高齢者優遇政策ってほんとうか?

 私もとうとう後期高齢者になってしまった。そして、一月後、市から封書がとどいた。市からの封書などは、まあろくなものはない。だいたい税金関係だ。そして、案の定、税金関係の書類だった。後期高齢者保険証というのがあるのだが、私はまったく知らなかったのだが、実はこれに、特別の保険料がかかるというのだ。もちろん、定年退職しているので、国民健康保険になっており、先日保険料を納めたばかりだ。さらに、後期高齢者健康保険の保険料が必要だというのである。しかも、通常の保険料より高額なのだ。びっくりした。たしかに、後期高齢者になれば、医療機関を利用することも多くなるだろう。しかし、それは通常の国民健康保険で充分だ。なにか特別に後期高齢者健康保険でなければ対象とならない疾患でもあるのだろうか。そもそも私は、ほとんど医療機関を利用しない。昨年は一度も病院にいかなかった。今年になって、目がかなり充血したし、目を酷使しているので、眼科にいったが、ごく簡単な治療で、目薬をもらって終わりだ。

 退職後は、年金生活だが、これまでかかってきた税金や社会保険で、なくなったの年金関係だけで、他の社会保険料はそのまま継続して徴収されている。介護保険料もばっちりとられているし、基礎年金しかない妻にも介護保険料は課せられている。そして、私には後期高齢者健康保険料が追加されてきた。
 こうして高齢者になってみると、世間でいうところの「高齢者優先の政策」などというものが、まったく実感として感じられないのである。年金をもらっているではないかというが、年金を受け取るようになったのは70歳からだから、それまで50年間年金のための社会保険料を払い続けてきたのである。利子等もふくめて考えれば、自分が支払った分を受け取れるとは思えない。そして、年金以外の社会保険料や所得税、地方税はちゃんととられている。高齢者優遇というと、これまでのところ、公共交通機関が無料になると、医療費が無料になるというイメージがあったが、少なくとも私の住んでいるところで、公共交通機関は割引もないし、医療費は、後期高齢者は割り増し徴収がある。(これは全国共通だろう。)
 
 ここで書くことは、統計とか客観的な数値をもとにしているのではなく、あくまでも実感である。
 高齢者が優遇されているということにたいして、では若年層、子ども層はどうなのだろうか。
 たとえば、多くの地域では、乳児から、かなりの年齢まで、子どもの間は医療費が無料となっている。また、子ども手当など、現金の支給があり、さらにその額を増やそうという政策がある。交通機関などの割引も小学生くらいまで、ごく一般的である。つまり、子どもについては、子どもがいることによる、特別な社会保険料とか税金は存在せず、逆に子ども手当などの支給や医療費の無料措置がある。そして扶養控除があるわけだ。
 教育費は、多くが子どもや若者にたいしてかかるものである。国立大学における学生にたいしての費用などは、かなり多額になるはずである。高校の授業料も実質無償化されている。義務教育は、当然無償である。このように考えれば、子どもや若年層への公的支援は、かなり大きなものなのである。
 私が住んでいるところは、子育てに便利な街ということになって、保育園に通わせている夫婦が多く、小中学校はあふれ返っている。若い夫婦は税金をそれほど多く払わないから、実は、市は赤字である。つまり、子育て世代のほうが、多く費用がかかっていると思われるのである。
 
 それにたいして、高齢者にたいしては、医療費は通常のようにかかるし、税金も高齢であるが故に優遇されているわけではない。
 このようにみれば、どうして高齢者が優遇され、若者や子どもが不遇な政策が行われているなどといえるのか、不思議になるくらいである。
 もちろん、若者や子どもにたいして、充分な措置をとることは当然であって、それをやめて、高齢者をもっと優遇せよといいたいわけではない。私が今回おかしいと思ったのは、高齢者であっても、普通に税金や社会保険料を徴収されているにもかかわらず、そして、他の特別な優遇措置などあまりないにもかかわらず、高齢者が優遇されているかのような、メディアの報道はおかしいということである。逆に、事実と反対であるにもかかわらず、高齢者が不当に扱われているのが、交通事故をおこした場合である。高齢者の交通事故は、積極的にメディアはとりあげるという、申し合わせのようなものがあるのだそうだ。実際に交通事故がもっとも多いのは20代の若者であることは、よく知られている。しかし、20代の若者が交通事故をおこしても、よほど悪質な事故でないかぎりニュースになることはない。しかし、高齢者の場合には、軽い事故であってもニュースになる。これは、高齢者に対する喚起を含めて、とにかく、政策的に実施されていることなのである。不公平ではないのだろうか。
 
 よく高齢者優遇政策がとられていることの理由に、高齢者の投票率が高いことと、社会の実力者、政治家や財界のトップたちは高齢者が多いからだ、といわれる。しかし、社会福祉などの政策は、基本的には弱者への援助なのであって、有力政治家や経営層は、弱者ではないから、高齢者の福祉などは、自分のこととは考えていないのである。むしろ、労働力確保という点から、若年層への施策のほうに、熱心なはずである。それが適切な政策となっているかは別問題であるが。結局、高齢者に対するメディアのネガティブ・キャンペーンが、いろいろな面で仕組まれているような気がする。
 私は、高齢者もできるだけ労働の現役でい続けるべきであると思うし、それが、ほとんど唯一の高齢化社会の解決策なのだが、実際には、働ける人は働いているのではなかろうか。そして、各世代にそれぞれの課題があり、それぞれに公正な政策がとられる必要がある。ひとつの世代へのネガティブ・キャンペーンは、やめてもらいたいものだ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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