温泉ブームは環境破壊にならないか

 北海道の蘭越町で突然蒸気が大量に噴出し、大きなニュースになっている。地熱発電の調査のための掘削をしていたら、突然光熱の水蒸気が噴出し、付近からは砒素が検出されたということで、大きな騒ぎになっているが、もう少し広い話題で、羽鳥モーニングショーでこの話題をとりあげていた。ここでの話題は主に地熱発電だった。解説によると、日本は地熱発電の可能資源が世界で三位なのだそうで、今後のエネルギー政策上重要だと強調されていた。しかし、全面的には賛成できないような面をいくつか感じた。

 ひとつは、地熱発電は、再生可能エネルギーであるかのようないい方をしていたことだ。しかし、番組でも、たしか地熱発電をするには、地下にある光熱の水蒸気を活用して発電をするもので、そうした水蒸気には「埋蔵量」といういい方をしていた。そして、実際にその量の各国比較が紹介されていた。玉川氏が、要するに温泉が吹き出したようなものだろうといっていたが、そうなのだろう。再生可能エネルギーとは、基本的に、太陽エネルギーを使うもので、太陽エネルギーの熱量を直接利用したり(太陽光発電)、太陽のエネルギーを間接的に利用する風力、波発電などであり、太陽エネルギーは、使用したら減るというものではないから、再生可能エネルギーといって間違いない。しかし、地下にある地熱利用可能な熱湯は、地下にあるもので、少なくとも地下水と同じで使用料が、自然による蓄積量を上回っていけば、次第に資源そのものが減少していくものだ。アメリカは、巨大な地下水資源があるが、厖大な量の水を使う大規模農業が、その地下水をどんどんくみ上げて、遠くない将来に地下水が枯渇するのではないかと危惧されている。
 
 おそらく、数十年前までの温泉は、自然にわき出てくる温泉を活用していたと考えられる。自然にわき出てくるものを使用している以上、人為的な使用によって枯渇する心配は、あまりないと考えられる。しかし、近年の温泉ブームによって、自然にわき出る熱湯ではなく、地下奥底にある熱湯の水脈を深く掘ってくみ上げている温泉が急増しているのである。これは、掘削技術が進歩したことと、温泉ブームによって、収益が確保されるからだろう。ここ2、30年の間に、この人工的な温泉が急増し、自然の温泉が減少しているのだそうだ。量が減るだけではなく、温度が下がってくるので、実際に温泉として活用できなくなっているものもでてきているという。
 私は、温泉好きではないので、温泉ブームは冷やかにみているのだが、現在は、どこにいっても温泉がある。健康ランドなどの施設も、多くが自然温泉をうたっている。本当に自然温泉なのかと疑いたくなるような場所もあるが、たしかに、この地熱発電の調査掘削をみると、かなり深く掘るので、そうすれば温泉がでるのだろう。
 しかし、こうした動向には、私は不安を感じる。アメリカの広大な地下水脈が、大規模農業によって枯渇しつつあるという状況が、日本の温泉・地熱発電資源にも起きる可能性がある。
 
 日本は、温暖な気候で雨量も多いために、森や水資源は豊かであるという感覚があるが、実はそうではない側面もある。日本の川はほとんどが急流なので、雨が降っても、かなりは速やかに海に流れこんでしまうために、地下水になる部分が少ないといわれている。温泉は、地下水がマグマの付近にまで到達して、熱湯になったものだから、通常の地下水よりは深いところにあり、利用可能量は多いのかも知れない。しかし、今は日本の多くの地域で豊かな森が広がっている。地方に旅行にいくと、それを感じるのだが、実は、日本の戦国時代に、とくに西国の森林はかなり枯渇し、はげ山が多くなったといわれている。戦国時代になって、鉄をつかった武器が大量に生産されたために、金属を溶かすために、大量に木材が必要だったからである。現在の西国の森林は、江戸時代以降に、植林によって再生したものである。江戸時代は平和だったから、可能になったともいえる。
 しかし、現在の温泉ブームは、平和だからこそ広まっており、これだけ増えていて、更に地熱発電で利用されると、枯渇する危険性は十分に考えておかねばならないのではないだろうか。温泉好きのひとには、そうした環境のことも考えてほしいものだ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です