大谷の怪我は誰の責任

 大谷が肘の靱帯損傷で今期の投手としての出場が不可能になった。打者としては活躍しているので、よかったという雰囲気だが、本当に打者として出場しつづけることがよいのか、疑問も提起されている。
 大谷の身体が、あまりの酷使故の疲労が蓄積していて、危険な状態にあるのではないかとは、7月以来いわれてきた。とくに、投手として出場しているときに、途中降板することがたびたびあり、休ませるべきであるという声が強かったのは事実である。しかし、どういう契約になっているのかわからないが、報道をみる限り、大谷自身の強い希望で、試合に出続けていたようだ。そして、大谷に検査を勧めたのだが、マネージャーと大谷本人が拒否したのだ、といういいわけが経営サイドから公表され、顰蹙をかっている。ただ、経営側としては、自分で試合にでたいといい、検査を拒否したのだから、大谷の自己責任である、というのは、ごく当たり前のことではないかという感覚なのかも知れない。しかし、経営側は、選手が最高の状態でプレイできるように配慮するのが、役目のはずだから、そういう言い逃れは、やはり見苦しいし、自分たちの首を絞める行為でもある。そして、反感をかうことだけは確かだ。

 さて、大谷が試合にでたいといえば、監督はださざるをえないのか。常識的には、そんなことは考えられない。出場メンバーを決めるのは、最終的には監督のはずであり、いくら有力選手であっても、監督が出場メンバーにいれなければ、出場することはできない。大谷が身体の状況は大丈夫だから出る、といっても、いやここは休め、という権限は監督にあるはずである。もちろん、大谷がでるからこそ、ファンは試合を見に来るから、大谷を休ませるのは、むずかしいという事情があることは間違いないだろう。しかし、結局、潰してしまったら元も子もない。
 
 大谷は、とにかく野球のために、すべてを振り向けているストイックな生活をしていることは、よく知られており、とくに、充分な睡眠をとることに注意しているから、長い連戦を休まずに活躍できることもよく知られている。そして、並外れた体力の持ち主だから、大谷に大丈夫といえば、そう思いたくなるのは、監督として自然なところとはいえる。だが、やはり、今回の大谷の故障に関しては、監督の責任が大きいように思われる。エンゼルスの状況をみれば、経営側も現場監督・コーチたちも、そうとう問題があることは推測できる。
 
 さて、それらとは違うレベルで気になったのは、イチローの指摘だ。直接、今回の大谷の故障についてではないが、イチローは、大谷のトレーニングには批判的だったといわれている。それは、大谷があまりに厳しい筋トレをしていることにたいしてだ。イチローは激しい筋トレには批判的で、自身もあまり行わなかったという。イチローと大谷の身体的特徴をみれば、その違いは納得がいく。イチローの見解は、筋トレによって筋力は強化されるが、筋肉をささえる靱帯は、強化されない。逆にいうと、筋肉が強化されて、身体がその強化された筋肉で、より激しい運動をすると、筋肉にともなって強化されるわけではない靱帯の負担がますというのである。いくら筋肉が強化されても、靱帯がそれに耐えられなくなったら、結局は、選手寿命を縮めてしまうというのが、イチローの考えであり、事実は、イチローは、40を超えても現役としてプレイしていた。大リーガーとしても選手寿命が長いほうであった。そういうイチローからみると、あまりに激しい筋トレをしている大谷は、あぶなっかしくみえていたらしい。
 では、トレーニングによって靱帯を強化することは本当にできないのか。ネットで調べる限り、筋力トレーニングをすれば、靱帯も強化していることになるというのだ。だが筋力の強化と並行してというのはどうなのだろうか。筋力のトレーニングをすることによって、筋肉の細胞が増加し、明らかに筋肉質の身体になっていく。見た目にもわかるような、筋肉そのものの増大があり、力も増すわけだ。しかし、同じように靱帯の細胞も増えていくということは、どうもないらしい。そういう意味では、靱帯も強化されるが、その割合は筋肉よりはずっと小さいと考える必要があるのかもなしれない。すると、イチローの指摘するように、あまりに過度の筋トレをすると、靱帯への負担がまして、故障しやすくなるというのは、正しいのかも知れない。そして、スポーツジムにいっても、靱帯のトレーニング用のマシンは見たことがないから、やはり、靱帯のトレーニング自体がむずかしいに違いない。
 そういう点を考えると、大谷のトレーニング方法に多少無理があり、それが今回現われてしまったということも考えられる。もちろん、充分な休息をとり、苛酷な出場を続けるようなことがなければ、今回のような損傷はおきなかったことは、充分考えられるから、監督等指導層の責任は免れないと思うが、長期的には、大谷自身のトレーニングに対する修正が必要になるのかも知れない。もちろん、そのようなことは、本人が充分に認識しているだろうが。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です