教員の処遇改善50年ぶり?

 ヤフーニュースに共同通信配信の記事「教員処遇改善、50年ふり増額へ 月給上乗せ10%以上案」という記事が掲載されている。
https://news.yahoo.co.jp/articles/56ef3cf91cea5e893d9af2878be9e9eb439b69f7
 公立学校の教員に対しては、残業手当を支給しないかわりに、基本給4%の特別手当を支給し、その代わり、残業をさせる業務を限定するという形になっている。その4%を10%以上にあげるという案が検討されているということだ。
 私自身は、残業手当という方式も、また、この教職特別手当の方式にも賛成ではなく、別の方式を構想しているが、とりあえず、現行制度を前提に考えれば、あげることは反対ではない。近年の教職に対するあまりに不人気な状況が、文科省すら危機感をいだかせているということだろう。
 しかし、この手当値上げによって、教師の過重労働が改善されるとは思えない。過重労働は、労働量そのものを削減することによってしか改善されないからである。当たり前のことだが。逆に、特別手当をあげたのだから、決められた残業はもっとやれ、などということになりかねない。
 現在の教師の仕事のなかには、本来教師がやる必要のないこと、他の職種の教育労働者がやるべきことがたくさんあるということだ。たとえば、授業を妨害するような生徒がいることは事実であり、担当教師がある程度対応する必要があるとしても、ある程度以上の妨害行為に対しては、私は管理職が引き受けるべきであると思うが、ほとんどが担任教師に押しつけられている。また、保護者のクレーム対応なども、担任であつかえる程度を超えている場合がしばしばあるが、それも管理職が対応を引き受けるべきだろう。文科省は、これまで一貫して、校長の権限を強化する政策をとってきたが、校長が担うべき責任もきちんと行わせるような対応を十分にはとってこなかった。
 また、教委や文科省から、実施を依頼される各種調査なども、管理職がかなりの部分を引き受けるべきであるが、担任教師に押しつけられる傾向がある。
 こうしたことは、いくら手当があがっても、仕事の量が減るわけではなく、過重労働を改善しないことは、明らかであろう。

 では、どうしたら改善できるのか。やはり、授業関連以外の仕事をしたことに対しては、適切な報酬を与えることが必要である。方法としては、いわゆる残業手当と、職務手当というふたつのやり方がある。企業の一般的な形態としては、残業時間に基づく残業手当だろう。しかし、これは、労働者が基本的に勤務時間を基準にして給与が計算されるシステムだからであろう。もちろん、その前に職務内容を前提にした勤務時間だろうが、教職の場合には、通常の業務(授業)と、それ以外のさまざまな仕事の「職務内容」を同一の時間で計るのは無理がある。一時間の授業を行うのに、一時間を費やすだけではなく、その準備やその授業で課した宿題の処理など、一時間の授業といっても、実はかなりの労働がなされており、また、経験や能力などによっても、準備等にかなり差がでる。
 それに対して、校務分掌による仕事、たとえば委員会に出る、行事の指導をする、集団宿泊行事等々、その実質的な労働、準備等々がみな違うのである。
 そして、こうした教師の仕事を時間で割り切ることは、合理的でない。ベテラン教師と新人教師とでは、同じ授業をするための準備に、かなりの違いがあることは自明のことだろう。
 したがって、教師の中心的な仕事である「授業」については、基本的なノルマのコマ数を決め、それを基本給として計算し、それ以上の授業、そして、さまざまな校務分掌については、それぞれに手当の額を決めて、引き受けている校務分掌(仕事)の手当を受け取るという方式が、教師の仕事のスタイルにはもっとも適合しているように思うのである。
 教職には、企業労働者のような残業手当の方式が適切でないことは、たとえば、授業準備をどこで行うかという問題を考えてもわかる。
 授業準備は、学校で行えるのがよいだろうが、家庭で行う人も多数いるだろう。学校で行えば残業手当の対象となり、家庭でやれば、そうではないというのは、やはりおかしな気がする。いろいろなところでそうした不合理が生じるに違いない。

 そして、授業以外の校務分掌や仕事に手当を出す方式であれば、むやみやたらとそうした仕事を増やすことはできなくなる。したがって、過重労働の改善にも有益と考えられるのである。簡単にはいかないが、教職の特殊性と賃金形態については、もっと深く掘りさげて考えるべきなのである。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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