久しぶりに山上の話題が新聞に報道された。朝日新聞の11月8日の記事「安倍氏銃撃の手製銃、刑が重い発射容疑を適用できるか 殺傷能力確認」である。
見出しでわかるように、発射容疑を適用できるかという問題を扱っている。銃刀法は、所持しているだけでも犯罪だが、銃を発射した場合には、更に罪が重くなる。当たり前のことだ。しかし、きちんと製造された銃を前提にした規定であるために、手製の銃に発射罪を適用できるか、見解が分かれているのだそうだ。もし、本当に山上の手製の銃で安倍元首相を殺害したのならは、発射罪に問えないことのほうがおかしいが、やはり、本当に山上の銃で安倍元首相が殺害されたのかの立証がきちんとなされるべきだろう。
記事によると、県警は、山上の銃は殺傷能力があることを実験で立証したとする。
「捜査関係者によると、県警は山上容疑者の手製銃について、警察庁科学警察研究所の施設で鑑定を行った。木の板を並べて試射したところ、弾は複数枚の板を貫いたという。」
つまり、山上の銃で安倍元首相を殺害することはできることを、立証したことになる。しかし、そのあと、非常におかしな記述がみられるのである。殺害能力があることと、実際に殺害したこととは、やはり慎重に区別しておく必要がある。そして、その次に、記事は以下のように書いている。
「山上容疑者は7月8日午前11時半ごろ、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で、選挙応援中の安倍氏に発砲したとして現行犯逮捕された。県警などによると、山上容疑者は背後約7メートルの距離から1発目を、約5・3メートルの距離から2発目を発砲。安倍氏は2発目の弾が当たり、左上腕と首の2カ所に弾が入った痕があった。」(朝日11.8)
もし、安倍元首相銃撃事件で、山上容疑者が本当に犯人なのかを、多少とも疑ったことがある人であれば、この記事には、すぐに疑問の念が生じるだろう。というのは、7月8日には、朝日新聞は次のように書いていたからである。
「病院によると、安倍氏の首の右前部に約5センチの間隔で2カ所の小さな銃創があった。銃弾が首から体内に入り、心臓と胸部の大血管を損傷したとみられる。心臓の壁には大きな穴が開いていたという。左肩に銃弾が貫通したとみられる傷が一つあったという。体内から銃弾は発見されていないという。」(朝日7.8)
7月、つまり、実際に診断した医師たちの所見に基づいて、安倍元首相は右側から撃たれ、左から銃弾が抜けたと書いていたのに、今度の11月の記事では、なんの説明もなく左から銃弾を撃たれたと書いているのである。まったく逆だ。同じ新聞が、これほど重要なことを、何の断りもなしに、逆のことを書いている。記事を書いた人が違うとしても、前に書かれた記事を、念のために参照するはずであるし、まして、医師と警察発表が逆になっていて、問題になっていたのだから、断りをいれるのが当然だろう。更に、記事は、デスクがチェックするのではないか。
11月の末には、山上の鑑定留置が終わり、いよいよ起訴されることになるので、裁判で事実の究明がなされることを期待するしかないのだが、こうした記事のごまかしには、十分注意しておく必要がある。