メディアで、女性宮家問題について扱われている。国会での議論を踏まえているが、しかし、議論の仕方そのものが疑問である。
昨日テレビで、ある皇室ジャーナリストと称する高齢の人がコメンテーターとして出演して、解説していたが、そのなかに、憲法は男系の天皇を規定しているので、女性宮家を創設するにも憲法改正が必要だ、と受け取れるような発言をしていたと思う。テレビでの発言なので、絶対にそのように言ったかは自信がないが、憲法問題だとはいっていたので、とりあえず、そういう議論があるという受け取りで、以下考えるところを述べたい。
女性宮家を創設するためには、憲法改正する必要があるという憲法条文は第二条だと説明されていた。
第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範 の定めるところにより、これを継承する。
ここでいう「世襲」とは、男系の世襲を意味するということだろうが、「世襲」ということの常識的意味として、男系と限定されることはないはずである。
広辞苑で「世襲」とは、「その家の地位・財産・職業などを嫡系の子孫が代々受け継ぐこと」とされ、「嫡系」とは「「嫡子の系統」で、「嫡子」について3つの説明がある。
1嫡妻の子で家督を相続するもの。また一般に跡継ぎとなる子。よつぎ。
2嫡出の長子、嫡男
3嫡出子
小学館の「精選版日本国語大辞典」では世襲の説明は全く同じだが、嫡系の説明はなく、嫡子については、広辞苑と多少違う。
家督を継ぐもの、また、その資格を有するものをいう。
1嫡出の子。嫡妻から生まれた加速を継ぐべき子。特に、長男。
2嫡出、庶出、または、母の先妻、後妻の別なく、また、養子を含めて家督を継ぐ子。よつぎ。あとつぎ。中世においても、嫡出の長男が家督を継ぐのが通例であったが、別に嫡子を取り立てることがあった。
3江戸時代後期、大名、交代寄合などの、家督を継ぐべき男子。旗本、御家人の場合は総領と呼ばれた。
もちろん、「男性」の跡継ぎという意味が、双方に書かれているが、第一の意味は、男性に限定もしていないし、また、男系と限定しているわけでもない。天皇が男系で継続してきたということが、たとえ歴史的に正しいとしても、「憲法」の条文解釈とは、別の問題である。そもそも、日本国憲法は、それまでの日本の歴史、特に明治以降の歴史を批判的総括の上に成立したのだから、当然、重要な断絶を含んでいるわけである。
大日本帝国憲法の該当規定は、
第二条 皇位ハ皇室典範の定ムル所ニ依り皇男子孫之ヲ継承ス
ここにはっきりと「男子孫」と書いてあり、男子及び当然男系であることが規定されているが、日本国憲法で「世襲」という表現に変えられたということは、「男子孫」という限定をなくしたと解釈するのが当然である。だから、憲法は、女性天皇や女系天皇の可能性を否定していないと解釈しなければならない。もちろん、ひとつの立場として、天皇は男系であるべきだ、という「考え」をもつことは、あってしかるべきであり、ひとつの立場して尊重すべきであるが、それが憲法に規定されていると考えることはできない。
さて、では、日本国憲法で天皇に関して変わったことは何か。
第一に、天皇は主権者ではなく、国民の象徴になったことであり、更に、その地位が、「主権の存する日本国民の創意に基づく」とされたことである。
第二に、天皇は、内閣の指導と助言によって、国事行為を行うとされたことである。
そして、もうひとつ、天皇に関する規定ではないが、日本国憲法の基本原則として、基本的人権の尊重が規定され、そのなかで男女平等は重要な柱となっている。したがって、憲法の規定によれば、天皇の継承が「世襲」であることは絶対条件であるが、天皇の子どもであれば、男子でも女子でも構わないと解釈されるのである。
では、「総意」はどうか。
小泉純一郎内閣のときに、現在の皇室典範では、男子に限っているために、天皇後継者がやがて絶えてしまうことに対応する必要があり、女性天皇と女系天皇を両方とも認めるかどうかを検討する委員会を設置し、その報告がだされた。そして、あわせてさかんに世論調査が行われていたが、女性天皇まで支持する回答が、80%を超えていたのである。つまり、委員会の内容も、世論調査も一致して、女性天皇、女系天皇を圧倒的に支持していたのである。
