オランダ
オランダの自由党(Partij voor de Vrijheid)をみてみよう。
オランダは、長い間、移民政策の優等生と言われ、移民に対する寛容政策が最もうまくいっていると考えられてきたが、2001年の911同時多発テロで空気が一挙にかわる。労働党の論客だったフォルタインが移民への制限を訴える主張をひっさげて、フォルタイン党を結成、2002年の総選挙に挑戦した。選挙の1週間前に暗殺されてしまうのであるが、第二党となったフォルタイン党は入閣した。その直後にオランダに一年の海外留学にいった私は、その当時の政治的混乱をつぶさにみることになったが、フォルタインの人気はかなり大きなものだった。モスクやイスラム学校への暴力的介入などがおき、次第に、社会の反移民的雰囲気も少しずつ強くなっていった。そういうなか、EUへの懐疑も大きくなり、オランダでは、2005年のEU憲法を国民投票で意志を問うことになり、60%が否定し、結局、EU憲法は成立しないことになった。その反対運動の先頭にたったのが、ウィルダースで、自由党を結成し、今では有力な政党として、オランダ政治に大きな影響をあたえている。
極めてユニークな政党で、党員はウィルダースしかおらず、議員候補はウィルダースの厳格な選抜を経て決められ、当選した議員による院内団体が政党としての活動の中心であり、あとは、一人だけの党員のホームページがある。
2017年の選挙の公約から、教育の項目を抜き出したものである。
・できるだけ多くの中央試験をすべての教育段階で実施
・技術学校の再興
・小さな学校をよしとする。合併はしない
・HBOとROCは大きすぎる
・マネジメントコースを廃止
・高等専門学校と大学の提携をしない
・適切な教育のカットはしない
・能力のある教師をクラスに
・「やっかい者」対策をすべての学校に
・カリキュラムのなかに、祖国の歴史をたくさんいれる
・われわれの国旗をすべての学校に掲揚する
・クラスでのヘッドスカーフの禁止
・憲法23条の維持。私立教育にダメージを与えない
・イスラム学校は閉鎖する
オランダ教育はかなり複雑な要素が混在しているので、どのような改革も、一貫した論理を構築することは難しいのだが、
ここでも、かなり混乱した項目が並んでいる。オランダ教育の変化よりも、むしろ旧来の制度の維持に傾いている側面がある。小さな学校をよしとして、合併を否定していること。オランダでは、学校の生徒数を基準にして公私にかかわらず、平等に補助金をだすが、最低限の人数が決まっており、政府は、その人数基準を引き上げて、学校数を減らそうとしているのだが、学校は合併によって規模を大きくしながら、実際には分校の形をとって、学校の実数はあまり変わらないという状況になっていた。そうした基準の引き上げに反対し、小さな学校をよしとしている。この点は、国民の多くが歓迎するだろう。
高等専門学校と大学の提携を否定しているのも伝統的である。オランダの学校制度は、中等教育と高等教育について、明確な差をつけてある学校種が並立しているが、卒業後の移動を可能にすることで、その差が不平等にならないように工夫されていた。それを更に、高等専門学校(日本では院のない大学に相当する)と大学(院をもつ大学に相当)とで、より柔軟な提携(単位互換等)を可能にしていっているが、それに反対している。逆にこれは、国民の支持をえにくいのではないだろうか。
新しい動向への支持もある。中央試験の拡大は、新しい動向である。中央試験は、以前CITOテストといわれ、小学校最終学年でほとんどの子どもが受験し、中等学校の選択の最も重要な資料となるものだった。それを拡大した試験が中央試験であり、近年実施された。
矛盾する政策もある。憲法23条は、「教育の自由」を含むもので、それがイスラム学校設立の根拠となっている。イスラム教学校を快く思わないキリスト教学校やキリスト教政党も、イスラム学校の廃止までは主張していない。廃止するためには、設立根拠となっている憲法23条の教育の自由条項を廃止する必要があり、それはキリスト教学校の自由にも制限がかかることになるからである。したがって、イスラム学校の閉鎖と23条の維持は矛盾する。祖国の歴史の拡大、国旗掲揚などは、明らかに、愛国心教育的傾向を示している。
