ジャニーズ事務所の会見

 今回も例によって、わざわざ見たわけではないが、丁度食事時だったので、けっこう長い時間、ジャニーズの会見をみていた。ここのタレントには、まったく興味がないし、今後どうなっていってもかまわないのだが、問題になっていることについては、やはり、関心をもたざるをえないし、また、単純にここにでてきたひとたちを非難するのもどうか、という感じがある。ただ、今回の一連の流れのなかで、普段とは際立って違う現象があったことについては、面白いと思った。他のひとたちには、それほど重要ではないかも知れないのだが。
 第一は、事務所から正式に依託された第三者委員会である再発防止委員会が、依託先にたいして、遠慮会釈のない厳しい報告を提出したということだ。責任者に、元検事総長の林氏をすえていたことで、事務所もかなり本気で受とめていると感じていたが、あれほど依頼主に忖度しない報告も珍しい。そして、その提言にしたがって、藤島社長が退任し、所属タレントの最年長である東山紀之氏と、タレント養成のためのジャニーズアイランドの社長をしている井ノ原快彦氏、そして弁護士が出席していた。新しい社長は、いろいろな人に頼んだが、いずれも断られ、結局、所属タレントの東山氏がやらざるをえなくなったという事情らしい。

 際立って違うことの第二は、この記者会見に、赤旗の記者が出席し、しかも、質問の一番手だったということだ。質問の内容は、東山氏自身は加害事実はないのか、という、ズバリ本質的な質問だったが、おそらく、想定内の質問だったのだろう、他の記者も同様な質問をしていたが、やんわりと否定する回答だった。このような芸能事務所の記者会見に、赤旗記者が出席するのは、どの程度の頻度なのかはまったく知らないが、最初の質問者に指名されたのは、はじめてのことだろう。指名した人が知っていたかどうかはわからないが。
 
 ただ、全体として、やはり、なんとなく違和感を感じるのは、質問する側のメディアこそが、ジャニーズ性加害問題の片棒を担いできた存在であり、直接の加害者ではない事務所のひとたちの、責任追及するような質問が次々と発せられることについては、なんとも気分が悪いものだった。これは、現在の木原問題では、さらに深刻な状況を呈しているわけであるが。とにかく、ジャニーズ問題の第二の大きな問題として、メディアの無視という点があり、今後もずっと問題にされ続けるだろう。
 
 さて、この問題が非常に大きなことであることは、わかるが、では何をすればいいのだろうか、と考えると、私にはよくわからない点が多いといわざるをえない。まず「再発防止」のための委員会ができたが、加害者は、ジャニーという一人の、まったく特異な人物、性癖が特異であるだけではなく、莫大な富をもち、少年のタレントを見ぬく天才であり、芸能事務所を拡大した最大の功労者である人物がおこした、極めて例外的なことであり、かつ、当の本人は既に亡くなっているという事情がある。つまり、同じようなことが「再発」する可能性は、ほとんどないと思われることである。どのような再発防止策をとるのか、といわれても、極端にいえば、何もしなくても、少なくとも同じようなことがおきることは、考えられないのだから、具体的な防止策は考えようがない。もちろん、もっとずっと小規模な似た加害行為がおきる可能性はないとはいえないだろうが。
 加害行為を行ったのは一人であるとしても、それを援助したり、隠蔽して、継続させた人物はいる。だが、その中心であるメリー氏も亡くなっている。少年たちを車で送迎したり、見張っていたりしたひとたちも、共犯といえるかも知れないから、彼等の罪を問うのだろうか。しかし、実行行為は50年近く行われており、誰が具体的に送迎や見張り役をしたなどということは、調べようがないにちがいない。
 犯罪的な加害行為については、少なくとも、再発可能性は極めて低く、加害者と最大の隠蔽者(援助者)はともに亡くなっている。そして、おそらく命令された援助したひとたちは、特定不可能だから、加害行為を刑事的に罰することも不可能といえる。
 
 すると被害者に対する慰謝料を払う。これは、おそらく行われるだろう。だが、これも何かすっきりしない感じがある。もちろん、そうした補償をすることは必要だという前提だが。私には、ジャニーズに属するタレントを、有名どころ以外は知らないので、被害を公表したひとたちが、現役のジャニーズ事務所所属のタレントであるかどうかの正確な判断ができないのだが、なんとなく、人気タレントたちはいないように思われる。しかし、人気タレントたちが被害者でないということではないだろう。公表したひとたちが、勇気ある人であることは否定しないが、公表しないひとたちが、いくじのないひとたちとはいえない。仮に、キムタクが被害者だったとしても、自分は被害を受けたから慰謝料を要求する、というような対応をするとは思えないのである。
 
 ホリエモンが、たびたびyoutubeで触れているが、私にはあまりピンとこない。何度も、アメリカの例を出し、エプスタイン事件に関連して、エプスタインから研究資金を提供されていたMITの教授であった伊藤氏が辞任(ホリエモンは永久追放といっている)したことを「世界標準」としているが、アメリカではそういう事件があったということは間違いないが、ただ、伊藤氏は「永久追放」になったわけではなく、自ら辞任したのではないだろうか。他にもさまざまな重要なポストについていたが、ほとんど辞任して、現在では、日本の大学の学長になっているようだ。そして、資金提供を受けていたことだけが、辞任の理由ではなく、それを隠蔽しようとしたとされて、批判が強くなったこともあった。
 ホリエモンが怒っていることはわかるが、伊藤氏のことで、何をいいたいのか、私には理解できない。伊藤氏は、エプスタインから多額の研究資金を受けとっていたわけだが、ジャニー喜多川は、多額の寄付をしていて、その寄付を受けとった人は辞職すべきだというようなことをいいたいのだろうか。おそらくそういう人はいないようだが、もちろん、タレントを派遣されていたテレビ業界は、ずっと関係を続けていた。ジャニーズタレントを起用したテレビ局は、責任者が辞職すべきだといいたいのだろうか。
 名称変更すらしない、と非難していたが、名称を変更するかどうかは、経営者たちは、その損得を検討して、名称を残すことにしたのだろう。当然、その不利な側面は認識しているはずである。あるいは、会社を解散させるべきである、というのだろうか。しかし、会社がなくなれば、補償もしにくくなるにちがいない。むしろ、実際に会社を解体したら、補償逃れとみなされる可能性のほうが高いように思われる。
 
 ああでもない、こうでもないと試行錯誤してきたが、結局は、被害者への救済措置・補償をすること、そして、世間の目として、それを監視することが必要だということになるのではないだろうか。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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