拍子抜けのプリゴジン

 昨日は、もう少し頑張るだろうと、正直思っていたが、やはりプーチンのほうが役者が何枚も上だったようだ。いくらいさましいことを言っていても、プリゴジンは、所詮は、料理人なのかも知れない。本当の軍人として、5万人の兵士たちのトップならば、あのような腰砕けは、恥以外のなにものでもないはずだ。ある種の武人ならば、負けを覚悟で華々しく暴れまわってやろう、という覚悟くらいあってしかるべきだ。
 とにかく、プーチンとの間に、なんらかの妥協が成立したのだろう。当然プーチンは、何か餌を用意したはずだ。最も考えられるのは、ショイグかゲラシモフの降格、責任者から外すという約束だろう。プリゴジンが素直に飲む条件は、そのことしか考えられない。
 もちろん、そんな約束はできない。お前は反乱分子だから、徹底的に殲滅する。軍のだれも、お前に呼応してたつやつなどいない。いたか?国軍を甘くみないほうがいい。本当にこのままワグネルの兵隊たちと進軍するというのならば、ミサイル攻撃をして、お前たちを木っ端みじんにする。すべての兵隊を殺害する。だが、もし、ここでおれるなら、反逆罪の罪にも問わないし、兵士たちも許してやろう。そして、名誉あるロシア軍の一員として参加させよう。その代わり、お前は、すべてから引退しろ、それ以外に助かる道はない。

 このようにいわれて、おれたという可能性もある。それは、今後数日間にショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長の地位がどうなるかで、わかると思われる。もちろん、前者の妥協をしたが、プーチンは実行する気ない、という可能性もあるが。本当にベラルーシにいったのなら、可能性としては、囚われの身ということか。
 
 報道されているように、ルカシェンコがプリゴジンを受け入れた、ということが本当であれば、いくつかの可能性がありうる。最もありうることは、ベラルーシで、そのうち暗殺されるという可能性だ。プーチンが、自分にあれだけはっきりと歯向かった人間を許すというのは、想像しがたいからだ。しかし、ルカシェンコは、そんなにプーチンに忠実なのだろうか。今回は、プリゴジンの反乱を抑えたことで、プーチンに貸しをつくったともいえる。プリゴジンの反乱行動をうまく収拾して、プーチンのご機嫌とりをしたという可能性もあるが、その反対に、プリゴジンを説き伏せて、いまは我慢しろ。そのうち、あのいやなプーチンに一泡ふかせようという目論見をプリゴジンと共有しているということも、ありえないわけではない。いくら、ロシアが大国といっても、プーチンの傲慢ないろいろな要求には、かなり腹をたてているはずだ。
 プーチンとしては、プリゴジンをベラルーシに派遣して、そこからウクライナに攻めさせるということを、考えている可能性は大いにある。しかし、それならば、ワグネルの兵士たちを、ベラルーシに大量に送り込まねばならない。最初のキーウ撤退以降は、ベラルーシからの出撃は許していないわけだから、それはルカシェンコとしては、認めがたいだろう。また、プリゴジンとしては、ウクライナの兵士たちの頑強さをいやというほど知ったわけだから、安易に引き受けないに違いない。
 
 ロシア、ウクライナ関係に、この事件が意味するところは何だろうか。プーチンの力のやはり巨大さなのか、それとも、あっさりと、軍施設を乗っ取られてしまうほどの、ロシア正規軍の脆弱さが明らかになってしまったことなのか。たられば、になるが、実際にワグネルがモスクワをめざして進軍し、ロシア軍と兵火を交わしていったら、どちらが優勢になったのだろう。それは、最終的には、軍事専門家と称する、テレビのコメンテーターの分析をまちたいが、私は、簡単にワグネルが掃討されたとは思わない。呼応するひとたちも増加したに違いないからである。最終的には、正規軍が兵器としては優勢なはずだから、押さえ込んだとしても、国民の間に、プーチンへの不信感が広がることは確実だったろう。
 ウクライナの勝利を望む者は、みなその事態を期待しただろうが、プリゴジンがプーチン政権を倒すという目的をもっていなかったことが、簡単におれてしまったことの原因だろう。しかし、闘って敗れてはいなかった以上、本当にプーチン政権を倒したいと思ったひとたちが、ロシア軍の意外なもろさに、ますます気づいたはずでもある。そうした動きを加速させることになることを、期待しよう。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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