コメントへの回答 少子化と年金問題

 コメント欄の質問がありましたので、それに対する回答です。コメント欄での回答が普通でしょうが、問題が大きいので、ここでかくことにします。
 質問内容は以下の通りです。

では,謹みながら2点ほどお伺いしたいです。
1.個人の持論でもありますが,今後少子化により労働力がますます減少します。その代わり,AI(人口知能),又は外国人労働者が多く流入してくると思われ,国内の若者の立場(主に就職活動)が危ぶまれるかもしれません。若者の立場からの観点と,下記の問題の是非についてお尋ねしたいです。
2.ご存じのとおり,国民年金は,少子高齢化した日本において,若者が納金した国民年金が高齢者にそのまま行き渡る賦課方式が採用されています。少子化により,高齢者の年金受給を支えるための現役世帯から徴収する全体の保険料も減少し、世代間を支え合う持続性が危ぶまれています。この問題はどのようにお考えでしょうか。

 大変難しい問題なので、きちんとした回答になるかはわかりませんが、不足分は再度書くことで補充していくことにします。
人手不足は単なる働き手不足ではない
 少子化が進むから、労働力不足になる、というのは、一見正しいように見えますが、いわれている通りなのかと、吟味してみる必要があるのではないでしょうか。少子化は、既に何十年も続いてきた現象ですが、それでも大卒の就職状況は、ずいぶんと波がありました。今は、学生の就活がけっこう順調に推移して、比較的早く内定がとれていますが、つい数年前までは、就職がなかなか困難だったのです。大学として、なんとか就職率をあげようと、やっきになっていろいろな対策をとっていたものです。ここ2、3年は確かにかなりの人手不足になっていますが、こうした労働の需給関係は、決して人口動態だけできまるわけではなく、さまざまな要因で変動するものでしょう。
 人手不足、だから、もっと人手が必要で、だからなんらかの形で人手を増やそうという解決策がよいとも限りません。たとえば、最近大きな問題になったコンビニですが、あれだけ多数のコンビニが、すべて24時間開店している、だから、人手不足になっているわけですが、24時間営業をやめるだけで、人手不足は、かなりの程度改善されるはずです。最大の問題は、コンビニの運営が、24時間体制になっていることや、その他もろもろが、実際にコンビニで働いている人の利益が考慮されるより、コンビニ経営企業の利益が優先されていることなのです。コンビニオーナーのどれだけが24時間営業したいと思っているでしょうか。かなり少数派のはずです。賞味期限間近の商品の廃棄とか、他にもあるでしょう。つまり、人手不足が、企業の絶対的な形態の押しつけによって生じており、少子化とそのまま連動しているわけでもありません。
 働きたいのに雇ってもらえない、雇いたいのに、人手を確保できない、こうしたミスマッチが存在する分野も少なくないでしょう。たとえば看護婦です。病院としては、夜勤を必ずやってくれる人を求める。しかし、夜勤はできないけど、病院で勤務したいという資格をもった人がいる。実際にこういう事情で、子育てが終わったあと、病院に求人応募したけど、ことごとく断られたという人を実際に知っています。この場合、実際に労働力はあるわけです。しかし、自分たちの雇用条件に固執するために、人が集まりにくくなっている病院がある。このような場合、病院側の雇用姿勢をもっと柔軟にし、多くの人を上手に活用するスキルを身につければ、解決可能なことも少なくないはずです。障害者、主婦、高齢者、働く能力と意思がありながら、雇用条件とあわないために、働く場を得られない人は、相当数いるはずです。日本企業の人を雇用し、活用する意識とスキルの改善が必要なのです。
 しかし、そんな調整をしても、労働力が不足して、成り立たないような企業が出てくるのはこまるのではないか、ということは、当然出てくるでしょう。本当に日本で不足し、必要な労働力なら、外国人を雇用するのはいいと思います。しかし、日本でこれまで横行していた、研修生と称して、実は安い単純労働者として使うというようなやり方は、やめるべきです。こうしたやり方が、日本の経済の生産性の低い状態にしてきたことは、いまや疑いないところになっているでしょう。
 外国人を雇用するならば、専門的な能力をもった人を、それに見合う条件で雇用すべきです。
 そうした結果、日本経済が縮小していっても、私はとくに問題だとは思いません。日本の人口は世界で3位ではないのです。前のブログで書いたように、国民一人当たりの豊かさが問題であって、それを産むためには、労働者を安く雇用するのではなく、高い賃金を払うことによって、能力を最大限活用するような形でしか実現できません。24時間開店のコンビニなどは、かなり生産性が悪いはずです。これは典型的事例で、他にもたくさんあるでしょう。少子化、労働力不足というのを、単純にとらえるのではなく、もっと多面的に考える必要があるわけで、もっともっと考えねばならないことはあるでしょう。それはまたいずれ。

