苦境のウクライナと卑怯なアメリカ

 次第に、少しずつ成果をあげているとはいえ、ウクライナはやはりかなり苦しい展開だ。大攻勢をかければ、ロシアは大敗北をきっして、退却するなどと考えていた人がいるのかも知れないが、現状の形態では、そんなことはありえない。ロシアは勝てない、しかし、長期戦に持ち込めば、次第にロシアに有利になっていく。来年まで決着がつかなければ、バイデンが大統領選で勝利する可能性はかなり低くなるにちがいない。最悪トランプがでてきたら、ウクライナにとっては、完全に悲劇だ。もっとも、トランプ以外の共和党であれば、そうはならない可能性もあるが。
 さんざん書いてきたことだが、ウクライナが比較的早期にロシア軍を追い出すことは、そのための兵器が準備されれば、可能なはずだ。それは、ロシア軍の兵站を、ウクライナ領内はもちろんのこと、ロシア国内の兵站基地、軍事基地まで含めて、数百キロ以内のものは、徹底的に攻撃破壊できる兵器を、ウクライナに供与すればよい。兵站を徹底的にたたき、補給ができなくすれば、侵略軍は撤退せざるをえない。そういうことは、古今東西を通じての軍事的初歩だ。だから、ウクライナは、そういう兵器を強く要求してきた。兵站をたたく作戦であれば、ウクライナ兵の死傷者はほとんどでないし、また、ロシア兵にしても同じだ。ウクライナとしては、侵略軍を追い出せばいいのだから、派手な戦闘をして勝利する必要はないのだ。長距離ミサイルと戦闘機。これにつきる。

 
 だが、常にアメリカが、そういう兵器の提供を拒否している。ポーランドやイギリス、その他の国が、アメリカが承知するように、働きかけているが、結局バイデンは非常に頑固である。自分たちが戦争に巻き込まれないように、などということをいっているが、当然それはあるとしても、さらに、アメリカは、この戦争を長引かせたい、あるいは、ウクライナが簡単に勝利してはこまるとさえ、考えているかのようだ。
 
 開戦当初のことを思い出そう。私は、この戦争が、プーチンの野望だけではなく、アメリカの挑発がプーチンに侵略を決意させた要因のひとつであると主張してきた。そういう見方をする人は、当時も少なくなかったし、いまでもいるだろう。ただ、厖大な援助をアメリカがしているのも事実だ。というよりも、うがった見方をすれば、厖大な軍事援助をするために、ウクライナとロシアのあいだに戦争状態をつくりだしたと考えるのが自然だろう。どんな産業でも、商品を生産してそれを売って成り立っている業界は、商品が売れないとこまる。そして、一度変われると、ずっと長く使われる商品であるというのもこまる。だから、耐久消費財であっても、新製品をだして、買い換え需要をつくりだす必要がある。どんな商品でも、3、40年前につくった製品をそのまま、現在でも売っているなどという業界は存在しない。使うことによって、次第に磨耗して、ある程度の寿命を商品にはもたせているといえる。
 
 兵器産業についても、事情はまったく同じである。兵器は、耐久(戦闘機、戦車等々)と消費財(弾丸)がある。いずれにせよ、使われて、適当な時期に買い換えてもらわなければ、兵器産業は潰れてしまう。しかし、兵器産業がほかの産業と異なるのは、商品が使われるということは、戦争が行われることを意味することだ。さらに、車であれば、普通に試験道路で製品の検査が可能だし、新製品のチェックも可能である。また、日常生活のなかで、製品に関するデータを取得することも簡単にできる。しかし、兵器に関しては、正確なデータは、戦争のなかで使われることで、もっとも確実に取得できるし、それが新製品の開発にも有効である。だから、軍需産業は、10年に一度は戦争が必要だと、前からいわれてきた。湾岸戦争は、そのためにアメリカがフセインをそそのかして、クウェートを占領させ、報復の戦争をおこしたと、当時からいわれていたものだ。
 
 今回のウクライナ戦争は、アメリカ軍需産業にとって、絶好の在庫の整理、兵器の効用の実験調査、それを踏まえた兵器の売り込み等々のチャンスであり、実際にそうなっている。だから、いろいろな兵器の調査のためには、簡単に終わってはこまるのだろう。ウクライナにとっては、ほんとうにいい迷惑だ。(もっとも、ウクライナも、状況を甘くみて、戦争を回避するためのあらゆる方策をとらなかったことも否定できないと思う。)
 
 さて、最近、アメリカがクラスター弾をウクライナに提供したことについて、議論になっている。非人道的な兵器であるクラスター弾の使用はやめるべきだし、アメリカは提供すべきではない、そのように、政府は働きかけよ、という声をあげているひとたちだ。ただ、実際にロシアはウクライナにたいして、当初からクラスター弾を使用しており、ロシアにたいして、やめろ、といっても、やめるわけはない。自国の兵士すら、粗末に扱い、まるで虫けらのように考えているのではないと疑うくらいだから、クラスター弾をウクライナに使うことなど、まったく躊躇しない。そういう状況を前提に、アメリカとウクライナにやめるようにいうことは、銃をもってむかってくる人に、ナイフで応戦しろというようなものだ。
 ただ、私も、アメリカがクラスター弾を提供することについては、それは違うだろうとは思う。提供すべきなのは、長距離ミサイルと戦闘機なのだ。そうすれば、もっとも双方の人的被害が少なく、そして、早期に戦争を集結させることができ、ウクライナからロシア兵を撤退させることが可能なのである。というより、それ以外にウクライナ側の対応として、ロシア兵を追い出すことは、ないといえる。(ロシア兵撤退のもっともありうる要因は、ロシア内部での政変だ)
 
 バイデンが再選したいなら、はやくウクライナを勝たせることだ。
 そして、我々日本人として、肝に銘じる必要があることは、アメリカ発の戦争の危機論に、けっして乗らないことだ。「**の危機は日本の危機」などということは、完全な間違いである。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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