イギリス
最後にイギリス独立党(UKIP)である。1993年に設立され、躍進は、2016年のEU離脱をめぐる国民投票で、離脱派の急先鋒として活動して、勝利したことによる。現在の最も重要な活動は、イギリスのEU離脱を実現することであるが、政策は多方面にわたっている。
イギリスは、小選挙区制度をとっているために、小さな政党には不利である。極めて興味深いことに、イギリス独立党が勢力を拡大する上での重要なステップとなったのは、欧州議会選挙だった。欧州議会選挙は比例代表システムであるために、少数政党が議席を獲得しやすい。しかも、ポピュリズム政党は移民政策という一点突破的な共通政策があるために、各国との協同歩調がとりやすい。そのために、イギリス独立党が最初の議席を獲得したのは、イギリスの国会ではなく、欧州議会だったのである。その政党が、EU脱退の中心的役割を果たしているというのは、極めて皮肉な現象といえる。
さて、教育政策は次のように掲げられている。
・国家教育システムが、機能的にニュメラシーやリテラシーが欠けている多くの子どもをなくすことは、重要な関心事である。
・教師は、官僚的な評価や称賛に囚われず、重要なことに集中できなければならない。
・UKIPは新しいグラマースクールの設立を奨励する、それは、労働者階級の子どもにとって、社会的移動への道を意味するからである。
・UKIPは、様々なタイプの学校を後押ししたい。そこには、グラマースクール、テクニカル、職業、一般、専門的中等学校を含まれる。これは、子どもたちの多様化する態度、能力、発達の速度にあわせていくシステムてある。
・継続教育と高等教育に対する授業料、特に国家生活に重要な科目、科学、技術、エンジニアリング、数学、医学(STEMM)に関して、大学と、5年間のUKで働いた院生については、廃止する。
・UKIPは、実際の職業徒弟制を支持し、学位コースを推進する。
・高等教育に進学するものを意図的に50%にさげる。
・2019年9月に導入される、性の混合理念と、初等学校に、LGBT関係の教育をを強制的に含むことに反対する。
UKIPは、イギリス民族党を土台として結成されたが、それは、かなりファシズム的な排外主義と差別主義があったとされる。党首交代により、そうした要素を廃止してきたのだが、国民投票での勝利以降、旧来の民族党関係者もはいりこむようになり、そうした要素も反映されているのが、最後の項目だろう。男女平等を否定し、LGBTへの差別意識が感じられる。強制的に行うことに反対しているだけともいえるが、選択できることになれば、反対をすることは明らかである。イギリスの学校制度の最大の問題であった三分岐かコンプリヘンシブ・スクールかという議論では、既に、コンプリヘンシブ・スクールが主流であるが、グラマースクールを残すかどうかの議論で、グラマースクールの発展を主張している。
ざっとみてきたが、ポピュリズム政党の教育政策は、概して、イスラム教の影響力をなくすことは、共通であるが、それ以外は、伝統的な制度を支持している。それ以外はあまり共通性がないといえる。近年のポピュリズム政党の興隆は、相互に調整するには、時間がないともいえる。ポピュリズム政党は、欧州議会で統一会派を結成しており、統一的な政策を形成していく必要がある。しかし、ポピュリズム政党の多くは、EU否定派であって、EUから脱退することを目指している。それは、各国の独自性の重視に他ならない。また、先に指摘したように、EUを否定しながら、EUの議会である欧州議会を踏み台にして勢力を拡大し、社会的に認知を獲得してきた。そうした基本的な「共通する矛盾」を抱えている。だから、まだまだ政策自体が固まっておよず、今後社会情勢にあわせて、変化していくのだろう。
より詳細にポピュリズム政党の教育政策を検討するとともに、メジャー政党との比較を今後の課題としたい。