大作曲家の作品1

 昨日は、私の所属している松戸シティフィルの演奏会だった。松戸市がオリンピックにおけるルーマニアのホスト市になっているということで、ルーマニアの代表的な作曲家であるエネスク(以前はエネスコと呼ばれていた)の作品を演奏した。そして、指揮者として、ルーマニアのオーケストラの常任指揮者を務めている尾崎晋也さんが振った。海外で活躍されている大変優れた指揮者で、やさしい雰囲気で厳しいことをどんどん指摘することで、私個人としては、普段なら諦めてしまうような難しいパッセージもなんとか弾けるようになろうと、かなり練習したつもりだ。本番も普段よりは弾けたと思う。
 ルーマニア祭のような感じで、新聞(朝日、毎日)が取り上げてくれたために、オケ単独の演奏会としては、けっこう聴衆もたくさん入ったような気がする。
 ブログで、自分のオケの演奏会のことは、いままで書いたことがないが、書く気になったのは、大変珍しい「ルーマニアの詩」という曲が入っていたからだ。CDでも2、3種類しかでておらず、ユーチューブにも2つくらいしかない。交響詩のジャンルにはいると思うが、2楽章で30分もかかる。珍しいというのは、この曲が作品1だということもある。つまり、まだ音楽院の学生だったころの作品らしく、エネスクが、後年苦しいときには、この作品の作曲していたころのことを思い出しながら、自分を励ましていたと、指揮者の尾崎さんが教えてくれたのだが、作品1というのは、みんな青春の思い出なのだろうか。
 クラシック音楽には、よく作品**という記述があり、アナウンスされることがあるが、この作品番号というのは、通常は出版の順番を示している。同一作曲家の作品が出版されると、順番に番号をつけていくわけだ。作曲者自身が、自分で作品番号をふることもあるようだが、多くは出版順だ。だから、作品が作られた順番ではないが、作曲が、演奏以外に出版でデビューする作品であり、ほとんどは若いころの、最初の自信作だろうと思う。そこで、有名な作曲家の作品1がどんな曲か、何人かを調べてみた。 

ベートーヴェン ピアノトリオ1番-3番
ウェーバー 6つのフゲッタ 小さなフーガ ピアノ曲
フォーレ 2つの歌
ブラームス ピアノソナタ1番
シューマン アベッグ変奏曲
メンデルソズーン ピアノ四重奏1番
チャイコフスキー 2つの小品
サンサーンス 3つの小品
ヨハン・シュトラウス 記念の誌
ドボルザーク 弦楽五重奏1番
シューベルト 魔王
ショパン ロンドハ短調
エネスク ルーマニアの詩

 よほど音楽に詳しい人でない限り、これらをほとんど知っているという人はいないだろう。触りだけだが、ユーチューブで聴いてみたが、ユーチューブにも見当たらない曲もあった。サンサーンス、ヨハン・シュトラウス2世、ドボルザークなどだ。
 私が音楽を知っていたのは、シューマンのアベッグ変奏曲とシューベルトの魔王だけだ。ただ、このふたつの曲は、優れた作品ができたから、これでデビューしようというような順調な経緯ではなく、紆余曲折があったことが知られている。意外なことだが、「魔王」は、当初あまり理解されず、ゲーテが聴いたときも感心しなかったとされる。シャイなシューベルトは自信をなくしてしまったが、シューベルトはよき理解者の友人がたくさんいて、魔王を出版することで、理解される道を作ってくれたのだそうだ。おそらくシューベルトの死後だろうが、ゲーテが再びこの曲を機会があり、そのときには、感動して、昔の無視を悔いたという。気になるのは、シューベルトがこの曲を作曲したころのピアノは、まだまだ過渡期で、ベートーヴェンなどは、それらのピアノのために作曲しているわけではないとまで、言ったそうだから、「魔王」のピアノ符の、ものすごく早い同音の連打を、きちんと弾くことができたのだろうかということだ。その後ピアノが改良されたから、技巧があれば可能になったわけだが。
 アベッグ変奏曲は、ABEGGという友人の名前を音にしたモチーフの変奏曲だが、楽器編成をいろいろと試みて、今の形に落ち着いたのだという。私はこの曲がとても気に入っている。日本語でも、音名を並べてメロディーを作った例ってあるのだろうか。
 流石にベートーヴェンは例外として、実際に触りを聴いた限りでは、多くの作品1は、特別魅力的な曲には思えなかった。聴き込めば違うのだろうが、名曲は、出だしからわずかな部分で、惹きつける魅力をもっているものだと思うので、作品1で、万人に愛される名曲をつくるというのは、やはり至難のことに違いない。
 ショパンは、作品1はそれほど有名ではないが、作品2の「モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』の主題による変奏曲 変ロ長調」は、非常に有名で、シューマンが、「諸君帽子をとりたまえ、天才だ」という紹介記事を書いたことでも有名だ。もっとも、その評を読んだショパン自身は、「死ぬほどおかしかった」と語ったのだそうだが。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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