29日に特別チームの記者会見があり、個人的にはかなり驚いた。この特別チームは、ジャニーズ事務所がメンバーを選んで、再発防止策等の検討を依託したものだ。メンバーに林元検事総長がはいっていたことに、まず驚いた。この人は、ミスター検察といわれた気骨のひとで、安倍政権で、圧迫されていた人だ。そういう人を選んだことに、事務所もかなりまじめに取り組もうとしているのかと思ったのだが、予想をこえて、厳しい見解が示された。長期間の性加害があったこと、そして、現在の主張のジュリー氏が、認識していたことを認定し、さらに辞任を勧告したわけである。事務所が依託したチームが、これほど依託元に厳しい評定をしたというのは、かなり珍しいように思う。
安倍元首相が、林氏の検事総長就任を阻止すべく、黒川氏の定年延長を画策したことが、なるほど、安倍氏にとっては、いやな存在だったのだろうと、改めて納得したものだ。
さて、この報告を受けてかどうかは定かでないが、メディアで活動しているひとたちの「反省の弁」がかなり語られたと報道されている。「ジャニ性加害「マスコミの沈黙」に最も踏み込んだ宮根誠司 安住&有働アナ、古舘伊知郎は…」だ。
反省というのは、しないよりはしたほうが誠実だろうと思うが、大事なのは、リアルタイムで問題を指摘することだろう。当事者が死んでから、そして、海外での報道があり、どうにもいいわけが通用しない段階になって、反省の弁をいっても、しらけるだけだ。
そして、逆にメディアの現実無視の姿勢が、浮き彫りになっている感じだ。つまり、現在進行中の「木原事件」は、人が殺されたことを、警察や政治権力が捜査を妨害し、事件性がないと「宣言」し、そして、明らかに事件であることを指摘した元刑事を、守秘義務違犯で逮捕しようと画策しているという「事態」だ。この件に関して、大手新聞とテレビが、まったく報じていないことは、異様な感じがするほどだ。メディアにいる以上、知らないはずはない。知っていても無視を決め込み、事態が社会的になって、あとで、俺たちちゃんと知って認識していたよ、などとうそぶくメディアの対応は、いままで何度もあったが、現在は、孤軍奮闘しているメディアや、告発している勇気ある人を圧迫する事態になっているのに無視を決め込むのは、さらに酷い。
思い出すまでもなく、ジャニーズ問題を孤軍奮闘して報道していたのは、今回と同じ『週刊文春』だった。そして、他のメディアは、一切無視し続けた。文春が訴えられ、事実上文春が勝ち、性加害が裁判で認定されたにもかかわらず、大手メディアは報道しなかった。当時は、現在のようなSNSはなかったし、情報が大手メディア以外の媒体で広まることは、むずかしかった。そういう事情もあり、大手メディアはだんまりを続けることがあっても、そのこと自体が問題にされることはあまりなかったと記憶する。もちろん、私自身も、個人としては、ジャニー氏の性加害はなにかで知っていたから、ある程度認識されていた事実であったのだが、あれほどメディアが無視すれば、事態が動くこともなかったわけである。
しかし、現在は事情が根本的に異なる。ネット、とくにyoutubeは、連日あちこちでこの話題が取り上げられ、無視しているメディア批判も活発である。それにもかかわらず、大手メディアはまったく動かない。そして、『週刊文春』に対する警察の圧力が高まっているとされる。まるで、戦時中の新聞やラジオのような気がするほどである。
このような事態を目の当たりにすると、日本には、結局「ジャーナリズム」と呼べるメディアが存在しないのかと思わざるをえなくなる。私は、ジャーナリズムとは、政治権力をもった人々を監視し、不当なことをしたらそれを批判して、社会にそのことを喚起するのが、役割だと思っている。もちろん、政治が国民のための政策を推し進めているときには、協力をすることも役割だろうが、やはり、批判こそが、ジャーナリズムの存在意味である。
しかし、これまで何度か大手新聞のひとから取材をうけたことがあるが、その度に、彼等の奢りを感じざるをえなかった記憶がある。私が取材をうけるときには、多くがインターネット利用にかかわることだったが、彼等の意識は、インターネットは、真偽の定まらない、どちらかといえばいいかげんなもので、正しい情報はやはり新聞がになっているのだ、という意識が滲み出ているのである。だが、私は、かなり前から、インターネットこそ言論空間の中心になると思っていたし、いまでもそう思っているが、そういう私からみると、新聞記者のこうした見方は、時代の変遷を見ることができないものだと、だいたいは感じたものだ。
もちろん、現場で取材活動をしている記者たちは、事実を見据えていて、いわねばならないと感じている人も多いにちがいない。本当に問題なのは、メディアの上層部なのだろう。それは警察も同じだ。問題になっている殺人事件を、実際に捜査にあたっている刑事たちは、みな事件だと思っているが、結局、それではこまると考えるひとや、上層部は警察の体面を守るために、黒を白といいくるめて事実を葬り去ろうとし、彼等にのって出世しようと目論んでいるものたちが、告発者のあら探しをやっているのだろう。だから、警察全体が腐敗しているわけではないのだが、上層部はあまりに酷い状況であり、その警察上層部ににらまれることをおそれて、何もいわないメディアは、ジャーナリズムではないと思わざるをえないのである。
まえに、ネット対大手メディアのたたかいと書いたが、寝たふりの象と飛び回っている昆虫の構図になっているのかも知れない。