伊根の舟屋観光

 この1週間ほど、旅行に出かけていた。そして、本日無事帰って来た。これから、少し、旅行中に考えたことなどを書いていきたい。
 
 この旅行で最も印象に残ったのは、京都の丹後、伊根の舟屋である。残念ながら、ここを見学していたときに、スマホを車に置き忘れてしまったので、写真をとることができなかったが、ウェブ上にたくさんあるし、まさしく、そこでみられるようなものなので、ぜひそれをみてほしい。
 舟屋というのは、建物が、海にせりだしており、一階部分に舟をとめ、漁獲した魚の作業ができるようになっている家のことである。たしかに、現在は廃業している家もおおいので全部ではないが、一階部分に舟が停泊している家がたくさんあった。そして、いまでは、条例によって、この建築方式がこの地区に対しては義務づけられ、勝手にまったく別の様式に改築してはならないことになっているそうだ。そして、これが観光資源となり、毎年多数の観光客が訪れるという。私たちも、そういう観光客だった。

 
 まず思ったのは、何故この地域で、こうした建築が盛んになったのかということだ。理由は、だいたいがこの地域の自然環境によるものらしい。つまり、家の一階部分が事実上海の端になるのだから、海が荒れたら大変なことになる。つまり、ほとんど海が荒れることがなく、津波もないということだ。湾のなかにあり、かつ、小さな島が堤防のごく近くにあり、湾の地形、島、堤防などが波を穏やかにする働きをしている。実際に、舟で湾内一周の遊覧をしたのだが、ほんとうに静かな海で、まったく波などがない状態だった。そのときには、小雨だったが、前後は、線状降水帯で激しい雨がふっていた。つまり、それほど天気がよかったわけではない。
 もうひとつ社会的環境もあるだろう。このような家だと、漁業そのものが、各家族単位で、小規模なものにならざるをえない。だから、漁業組合として、大きな船をだすようなことはできないし、また、しなくても成り立っていたということだろう。ただ、現在も、それで生計がたてられるかは疑問で、そのためもあって、廃業が少なくないのではないかとも考えられる。観光収入で成り立つのかどうかはわからないが、民宿などに転用している家もあり、町全体としての努力は大いに感じられた。
 
 この舟屋をみて思い出したのが、オランダの家だ。オランダの家は、ほぼ集合住宅だが、運河に面している家のなかには、直接家のなかにボートをいれることができるものがある。そうした家では、家から直接ボートに乗ることができる。オランダは、車でのドライブとともに、ボートによるドライブを楽しむことも盛んである。だから、ボートを所有している家がたくさんある。しかし、一般的には、家にボートを停泊させておくことはできないから、有料駐船場(という名前かどうかはわからないが)に普段は停泊させておき、ボート遊覧を楽しむときに、そこまで車ででかけてボートに乗ることになる。このことでわかるように、家のなかにボートを停泊させるように設計された家は、高価であり、金持ちの象徴のようなものだ。
 伊根と同様に、運河がほとんど荒れないという条件があることも、にている。そもそもオランダの運河は、川ではなく、ほとんど流れていない。北海にむけて水を押し上げていくので、水門で運河を区切り、水を動力を使って上にくみ上げるのである。だから、それぞれの運河は流れがほとんどなく、したがって、荒れたり、水量の管理が徹底しているので、洪水もまず起きない。だから、家のなかに、ボートをいれても問題がないのだ。
 オランダでは、家庭単位のボート遊覧でも、橋をあげさせることができる。予め届けが必要なようだが、リモコンで操作をすると、橋があがって、車はすべてとめられる。その下をゆうゆうとボートで進んでいくのは、とても気持ちがいいのだそうだ。日本では、とうてい無理なことだと思うが。
 
 オランダには、ボートハウスというのもある。これはボーとそのものに居住していることになる。電気、水なども可能になっており、十分な居住スペースと用具がそろっている。もちろん、届けが必要だが、税金が安いそうで、比較的人気がある。通学・通勤もボートハウスからでかけることになる。これも運河が流れることなく、荒れもしないという条件だから可能なのだろう。
 
 私が住んでいる地域と、前の職場のいずれも、大きな川がある。ボート遊覧が楽しめるような状況になればいいのだが、と常々思っていた。江戸時代は水運が中心であったし、水運は昭和30年代くらいまで、関東には残っていた。しかし、ボートでの遊覧のためには、船着場が必要であり、現在ではすべて廃止されてしまったから、再建は難しいに違いない。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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