オリンピックで心配なこと 駆り出される子ども

 私は東京オリンピックには反対であったし、他にもっているブログでも何度か書いてきた。今でもその気持ちは変わっていない。とにかく、嘘で固めた理由で招致を成功させたことは、否定しようがない。そのなかでも、実際に大きな弊害として、さすがに賛成のひとたちからも危惧されているのが、暑さである。
 私は、前回の1964年の東京オリンピックのとき高校生だった。だから、当時のことはよく憶えている。長く10月10日が「体育の日」だったが、それは東京オリンピックの開会式の日だったわけである。現在その日は年によって異なることになってしまったが、10月に行われたのは、通常の開催月である8月は暑いからにほかならなかった。だから、温暖でかつ雨が少ない時期として10月が選ばれたのである。
 ところで、当時の8月は、今から思い出してみると、今のような暑さからすれば、涼しいと感じるかも知れない程度だったのである。もちろん、当時は、エアコンなどほとんどの家になかったし、暑さはもろに感じていたのだが、だいたい暑くてやりきれないと感じる温度が30度程度だった。それが今では猛暑日という概念ができて、かなり猛暑日になっている。しかも、60年代と違うのは、車の量もすくなかったし、また、建物におけるエアコンの設置は極めて少なかったのである。車は、排気ガスを出し、かつエアコンがついているので、暑い空気をまき散らしながら走る。エアコンは、室内は涼しいが、暑い空気を外にだす。さらに、当時に比較して、建物が密集し、コンクールの街の度合いがはるかに高くなっている。それらは、日陰の風通しのよいところの「気温」より、実際の温度がはるかに高いことを示している。オリンピック招致を決めた年も、既にそういう状況だったのである。それを「温暖で心地よい気候」とは、ほんとうにあきれてしまった。今になって、メディアは騒いでいるが、当時そのことは、誰にもでたらめであることが分かっていたのに、メディアはそれを指摘していただろうか。
 さすがに、オリンピックが近づき、秋に移動ができないことがわかると、暑さ対策が必要だというような主張がメディアに現われ、実際に、準備を進めているひとたちも、対策を考えはじめているようだ。マラソンの出発時間を早めるなどという、選手用の対策が主なものだが、多少は、会場を涼しくするために、水を噴霧するとか、いろいろなことが考えられているようだ。題名に書いたように、私が心配する一番は、駆り出される子どもたちのことだ。
 多くの人は、チケット販売で買えなかった人がたくさんでたなどというニュースがあるので、競技場はどこでも満員になると思っているかも知れないが、満員になるのは、よく知られた人気競技が中心であり、一般人にはほとんど知られていないマイナーな競技もたくさんあるのだ。
 前回の東京オリンピックでは、かなり空席のある競技場に、東京を中心とする小中高の生徒たちが、学校単位で見に行ったのである。当時その年齢だった東京近郊に住んでいた人は、ほぼそうした経験があるに違いない。私は、サッカーを見に行く機会があった。驚くべきことだが、当時サッカーは人気のないスポーツで、ドイツがでる試合だったが、動員の子どもがいなければ、ガラガラだったのである。
 今回のオリンピックも同様の措置がとられることが決まっているようだ。
 みなさんにも考えでほしいのだが、動員されて見にいくのは、マイナーなスポーツで、観客があまりいないものである。満員売り切れの会場に、無料で大勢の子どもたちを招待するわけがないのだから。そして、そういうスポーツの多くは、屋外競技場で行われるはずである。スポーツの競技だから、たいていは2,3時間かかるだろう。
 昨年、1時間ほど校外学習にでかけた小学生が、熱中症で死亡する事故があった。あの事故は、暑さの盛りではなく、急に暑くなって、身体が暑さになれていない時期だったことも、深刻になった要因であると考えられ、オリンピックはずっと暑さが続き、身体がなれているから、大丈夫だという見方はあるかも知れないが、とにかく、東京近郊の子どもたちが、おそらく何十万人も、暑いさなかに、2,3時間のスポーツ観戦を強いられるのである。オリンピックの試合を無料でみられるのだからいいではないかと、と思う人もいるかも知れないが、見たい競技にあたる可能性は大変低いはずである。なにしろ、空席を埋めるために駆り出されるのだから。しかも、そういう競技場は、暑さ対策が充分に施されている可能性は低い。アスリートだけではなく、観客のことも、当然考慮されているとは思うが、大量に学校単位で駆り出される子どもは、やはり、通常の観衆以上に、事故にあう危険性があると思う。そのことを、学校管理者は、充分に自覚すべきである。
 考えられる対策として、最低限
1暑さが心配な子どもは、いかない選択が簡単にできるようにすること。(同調圧力をかけない)
2熱中症対策を充分に事前に説明し、当日その用意があるかのチェックをすること
3親が可能で、希望すれば、親の同伴を認めること
4万が一熱中症の疑いがでたときの対応を、学校として確認し、訓練をしておくこと

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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