私は、推理小説や刑事ドラマが好きだが、実際の事件は好きではない。当然のことだが。いやな事件がおきるたびに、憂鬱になる。それにしても、札幌のホテルでおきた首なし殺人事件には驚いた。この事件には、あまりにも通常の生活とは異なる要素が多くて、私などには、リアルに想像することができないほどだ。まだ、今でもあるのかというディスコのパーティが、最初の舞台だった。被害者がディスコパーティで目立つような感じで踊っていたという。そして、加害者とみられる人物とホテルにいき、つれは早めに退出し、もう一人、つまり被害者がチェックアウト時間になってもあらわれないので、見に行ったところ、死んでいたというのである。そして、どうやら犯人は女らしいということになった。いくら60代とはいえ男性を、女性が殺害して、首を切断することなど可能なのだろうかと思ったが、今日、容疑者が逮捕されて、さらに驚いたのが、共犯として父親が一緒に逮捕され、しかも、その父親は医師だという。その医師は、ホテルにはいったわけではなく、車で送迎したのだということだ。
けっこう時間が経過したし、防犯カメラで追うことができない、と報道されていたので、かなり長期にわたるか、あるいは迷宮入りも考えられたが、意外と早い逮捕だった。もちろん、真犯人かどうかは、今後の裁判をまつほかないが、こうした殺人事件では、警察はよほど慎重に捜査するので、冤罪事件は、極めて稀にしかおきない。おそらく、この二人が関与しているのだろう。ただ、犯人は女性らしいということだったから、娘が犯人であることは、確度が高いとして、父親が積極的に関与したかどうかはわからない。もしかしたら、娘が外出していて、夜もかなり遅くなった時点で、迎えにきてくれという電話があり、車で待ち合わせの場所に迎えにいっただけという可能性もある。その場合、実際に何も知らなかったという可能性はゼロではない。
他方、完全に共犯関係で、医師でありながら、そうした猟奇的な趣味をもち、娘とそうした趣味を共有していたという可能性もある。医師だから専門的な知識があり、首の切断など、指南した可能性もある。首をきるということは、そんなに簡単なことではないはずだ。昔の介錯なども、失敗することも少なくなかったようだ。
最近ではあまり報道される事件がなくなったが、遺体をばらばらに切断して、異なる場所に遺棄するという事件が、けっこう続いておきた時期がある。殺人場所が、だいたい都会の市街地で、遺体を運び出すことが難しいので、遺体を切断して、小分けにして運び出すという方法をとったものだった。犯人たちが、猟奇的な趣味だったわけではない。そして、小分けにした部分をそれぞれ目立たない場所に埋め込めば、犯罪そのものが露になることを防ぐことができる。そういう意図だったろう。
しかし、今回は、それとはまったく違う。わざわざホテルに一緒にいって、首だけもちだした。被害者が誰であるかをわからないようにするというのは、少々無理だろう。なんといっても、大勢のいるディスコパーティで、たくさんの人にみられていて、しかもそれなりにそういう世界では有名人だったという。そして、そこから二人ででていくことも目撃されているのだから、少なくとも被害者が誰であるかを特定するのは、それほど困難ではなかったはずだ。とすれば、犯人もみられている。頭がなくても、被害者の身元はわかるだろうと、犯人も理解していたにちがいない。すると、首を持ち去ることに意味があったのだろうか。そういう点については、私にはまったくわからない。
私が今回の事件の解決で改めて思ったのは、防犯カメラの威力だということだ。防犯カメラで追うことができないと発表されていたのは、犯人を安心させるための意図的なフェイクニュースだったのではないだろうか。きちんとおえていたから、父親が車で迎えにきたことまで明らかにできたのだろう。防犯カメラについては、プライバシー問題で、大きな論議があったし、いまでもある。私は一般的にはプライバシー尊重派だが、防犯カメラに関しては、推奨派である。防犯カメラがプライバシー侵害だという側面がないわけではないが、事件にかかわるようなことがなければ、防犯カメラに映っている程度は、たいした被害があるわけではない。それにたいして、犯罪が起きたときの解決手段としての威力、そして、そのことの反映としての犯罪の抑止力は大きいと思うからである。大きな事件の解決のほとんどに、近年は防犯カメラが大きな威力を発揮している。社会の安全のためには、不可欠なものになっている。