未来の教育研究6 ナショナル・カリキュラム2 アメリカ・オランダ・スウェーデン

アメリカ
 21世紀のパートナーシップ協会の提示する21世紀に求められる能力を整理しておこう。
 The partnership for 21st century learning は2002年に、企業、教育指導者、政治家によって設立され、K12の教育内容に対する提言をする機関である。その目的は、21世紀スキルのフレームワークを作成することであるとされる。
 
・学ぶべき内容(科目 英語、世界語、芸術、数学、経済学、科学、地理、歴史、政府と市民)の基礎科目群、(グローバル意識、財政・経済・ビジネス・企業的リテラシー、市民リテラシー、健康リテラシー、環境リテラシー)などのリテラシーが加わる。
・学習のスキル(創造性と革新、批判的思考と問題解決、コミュニケーションと協力)
・情報・メディア・技術スキル(大量情報へのアクセス力、技術の速い変化への対応力、コミュニケーションと協力能力)に(情報リテラシー、メディアリテラシー、ICTリテラシー)が加わる。
・生活とキャリアスキル(柔軟性と受容性・先導と自己決定・社会的多文化的スキル・生産性と説明責任・リーダーシップと責任)
などが教育されるべき内容であり、さらにそれを可能にする環境整備が求められる。
 また別に4Cの提起をしている。Creativity, Critical thinking, Communication, Collaborationであり、これらは、21世紀に必要な能力の要として位置づけられている。これらは、ナショナル・カリキュラムとして、全国民を対象とした能力を想定しているようには思われない。それはあくまでも Common Core に託されている。因みに、日本で実践されているCは、Communication と Collaboration のみで、Creativity と Critical Thinking はほとんど無視されている。ときに、日本では「考えること」を求められているが、そこには、「批判的」という要素は入ってこない。学校の授業で行われている「考えさせる」授業をみていると、「批判」はほとんど意識されていない。しかし、「考える」ということは、「批判的に考え」なければ、実際には、「考えていない」ともいえるのである。こうした違いは重要であろう。(詳細はまた別の稿で検討する。)

オランダ 
 オランダは、「教育の自由」のところで説明したように、1980年代までは、学校で教える内容は、事実上学校に任されていたのである。大学につながるVWOという6年生の中等学校は、極めてレベルが高かったし、また、職業学校なども、実用的な国民性を反映して、将来の職業を見越しての意欲的な教育が行われていた。しかし、基礎学校や、VWO以外の普通教育の中等学校は、必ずしもレベルが高いとはいえず、特に財界などから批判がだされていた。同じ学校で同じ学年を担当して、10年20年経過する教師も少なくなかったので、どうしてもマンネリ化する傾向があった。 
 オランダでは、1990年代に初めて、ナショナル・カリキュラムに相当する文書がでて、現場では大きな論争になった。現場の教師たちはかなりとまどったようである。オランダの教師は、学校採用で、かつだいたい同じ学年を長年担当する。例えば、20年間同じ学校の4年生を担当してきた教師が、突然全国共通のカリキュラムを指定され、それが自分の長年やってきた教育内容と違えば、対応することが恐怖感を感じることもあるかも知れない。
 しかし、オランダの場合、「到達目標Kerndoelen」という形で提示され、小学校の卒業時までに身につけておくべき事項という、極めて大綱的な内容であったから、学校全体として、それまでやってきたことのなかで、どこでもやってこなかった内容があれば、どこかに挿入する必要はあったが、最初の段階では、特に現場に大きな負担を付加するものではなかった。その後、卒業までにという全体的な大綱から、多少下級、中級、上級学年というように、段階的な到達目標も規定されるようになっている。
 とりあえず、2006年に提示された小学校の算数について見ておこう。