年金問題は雇用システムの変更が必要
 年金問題は、当然このような状況と連動しています。ただ、多少の誤解があるのではないでしょうか。
 「若者が納金した国民年金が高齢者にそのまま行き渡る賦課方式」と書かれていますが、年金は、受け取りまでは支払ったものが原資となるはずで、私の場合には、70歳直前まで年金を支払い続けていました。20歳からですから、50年間支払ったわけで、それが積み立てられて、年金として受け取るのだ、というのが基本だと考えています。もちろん、厳密にいえば、ずれはあるでしょう。大きくまとめれば、支払っている世代の支払いによって、受け取り世代が受け取るということでしょう。しかし、支払い世代を「若者」というのは、いかがなものでしょうか。また別の問題として、年金として支払われたお金が、本当に年金としてすべて使われているのか、時々問題になるところです。実際には、年金として支払われた金額は膨大なものになっており、かなり別のところに使われている可能性もあります。たとえば、箱物になったりなども、本当かどうかはわかりませんが、つぶやかれたことが何度かありました。こうした不明朗なことをきちんと正せば、実は、いわれているほどに、年金資金は窮屈ではないのかも知れません。
 それはさておき、年金問題が、高齢化問題とともに解決しなければならない状況になっていくことは、間違いありません。そもそも、当初年金制度が構想されたときには、おそらく、平均寿命が長くても70歳程度が想定されていたのではないでしょうか。むしろ、だいた65歳くらいで亡くなる。50歳定年で15年間の年金支払いがある。それで計算したとすれば、その後どんどん平均寿命がのび、今では女性は85歳程度です。定年が60歳にのびた段階でも、25年の支払い期間が残ります。私の父などは、96歳でまだ頑張っていきています。それで、支払い開始を65歳にして、定年延長とか、教師などは、嘱託で65歳まで仕事を与えるようなことをやっているわけです。つまり、平均寿命が長くなれば、それだけ年金支払いがきつくなるわけですから、どうすればいいかは、ひとつしかありません。定年延長で、年金受け取り年齢をあげることです。しかし、現行のシステムのままで、企業等が定年延長をすれば、若者の雇用機会を奪うことになるし、また、給与の圧迫が企業等を襲います。
 どうすればいいのか、いろいろな人が知恵をしぼっているわけですが、私は、解決策は明確なのだと思っています。ただ、それを実行できるかです。
 では、解決策とは何か。次のふたつをともに実行することです。
1 定年というシステムをなくす。仕事が滞りなくできなくなったら、退職させることを可とする。(これは、あらゆる年代において)
2 給与体系を、年齢給をやめ、職務給にする。
 最近、豊田の社長を初めとして、財界の人たちが、終身雇用は維持できないと言い出していますが、この高齢社会において何をいってるのだと思います。そもそも、自分たちだって、相当な高齢者ではないか、と。問題は終身雇用ではなく、年功賃金、年齢給なのです。いつ、こうした年齢給システムができたのか、私は専門家ではないので知りませんが、国際的にユニークであるし、また、日本の歴史でも、かなり限定的な時期にしか成立していないと思います。
 雇用というのは、「特定の職務」を想定して雇い、他の職務に移動したいときには、試験なり面接なりで認められると移動する。そして、給与は職務に対して定まる。同じ職務に留まる場合は、ずっと同じ給与である。
 このような職務給は、「同一労働同一賃金」という平等原則に適うわけであるし、また、高齢者だからやめてほしいということにもなりません。若者でも能力のあるひとは、高い職務について、高給を得られることにもなります。逆に、ある年齢までは難しいことをこなせていたが、歳をとったら、より簡単な仕事に移って、給与水準を下げるか、あるいは辞める、そして、年金を受け取るという道になります。
 こうしたシステムで、働いている間、つまり、きちんと生活できる給与を得ている場合には、年金は支給しない。働けなくなった段階で年金が支給される。もちろん、はやばやと引退したい人もいるでしょうが、それは、労働している間に支払った年金原資に応じた金額になるということでしょう。もちろん、さまざまな状況で援助が必要な場合もあるでしょうから、それはここでは考えないことにします。
 どうでしょうか。
 しかし、この実現には、大きな壁があります。
 まず、企業の学卒一括採用という方式をやる必要があります。もちろん、やってもいいのですが、原則ではなくなるということです。そして、企業のなかでローテーションしながら、企業内教育をうけつつ、昇進していくというシステムもなくなります。キャリアアップは、自己責任で行うことになります。若者は、これを受け入れるでしょうか。また、企業が、そうしたシステムを運用できるだろうかということもあります。
 高齢者も、多くの人は、退職か賃金削減かという選択をせまられるでしょう。しかし、私は高齢者は意外にすんなりと受け入れるのではないかと思います。なぜなら、日本社会では、もっともお金が必要なのは、子どもが大学を卒業するまでだからです。子どもが詩集職すれば、生活費は格段に低くなります。今の高齢世代は、貯金志向を植えつけられて育ちましたから、せっせとお金をためて、裕福な人たちが多いのではないでしょうか。しかし、定年もなく、働けなくなったら年金生活ができとなれば、自分に見合う職務に対応して、賃金が下がっても、それほどこまることはないのです。むしろ、歓迎するのではないでしょうか。高齢者をこのように待遇すれば、定年制度をやめても、若者の仕事を奪う可能性は低下します。若者は、どんどん難しい職務に挑戦すればいいのです。

 また何かあればどうぞ、どんどん疑問を書いてください。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

「コメントへの回答 少子化と年金問題」への1件のフィードバック

  1. ありがとうございます。
    いろんな視点から俯瞰して社会情勢を見ていきたいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です