、滅多にないことで、しかも、担当にあたったとしても、かなりの回数をこなすということもない。つまり、複雑な作業を習熟する機会がないまま、かなりおっかなびっくりで作業をしているのが、実態ときいている。そういう状況だから、ミスも当然おこりやすいし、損害が発生するのだが、担当教師に弁償責任を負わせることは、ほとんどないはずである。そんなことをさせられては、教師としてもたまらないだろう。故意に行ったのだとしたら別だが、ミスはだれにでもおきるものだし、しかも、この作業には、ミスはめずらしくないものだ。そして、たまたまやりたくもない担当にさせられて、意図的でないミスによる損害を弁償しろ、しかも数十万円を要求されたら、教師を辞めたくなるに違いない。
 やはり、圧倒的多数のコメントが主張しているように、教諭や校長に弁償責任を負わせるのは間違いであろう。
 
 さて、こうした事故が比較的よくおきるということを考えても、学校でのプール授業がいかにおかしなものであるかがわかる。何度か書いたが、学校にプールをつくり、学校のプールで水泳指導をすることは、順次なくしていくべきである。20年近く前に、市内の小学校全面建て替え(敷地も移動)の際に、協力したことがあるのだが、そのとき、プールをつくらないことを提案した。というのは、開発のため学校の場所がかわり、その場所にはショッピングモルが建設され、最低2つのスイミングスクールが開校することがわかっていたからだ。契約によって、授業をスイミングスクールにまかせたらどうか、そうすれば、学校敷地内にプールをつくる必要がないし、水泳の授業をする必要もなくなる。実際にヨーロッパの学校は、そうしている。私の娘がオランダで一年間小学校に通ったときに、一年間水泳の授業を市のプールで行っていた。(学年ごとに体育の種目が決まっており、娘は水泳の年にあたっていた)
 これにはかなりの利点がある。
・学校の授業でもっとも多い事故は、水泳である。水泳はかなり能力差がある一方、実際に泳げて、泳ぎの指導が適格にできる、そして、事故対応などにも習熟している小学校の教師は、極めて少ないのが実情である。ほとんどいないといってもいいのではないだろうか。かなり以前は、小学校の教師の採用試験に、水泳の実技試験があったが、いまはそんなことはしていない。また、実技試験があった時期にも、とにかく25メートル泳げれば合格だった。いまは、そうした試験すらないから、まったく泳げない教師がいても不思議ではない。だから、水泳の授業は、事故が多くなる。
・学校のプールは、外につくるために、年間の利用可能時期が、極めてみじかい。現在では、スイミングスクールはごく当然のこととして、温水プールであり、年間を通じて活用されている。学校のプールは施設として、実に無駄な利用しかされないのである。
・学校の教師は水泳指導の素人だが、スイミングスクールでは、レベルはさまざまだろうが、水泳指導の専門家が指導をしている。学生アルバイトなどもいるようだが、それでも泳げること、緊急事態の対応の講習をうけていること、などは確保されているだろう。
 
 こうした点を考えれば、近くにスイミングスクールがあれば、学校の水泳の授業を依託することは、じつにwin-winの関係となるのである。学校は、無駄なプールという施設をつくらずにすみ、素人の教師が水泳の授業をしなくてもよい。そして、スクール側からすれば、委託料が極端に少ないとしても、かなりの子どもたちが、スイミングスクールの生徒になってくれる可能性がある。充分な見返りが見積もられるのである。しかも、昼間の利用者が少ない時間帯を、学校の授業で埋めることもできる。
 
 私が、以前学校つくりで水泳授業の民間依託を提案したときには、教委のひとで賛成してくれた人は一人だったから、一蹴されてしまったが、現在では、実際に民間スクールに依託している学校や市町村はけっこう出てきているのだ。そして、ヤフコメでも、そういう見解を書いている人がけっこういた。
 このようにすれば、教師の負担も軽減されることになる。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

「市立小プールの水、流し続けで市教委、担当教諭に弁償請求」への2件のフィードバック

  1. >私が、以前学校つくりで水泳授業の民間依託を提案したときには、教委のひとで賛成してくれた人は一人だったから、一蹴されてしまった

    情けないことですね、いじめ等の対応でもよく問題になる教育委員会のレベルが分かろうというものです。もっとも、貴殿ももっとしつこく(笑)説得できなかったのでしょうか(失礼!)。

  2. コメントありがとうございます。おっしゃるようにもう一押しすべきだったかもしれませんが、通ることはなかったでしょう。多勢に無勢ですから。それに、当時は、水泳授業を民間依託している学校は、なかったと思います。私が、そういう学校があらわれたことを知ったのは、ずいぶん後でした。いまでは、そうしないまでも、そういうこともありだと考える人が少なくない状況になったと思いますが、それでも、とくに教育関係者は、授業は学校が行うものだ、という意識が強いのではないでしょうか。そうはいっても、教科書や副教材をつくっているのは、出版社だし、制服、スポーツウェアなど、そろいのものも民間業者に発注、そして、修学旅行なども、民間の旅行会社と提携して行っているはずで、民間依託はそうとうはいっているわけですね。素人の教師より、プロの指導員がやってくれるのは、まかしたほうが、とくに安全にかかわる授業は、ずっといいと思うのです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です