昨年の12月26日に行われた日本バンタム級王座に挑戦したプロボクサーの穴口選手が、試合後倒れ、病院で手術を受けたが、意識が戻らず2月2日に死亡したというニュースが、大きな話題を呼んでいる。死因は右硬膜下血腫ということだ。
様々な論議を呼んでいるが、そのなかで、「だからボクシングはスポーツではない、という議論はおかしい」というような意見が多数あった。こういう事故がおきることとは関係なく、私は、ずっと以前から、ボクシングをスポーツとして扱うことに反対してきた。それは、ボクシングという競技がスポーツとしての基本的性格から逸脱していると考えるからである。もちろん、ボクシングという競技そのものを廃止すべきであると主張する気持ちはない。やること、みることが好きな人がたくさんいるのだから、危険な競技であることを承知でやることまで反対する理由はない。しかし、スポーツであると位置付けられ、オリンピックはもちろん、学校の部活になっている場合もあるのだから、本当にスポーツとしての意味があるのかどうかは、きちんと議論される必要がある。
私がスポーツである条件と考えるのは以下のことである。
・詳細なルールが決まっている。そこには行うべき運動、型、そして、禁止される運動、型等が明確に決まっている。
・そのスポーツの結果が数量的に計測される場合には、その量によって勝敗が決められる。(陸上の投擲、跳躍競技、スキーのジャンプ、滑降、バレーボール、バスケットボール、サッカー、野球等々)
・順位を競う競技では、順位(競走、競泳等々)
・演技を競う場合には、演技の難易度、点数などが明確に決められていること。判定の透明性。
・直接対峙して力技を競う場合には、勝ちの型によって判定。
問題になるのは4番目で、ボクシングもこの類型にはいる。しかし、ボクシングだけ、判定基準がまったく異なる要素がはいっているわけである。
柔道、フェンシング、レスリング、空手、そしてオリンピック競技ではないが相撲、県道などすべて、勝ちとされる技の型が決まっていて、その型が実現されれば勝ちとなるのであって、たとえば柔道の投げ技が決まったときに、相手に怪我をさせてしまうことがあったり、あるいはたてなくなったりしても、そのことが勝敗に影響するわけではなく、あくまでも結果としての事故である。つまり、相手に身体的な打撃を与え、対戦困難な状況に追い込むことが、カウントされることはない。
ところが、ボクシングだけは、そういう直接的、実質的な身体的打撃がカウントされる。ノックアウトというのは、一定時間立ち上がることができないほどの打撃を受けたということで、勝利になる。そして、その勝ち方が最強であるとされている。もちろん、重大な身体的ダメージを受ける前に、レフリーが試合をとめ、ダメージを与えた者を勝ちとするように配慮はされている。だが、今回の場合、接戦だったために、それが難しかったという。そのために、試合後その場で倒れることになったが、実は、他にも、試合から何カ月か経過してから、発症し、最悪死亡するという例は、報道されないが少なくないとされている。頭を強打することもあるわけだから、脳出血していることは当然ありうる。それが少量であれば、すぐには症状がでないが、少量の出血がつづいて、ある時点で発症するような場合である。
ボクシングを愛する人にも、ボクシングが極めて危険なスポーツであることは十分に理解できるだろう。今回の事件で、安全策を講ずるべきだという意見はけっこうあるが、具体的な安全策を提示している書き込みには、これまで接していない。これまででも事故はあったのだから、これから考えようなどというのは、無責任だといわざるをえない。
私は、まずスポーツという類型からはずすべきだと思うが、最低限、以下のことはすべきではないかと思う。
・アマチュアのように、頭をガードするものを身につけて試合をする。
・ダウンやノックダウンをカウント要素からはずし、あくまでもどこを打ったか、という型でカウントする。そして、危険な場所(頭等)への打撃を禁止し、行った場合には、減点する。
そんなのはボクシングじゃない、迫力がなく、つまらないということであれば、スポーツとしてのボクシングではなく、「格闘技」として行えばよい。