ALC貝塚学院閉鎖さわぎ 認可制度と自己責任

  3月28日のニュースは、ALC貝塚学院の閉鎖問題を大きく取り上げていた。午前中は、「閉鎖」だったが、夕方になると、「閉鎖しなくてもすむ可能性」が出てきたようなこともいわれていた。今日もまた、このニュースでワイドショーは賑わうかも知れない。
 無認可幼稚園という言い方をニュースではしていたが、ホームページを見てみると、ふたつの組織があって、それが融合して機能しているように思われる。ひとつが、ALC貝塚学院(以下「学院」)で、幼稚園のような組織になっているが、ホームページには、一般の幼稚園ではないことが断ってある。もうひとつが、ALCアルファウィング(以下「ウィング」)というもので、建物は別で、こちらは、英語、水泳、体操、バレエ、フィットネスに分かれており、更に学童の機能をもたせている。(フィットネスは、よく見るとチアダンスのようだ。)

 税制上の届け出などがどうなっているかわからないが、ホームページを見る限りでは、英語・水泳・体操・バレエ・チアダンスの「習い事塾」があり、幼稚園段階から小学生段階までを対象としている。そして、別途、幼稚園の年齢の子どもたちのためには、「学院」という幼稚園のような組織をもち、必要に応じて、「ウィング」の施設を利用する。このふたつは、当然別々の建物で運営されているが、地図上で見る限り1キロ程度の距離にあり、スクールバスをもっているだろうから、移動は安全にできると思われる。
 学院の教育内容を見ると、
基礎知能  数遊び、+、-、暗算、幼児用漢字、話し方、読み方、50音の読み書き
記  憶  俳句、紙芝居、劇
体  育  跳び箱、マット、鉄棒、体操、平均台など
書 き 方   鉛筆の訓練、線書き、書道
社  会  地図、集団生活、自立
理  科  自然観察
英  語  英会話・英検(年長で4級・5級多数合格)年長週4回、年中週3回、年少週2回
絵  画  大きく、色彩豊かに
音  楽  リズム、歌、木琴、ピアニカ、ハーモニカ
水  泳  室内プール
となっている。印象としては、学校である。しかし、ホームページの構成は、「学院」のほうは極めて貧弱で、実際にどのような「教育」が行われているかは、よくわからない。しかし、「ウィング」のホームページは極めて充実していて、それぞれの分野のブログがあり、頻繁に記事が更新されている。例えば、体操の部分の表題を見ると
3.22 皆勤賞
3.12 今年度、ラスト 進級テスト
3.01 体操教室 貼るの短期 受け付け開始
2.25 年長 1年がんばりました
2.15 近日ご案内予定 春休み 短期教室
2.15 幼稚園 体操 がんばりました
という感じで続き、それぞれ詳しい紹介記事となっている。そして、幼稚園と書いてあることでわかるように、「学院」の子どもたちも利用している。インストラクターが、体操は二人、水泳・バレエ・チアダンスは一人、英語は明記されていないが、写真で判断すると三人いるようだ。「学院」のほうはスタッフ、納入金等については、ホームページでは掲載されていない。 
 「学院」は、一般の幼稚園ではないと断っているが、「ウィング」のホームページでは「幼稚園」と書いているので、募集等では、実質的に幼稚園であると称していたのだろうし、また、通わせている家庭でも、幼稚園に入っているという意識だったろう。

 これから、詳細が明らかになっていくだろうし、もしかしたら、支援する企業が出てきて、廃止にならない可能性もあるようだが、現在の段階で、問題を整理しておきたい。
(1)認可をどう考えるか
 日本では、学校教育法に、「学校」という法人組織が厳格に規定されている。「国立」(独立行政法人)「公立」「私立」の三種類あるが、国立、公立は、当然国と地方公共団体が設置主体で、私立学校は、学校法人のみが設置することができ、法律で厳格に条件が定められている。そして、私立大学は、文部科学省、高校までの学校は、都道府県知事の認可事項となっている。それぞれの学校種に「設置基準」があり、基準を満たさないと認可されない。
 こうした「認可」制度は、先進国ではかならずしも多数ではなく、むしろ、欧米では、国家組織ではなく、私的団体が認可する方式が多いと思われる。また、国家組織が認可する場合には、運営を賄える金額に近い補助金を交付するが、日本では、認可された学校には、補助金がだされるが、その額は極めて低い。報道によれば、「学院」の子どもにも、申請すると個人対象に補助金がだされていたというから、日本の認可制度は、「補助金」と不可分の関係とはいえない。あくまでも、教育に関する基準が満たされているということの認定である。その基準のなかには、財政基盤も入っているので、認可された学校は、しっかりした財政基盤があると、受け取ることができる。
 従って、「認可制度」の長所は、一定以上の教育水準(人的、物的)が満たされており、財政基盤がしっかりしているので、今回のような突然の倒産はほぼ考えなくてよいということがある。他方、認可には、設置基準を満たさなければならないし、小学校以上には、学習指導要領という教育内容に関する国家基準があり、それに従った教育をしなければならないという、かなり厳格な縛りがある。(この縛りから解放されるためには、「経済特区制度」による認定を受けて、独自の教育をすることができるが、その場合には、一切の補助がでないので、財政的にはかなり厳しくなる。)
 
