ウクライナの大規模反攻が始まったとされていて、少しずつウクライナ軍が前進している。しかし、その前進の程度は、期待からすると遅々としたもので、うまくいっていないのではないか、という不安を感じている人も多いようだ。しかし、希望する、つまり、なくてはならない武器、長距離ミサイルや戦闘機を欠いた状態での攻勢なのだから、そんなに速い進展を期待するほうが無理というものだろう。昨年のハルキウ奪還は、あくまでも不意をついた攻撃で、ロシア兵が逃げ出したことが大きい。しかし、今回は、前々から大規模反攻をすると、ウクライナも宣伝していたのだから、どんなに士気の低いロシアでも、準備万端を整えているのだから、そうそう簡単に突破できるものではない。むしろ航空機戦力はロシアのほうが勝っているのだから、尚更だ。
だから、ウクライナ軍の攻勢だけで、ロシア軍が敗退して、全面撤退という可能性は、少なくとも今年度中にはないと考えられる。
しかし、現実問題として、いつまでもNATOが軍事支援を継続できるものでもなく、やがて、ロシアの占領が既成事実化してしまう危険もないわけではないが、ウクライナの勝利は、多くの人が予想しているように、ウクライナ軍がロシア軍を軍事的に圧倒することではなく、むしろ、ロシアにおける権力の崩壊によって、ロシア兵が本国に逃げ帰ることによって生じる可能性は、高いと思われる。ロシア兵の大部分は、なぜこんなところで闘わねばならないのだ、と思っているに違いない。しかし、徴兵され、厳重に管理されている状況では、ウクライナに降伏する手段はあるが、それもかなり難しいから、闘わざるをえないわけだ。しかし、ロシアの政府内で、戦争を遂行する責任者たちが、政治的権力を失ってしまえば、ロシア兵たちは、我先に逃げ帰らざるをえなくなる。
従って、今後もっとも重要な戦略は、ロシア国内での、さまざまな反対の活動を活発化させることだろう。そのようなことは、ずっと以前からいわれていたことだが、最近は、それが少しずつ現実的な意味を持ち始めている。ロシア国内での、ゲリラ的なインフラ攻撃はすでに盛んに行われている。軍事施設での爆発もおきている。そして、反戦デモの組織化だ。少しずつ盛んになっているようだ。これは、メディアにプーチン批判が公然とでるようになったことと連動しているだろう。もちろん、自分たちの生活に影響が及ばなければ、関係ない、という態度をとっているロシア人が多いが、少しずつ影響は及びつつあるし、戦死者が増え、また、ロシア国内の爆発などが増えてくれば、ますます「関係ない」わけではないと感じるひとたちが増えてくる。減ることはないだろう。
さらに、自由ロシア軍のような、ロシア人の反政府の軍事行動が、もっと大きくなれば、もっともよいだろう。そして、重点的に徴兵されているロシア辺境の共和国の「独立」の動きも、起り始めている。
また、こうした直接的な影響ではないが、重要な動きがロシアではない国に生じている。最近、いくつかの国が、ロシア人のビザを停止し、ロシアから逃げ出したひとたちを追い返す政策に切り換えたとされる。すると、ロシアの兵役から逃れるために出国したひとたちが、ロシアに帰国せざるをえなくなるわけだ。帰国した彼らが、大人しく兵役につくだろうか。そういう人もいるだろう。しかし、かなりのひとたちが、まわりにウクライナ侵略がいかにひどいものであるかを語るだろうし、そういうなかから、反戦デモに加わるひとたちが多数でてくるとしたら、ロシア人の追い出しは、大きな効果をもつことになる。もっとも、軍隊に応募したり、あるいは職場に復帰することで、ロシアに利することになるような行動をとる人もいるだろう。どちらに転ぶかわからないとしても、少なくとも、大きな混乱要素になることは間違いない。徴兵を嫌って、ロシアを逃げ出した人たちは、やはり、すんなり徴兵に応じない人も多数出てくるに違いない。
ウクライナの大規模攻勢が、軍事的な前進をすることも、そうした動きを促進させるためには、必要だ。少しずつではあるが、着実に前進はしていると報道されている。
そして、期待がこもっているが、ロシア内の混乱が拡大して、ロシア兵が逃げ出すひとたちが、次第に多くなるのは、それほど先のことではないように思う。軍隊というのは、それなりの大きな部隊が恐怖感に駆られて逃げ出せば、大規模な範囲で雪崩のように、総崩れになるものだ。とくに、士気の低いロシア兵であれば、危ないと思い、他に逃げ出す部隊があることを知れば、自分たちだって、となることは充分にありうる。ワグネルの撤退は、それに拍車をかける可能性もある。期待しよう。
ダム決壊で大量のロシア兵が被害をうけたとされているが、自国の兵士を犠牲にしてまで、相手への嫌がらせ程度の作戦をとる、ロシアという国家の特異性には驚く。これは、ナチスとの戦いでも同じようなことをやった経験があるらしい。ロシア兵ももっと目覚めてほしいものだ。