計算と数学 理解と活用
・生徒は数学的言語を使うことを学ぶ
・生徒は、実際的、形式的代数的問題を解決し、推論を明瞭に与えることを学ぶ
・生徒は、代数問題を解く際に、導き方に取り組み、その解決策を評価することを学ぶ
数字と操作
・生徒は数字、整数、小数、分数、パーセンテージ、比率の構造と一貫性を通して、一般的な言葉で見る方法と実際の状況でそれらを使う方法を学ぶ。
・生徒は、いかなる場合でも、100までの整数の基本的操作を暗算ですばやくするように学ぶ、そして、20までの足し算と引き算、その表は、外部から参照できる。
・生徒は、評価し数えることを学ぶ。
・生徒は、足し算、引き算、掛け算、割り算を効率よくすること学ぶ。
・生徒は、足し算、引き算、掛け算、割り算を筆算で、標準的な方法で学ぶ。
・生徒は、計算機をよく考えて使うことを学ぶ。
計測と幾何学
・生徒は単純な幾何学的問題を解くことを学ぶ。
・生徒は計測を学び、単位を使って計算し、計測することを学ぶ。例えば、時間、お金、長さ、周囲、面積、容量、重さ、速度、温度など。Kerndoelenboekje 2006.4.28 Het ministerie van Onderwijs, Cultuur en Wetenschap (OCW)

 これが小学校を卒業する段階で、生徒が修得しておくべき目標であるが、日本の学習指導要領と比較すれば、あまりに簡略であることに驚くだろう。ただ、日本では、教科の内容を理解していなくても卒業できるが、オランダなどのヨーロッパ諸国は、学年の内容が修得できていないと認定されると落第するので、最低限の内容が簡略でも、運用のレベルでは厳しいともいえる。


スウェーデン
 スウェーデンを始めとする北欧諸国は、小学校と中学校を統一して基礎学校に再編した。そして、スウェーデンは、1962年に、最初のナショナル・カリキュラムであるLäroplan för Grundskolan (基礎学校のための学習計画)が制定された。以後、スウェーデンでは、何度か改訂されながら、国民として学ぶべき内容が提示されている。1962年という、ヨーロッパでは極めて早い時期に、ナショナル・カリキュラムが制定され、継続しているということは、長く社会民主党が政権をとったことでわかるように、平等思想が基礎にあるからといえる。国民がみな同じ義務教育学校(9年制の基礎学校)で、同じ学習内容で学ぶことこそ、平等の実現条件であるという考えである。
 最初の学習計画(62年)6年生の数学の部分を紹介する。

 100万までの数字。最初に分数、24の1までの分数。小数点3桁までの少数。
 10億まで書くこと。24分の1までの分数と、小数点3桁までの少数を書くこと。整数に分数が混ざった数、少数から分数に転換することなど。
 主な計算と評価: 整数、分数、少数、パーセント、平均、いろいろな数字の結合 □+0.2=0.8, □-0.3=0.4, 2×□=0.6, □:2 =0.4
 整数と少数の筆算。分数の筆算:分母となる数を使って、足し算、引き算をする。2.4.8.16; 3.6.12.24; 2.5.10.20; 一つの因数と整数を使った掛け算。そして、整数分割を使っての割り算。
いろいろな種類の実際的問題。例えば、平均、パーセントなど。単純な点や線の描画。
 幾何学。メモリのついた定規、コンパス、分度器、三角定規で、単純な図形を描く。半径、長さ、記数法、角度と角度の測定、平行線、三角形。三角形と長方形の周囲と平面の計算、直角柱を平面を規則にして体積を計算する。
 桁の多様性と時間基準を概観する。部分数字の種類に関する指導。実際的な性質の種類の転換。Läroplan för frundskolan
Kungl. Skolöverstyrelsen 1962

 ここでの分量はオランダと同じくらいであるが、スウェーデンは6年生の分のみである。
 スウェーデンは、PISAの成績がよくなかった。デンマークほどのショックはなかったが、一喜一憂する雰囲気がある。2016.11.30のSvenska Dagbladet の記事 Bättre resultat i ny skolstudie(新しい学校の学習でよりよい結果が)という記事で、国際理科数学のテストであるTIMMSの成績があがったと報告している。しかし、スウェーデンでのPISAの成績はあまり向上していない。これは、極めて移民の多いスウェーデンでは、こうした国際的な学力比較で上位をとることは難しいのである。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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