ところが、その後秋篠宮妃の妊娠が伝えられ、この報告は事実上無視されてしまった。そして、その後は、現行制度における天皇後継者がひとり増えたことで、議論そのものがとまり、天皇退位をきっかけとして、再び議論を起こす動きが生じたというわけである。しかし、安部内閣は、議論そのものに対して消極的とされている。その理由は、安倍晋三氏が「男系天皇」の強固な支持的立場だあるからだと、テレビなどで解説されている。実際に安倍晋三氏がそのような文章を書いたり、演説したりするのを見たことがないのでわからないが、普段の言動から判断して、おそらくそうなのだろう。
単純化して立場を整理すれば、
1 男系天皇こそが日本の天皇の最も重要な要素なので、変えてはならないという立場
2 女系天皇まで認めるが、男子であることに限定すべきとする立場
3 女性天皇も認める立場
明確な論理をもった立場としては、1と3しかなく、実際にいま大きな「解決策」として中心的な論理となりつつある女系天皇の立場は、あくまでも対症療法的なものである。つまり、本来男系であるべきだが、皇位継承者がいなくなったらこまるので、とりあえず女系も認めようということだから、天皇とはどのような存在なのか、という「論理」を欠いているのである。
1は、日本の伝統としての天皇のあり方を維持する、というとりあえずの論理がある。3は、男女平等の国民の象徴としての天皇という、戦後日本のあり方に適合する論理である。
しかし、1は、現在の状況から考えれば、成り立ちえないものだろう。将来男子皇位継承者がいなくなることは、充分に可能性があるからである。「家」の存続が極めて重大であった時代、家の断絶が、多くの人にとっての生活困難を引き起こすような時代には、後継者を生むために、側室をもつこと、妾をもつことが普通だった。また、養子もさかんに行われた。というより、奨励されたともことも少なからずあったはずである。天皇家においても、同様で、側室をもつという習慣を意図的にやめたのが、昭和天皇であるとされる。昭和天皇は若い頃にイギリスに留学して、イギリス王室のあり方を学び、側室をおかないと決心したとされている。しかし、イギリス王室は、昭和天皇の時代よりずっと前から、女性の王が何人もいたのである。女性の王がいたからといって、社会が男女同権だったわけでもない。男女平等が社会原理として認められたのは、ずっと新しいことであって、それ以前から、既に女王がいたということは、銘記すべきことである。
では、男系原則の下で、男子皇位継承者を確保するために側室をもつということが、「国民の総意に基づく」象徴天皇という制度のなかで、実現可能だろうか。おそらく、内心はどうあれ、どんなに強固な男系論者であっても、そうした主張を表立ってすることはできないだろう。また、そうした主張がかりに、政治的有力者からなされたとしても、今上天皇や新しい天皇が、それを容認するとは到底思えない。一笑に付すに違いない。
では、女系天皇が容認されるべきなのか。政治は妥協、ということが現実的な認識であるにせよ、およそ、国家の中核的なシステムを、折衷的な姿勢で構成してよいとは思えないのである。女性宮家の創設は、当然女系天皇に道を開くわけであるが、女性宮家論者は、もちろん、男性天皇論であり、従って、本心は男系天皇論者なのである。しかし、それでは系統が絶えてしまうので、仕方ない、男性であれば、女系であることには目を瞑ろうという人たちだろう。
もし、宮家そのものが男性だけに限定されているのはおかしい、男女平等なのだから、女性皇族も宮家を創設してもいいはずだ、という論理を持ち出すならば、当然、ならば女性天皇も認めざるをえないということになる。いずれにせよ、女性宮家主張のあいまいな立場は、制度的正当性をもてないといわざるをえないのである。
もし、日本国憲法を尊重するならば、皇位継承者は、男女平等である、従って、女性天皇を認めることである。