(2)習い事教室
 学校は、私立学校でも財政的補助があり、また、税制上かなりの優遇措置がとられているから、通常の収益事業はできないことになっている。施設を貸して、使用料をとるとか、認められている部分もあるが、いろいろな制限がある。「学院」と「ウィング」の連携したやり方を見ると、ウィングは明らかに、収益事業であり、ウィングの施設を、優先的に「学院」が使うことになっているから、結局収益事業の一環として、幼稚園教育的なことが「学院」で行われていたと考えられる。それが、1976年という古い創立でありながら、認可を受けてこなかった理由なのではないかと想像する。
 幼稚園の教育は、学習指導要領のような厳格な基準があるわけではないから、かなり自由に設定できるはずである。だから、英会話教育を重点的に行っている幼稚園もあるし、文字指導をするところも多い。そういう「教育」的内容をせずに、自由な活動を主体としているところも少なくない。だから、勉強的要素や、体育、音楽などを取り入れる教育をすることは、幼稚園として不可能ではないが、それぞれを力をいれて実践するには、かなりの設備や教師を揃える必要があり、認可の保育園では、「学院」のように、総花的に実施するのは難しいのではないだろうか。それを可能にするために、水泳教室、体操教室等の習い事事業と提携したスタイルで、やってきたと考えられる。ラジオを聴いていたら、自分も卒園したので、子どももいれる手続きを既にとったという母親が出てきたが、少なくとも入園させる保護者たちからの評判はよかったのだろう。少なくとも、「学院」と「ウィング」のホームページを見る限り、実践的なレベルでは、「詐欺的」といえるようなことは感じない。

(3)自己責任論を考える
 公的認可システムをとっていない代表はアメリカだが、アメリカでは、私的な認可協会があって、通常、自分の学校に近い理念をもった協会に加盟申請を行い、そこでチェックを行われる。加盟申請が認められると、「**協会認定」という宣伝をすることができる。学校を選ぶ際には、保護者たちは、この「**協会認定」をみて、教育の傾向や水準を知るわけである。もちろん、一切そうした協会に加盟していない学校もあり、そういう学校には、とんでもない学校(まともな授業をしていないとか、スタッフが不足しているとか、設備が貧弱)があり、そこでの損害などは、選択した者の自己責任と考えられてしまう。救済措置はほぼないと考えられる。
 今回の「学院」の場合はどう考えられるだろうか。企業援助で継続の可能性もあるが、とりあえず、自己破産申請して、当面事実上閉鎖された場合を想定して考えてみよう。
1 完全に自己責任として、保護者たちが、次の幼稚園をこれから探す。なければ小学校まで家庭教育をする。
 アメリカならば、こういうことになる可能性が高いのだろうし、近年のネット言論状況からみると、こういう議論が多数でることは予想される。「学院」の納入金は、かなり他の私立幼稚園などに比較して高額なので、まずしい家庭はあまりないとすれば、保護者たちは、抗議活動をしつつも、他の幼稚園を探す人が多いのではないだろうか。しかし、一般的に幼稚園が、このような形で突然閉鎖されることはありえないので、これでよいのかという疑問は残る。新年度の納入金を既に納めている人たちにとっては、詐欺にあったようなものだ。
2 自己破産申請がなされたときに、裁判所が、破産を認めるとしても、最低限、既に納入された新年度納入金、購入した債権については払い戻しを命ずる。
 このような決定がありうるのか、専門家ではないので厳密にはわからないが、少なくとも、このような決定をするのは、社会的正義に合致するだろう。裁判所が、申請通りの自己破産を認めるべきではないと思う。
3 財政の開示を導入する
 私立学校として認可されれば、財政基盤がチェックされているし、また、会計状況については、かなりの開示義務がある。従って、経営状況を一般の人が知ることができるし、また、認可学校が、突然在籍児童や生徒を放り出して倒産することはなく、倒産するにしても全員を卒業させてからというのが通常である。
 しかし、習い事教室であれば、特に珍しくもないだろう。水泳教室や英会話教室ならば、会員の損害もそれほど大きくはないが、それが幼稚園相当の施設であれば、特に、今回のように、新年度開始間際であれば、計り知れない被害が生じる。
 こうした施設は、税制上の得点はあまりなく、税務署がかなり正確に財政状況を把握しているはずだから、今後、財務省として、比較的大きな規模の、また、学校のような教育を実質的にしているものに関しては、財政の開示対象にするべきではないだろうか。

 まだ詳細わからないが、「学院」を選んでいた保護者たちは、幼稚園に高い高いす水準を望んでた人たちであるようにお思われる。だから、情報が開示されていれば、調べることができたか可能性がある。しかし、財政状況については困難だったと思われる。制度論として改善していく必要があると思われる。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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