ウクライナ情勢あれこれ

 ウクライナ情勢がかなり動いている。
 最も大きいことは、5月頃からはじまったウクライナの反転攻勢が、次第に実を結びつつあることだろう。当初はなかなか進展せず、反転攻勢は失敗するのではないか、という観測もかなり流れていたが、そもそも、十分に備えに時間をかけることができたロシアだから、そう簡単にそれを破れるはずもなかったし、当初遅々として進まなかったのは当然だった。そして、もうひとつ流れている説は、当初米英が作戦を指導していたが、それが通常行う戦闘機が主導して、陸上の軍隊がそれに従って進んでいくという方式だったという。しかし、援助側は戦闘機を提供していないのだから、そんな作戦がうまくいくはずがなく、ウクライナはそれに見切りをつけて、ウクライナ側の方式によって闘い始めた。そして、それが困難をともないながらも、次第に成功しつつあるというのである。

 真偽のほどはわからないが、ありうることなのではないかと思う。というのは、この間の動きをみていると、NATOはそもそも強いのか、という疑問が起こってくるのである。ロシアの侵略によって、強大な軍事大国ロシアというのが、いかに虚像であったかが、(たしかに軍事大国であることは間違いないが)暴露された。そして、今、NATOの軍隊としての、本当の実力に多少の疑問をおこさせるような事態が散見されるのである。とくに、ヨーロッパ勢のウクライナ支援の消極性は、実は、支援するほどの軍備がそもそもないのではないか、という観測もある。第二次大戦後、ヨーロッパにとっては、とくに域内で戦争を起こさないことが、最大の政治目標であり、それはたしかに実現しているが、アメリカと違って、ヨーロッパの国々は、そもそも戦争にかかわってこなかった。NATOというりっぱな軍事同盟はあるが、その実際の力は未知だ、ということが、次第にわかってきたわけである。NATO加盟国で、本格的な戦争をしたのは、アメリカとイギリスくらいではなかろうか。とすれば、いかに軍事同盟としての義務を果たしているとはいえ、武器のメンテナンス等も、きちんとなされているのかわからない。戦車を提供することになったが、実現するのはかなりあとだ、というのも妙な話だ。メンテナンスがきちんとなされていないので、補強するための時間が必要なのだということもあるようだ。
 このことの裏側は、現在世界最強の軍隊はウクライナということになる。ベトナム戦争後のベトナムは、世界最強の軍隊といわれたものだが、それと同じようなことがおきている。ウクライナがロシアを打ち負かしたあと、ヨーロッパとの関係、NATOの関係は、現在考えられているほどに、スムーズにいくかは疑問である。
 
 それを窺わせるのが、ポーランドとの関係だ。ポーランドがウクライナの穀物輸入に制限をかけたことを、ゼレンスキーが批判し、それに応答して、今後武器援助をしないとポーランドが宣言してしまった。それにしても、ゼレンスキーの立場もわかるが、やはり、時々、あまりに強引すぎるのではないかと感じることがあった。援助してくれて当然だろう、という雰囲気が感じられるわけだ。たしかに援助が必要であるとしても、援助をうける側は、それなりに援助に対して、感謝の姿勢を表明してほしい、と援助側は感じるものだ。そして、援助しないのは、どうか、というような態度をとられると、同じように、援助への疑問が生じてしまうことはある。ポーランドが、今後本当に援助をやめるかどうかは、ゼレンスキーの対応にもよるだろうし、ゼレンスキーもそれほど愚かではないだろうから、改善を図るだろうが、こうした軋轢が、今後も続くとしたら、歓迎するのはロシアということにしかならない。
 
 この間の驚いたことは、プーチンと金正恩の会談だ。しかも、ロシア国内とはいえ、プーチンの側が金正恩にあいにいったという形だ。北朝鮮は、軍事的な力が大きいと振る舞っているが、実際のところはわからない。そもそも、満足に食べられない軍隊が、力を発揮できるとも思えないし、ミサイルをたくさん試射しているが、本当に目標にあてて、爆発させることができるのかは、まだ実は未知である。人工衛星なるものを打ち上げようとして失敗し、その残骸を韓国に拾われてしまったわけだが、実は、人工衛星の体をなしてしいなかったという。だから、ミサイルも、実は実体がないものを、担当者たちが、金正恩にみせているだけなのかも知れない。もちろん、そう決めつけることは危険だろうが、国力としては、北朝鮮はかなり低い状況にあることは間違いないだろう。その北朝鮮に、プーチンが援助を求めにいったということは、世界が驚いたことだろう。そして、プーチンは主に砲弾・弾薬をもとめ、金正恩は、宇宙関連技術をもとめているという。これほど不釣り合いな交換条件はないだろう。本当に、プーチンが弾薬を受け取り、宇宙技術を提供するとしたら、ロシアの状態を冷酷に露呈することになる。
 
 真偽のほどはわからないが、チェチェンのカディロフ死亡説がでている。医師に毒をもられたとか、重篤な腎臓病を患っているなどという噂があり、けっこうながい期間、通常の公的な場面に登場していないために、実際にどのような状況にあるのかわからない。死亡説がでるのは、プリゴジンと親しかったり、国防大臣を批判したりしていたことが、プーチンの怒りをかった可能性があるとみられるからだ。金正恩も死亡説が流れたことがあるし、プーチン、ルイシェンコ等、重病説はなんどもながれており、こうしたひとたちは、期待をこめて重病、死亡説がでることが、稀ではないから、本当のところはわからないにしても、カディロフが死亡しているとすると、ロシアの情勢に大きな影響を与えることは間違いないだろう。チェチェンで反ロ活動が活発化し、独立でもしたら、そうした動きは周辺国に広がることは必至だ。
 
 歴史の激動期であることは間違いないから、実に予想外のことが次々におきている。柔軟な眼で、十分に情勢の展開をみておく必要がある。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です