まわりにロシア人が来たら

 ヤフーニュースに、テレ朝ニュースで報じたものの記事が掲載されている。「「ロシア人は帰れ」国を捨てた先で待っていた”拒絶” 若者たちの苦悩【現地ルポ】」というものだ。
 ジョージアの話で、ジョージアには、ウクライナ戦争勃発のあと、多数のロシア人がやってきた。そして現在、ロシア人にたいする反感が最高潮に達しているというのだ。かつてジョージアはロシアと戦争をおこない、散々な目にあっている。ソ連が崩壊して、独立したわけだが、その当時はグルジアと呼ばれていた。私たちの世代では、スターリンの故郷であるということでも有名だった。独立後も混乱が続いたし、ソ連時代の外務大臣として、日本でもよく知られていたシェワルナゼが大統領をしていたが、選挙の不正ということで、混乱が生じて辞任したり、そして、その後、南オセチアをめぐって、ロシアとの間に激しい戦争が起きたりした。

 現在では、西側志向が強いが、ロシアとの関係を悪化させるのも恐れているのだろう。ロシア人がビザなしで入国できる唯一の国だ、というグルジア内で活動しているナターシャという女性が語っている。だから、ウクライナ戦争から逃れて外国に出国したロシア人の、かなりの人がジョージアにやってきた。そして、以前からの対ロ感情のうえに、戦争や多すぎるロシア人という事態に、反感が大きくなっているというわけだ。そういうなかで悩みながら活動をしている、何人かの若いロシア人が紹介されている。テレビはみなかったが、この記事はとても問題を掘り下げているよい記事だと思う。
 
 今の時代だと、ロシアと距離的に近い国で、ロシア人が多く住んでいるということ自体が、脅威を生む原因となるのだ。ウクライナでも、最初の武力衝突は、ウクライナ東部でロシア人が多く住んでいる地域だった。実際のところはわからないし、多様な理由があったのだろうが、とにかく、ロシアが、東部のロシア人がウクライナ政府によって抑圧されているという口実をつけ、ロシアの軍隊を密かにいれ、そして、騒動をおこしたというのが、おそらく真相だろう。ロシア人の安全を確保するためだ、と称して、正式な協議をすることもなく、事実上武力侵攻をしてくる。事実として、ウクライナ政府が、東部のロシア人への好意的でない政策をとっていたとしても、それは基本的には内政の問題であって、少なくともロシアが軍事的な介入をしてもよいという理由にはならない。ロシア人への抑圧政策というのは、おそらく、ロシア語を公用語からはずすというようなことだったのだろうが、そのようなことをしなかったとしても、プーチンの姿勢をみれば、ウクライナになんらかの理由をつけて、介入をしていったことは充分に想像できる。つまり、大事なことは、国内にロシア人が多数存在していると、そのことだけで、ロシアが介入してくる口実になる危険があるという感情を、ジョージアのひとたちがいだいているということだ。北海道には、ロシア人が多数住んでいるわけでもないのに、北海道はロシアの領土だ、などと公言する政治家がロシアにはいるのだから、ジョージアのひとたちの不安も根拠があるといわねばならない。
 
 こういう記事を読まなくても、もし、いま自分の近いところにロシア人がやってきたら、どういう態度をとるだろうか、ということはよく考える。少なくとも、ごく普通に、他のひとたちと同じように、親しくなったり、あるいは逆であったり、あるいはとくに関わりをもたなかったりする、ということはないと思う。やはり、ウクライナへの侵略戦争について、どう思うか、と確認せざるをえないだろう。そして、プーチンのやっていることを支持しているといったら、きつい表情をして、一切付き合いたくないといわざるをえない感じだ。そして、支持しないといったら、では、その気持ちをどのように現実の力にしているかを問うだろう。もちろん、日本にいるわけだから、反戦運動をしたり、反戦意思表明をしても、身の安全が脅かされることはない。ほぼ自由にできるはずだ。少なくとも、ロシア国内にいる家族に、正しい情報をつたえ、ロシアが間違っている戦争をしているということを、認識させるような活動は、最低限してほしいと思うだろう。後半に登場するザックという21歳の青年は、戦争にいきたくないから、徴兵される書類を焼き捨てて、ジョージアに逃れてきたという。帰って来いという母は、ブチャの虐殺はアメリカがやったと思い込んでいるそうだ。おそらく、そういうロシア人は多いのだろう。だから、国内の人々に、事実を教えることはとても重要な活動だ。
 ナターシャという女性は、自分も含めて、ロシアのやっていることに反対しているロシア人もいるということを絶えず表明していくことが必要なのだ、と語っている。彼女はさらに、逃れてくるウクライナ人の支援活動をしているようだ。こうしたひとたちが、やはり、ジョージア人の感情を変えていくのだろう。
 
 実は日本でも似たような問題を抱えている。ロシア人にたいして、それほどお説教をいえるような位置にはいない。慰安婦問題や南京事件の問題を否定するひとたちが、いまでも日本には少なくない。もちろん、私は中国のプロパガンダ的な誇張や、韓国の団体の主張を肯定しないが、だからといって、こうした問題がなかったというのは、事実を否定しているとしかいいようがない。そして、その事実は、歴史としてしっかり学んでいくことが必要であり、再びそうしたことがおきないような政治を行っていくことが必要なわけだ。時間や空間が離れていても、引き受ける必要のある責任から、逃れることはできない。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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