深刻な労働力不足

 コンビニに限らず、アルバイトで成り立っている業種は少なくないし、また、アルバイトとはいえなくても、非正規労働でなりたっているところもたくさんある。そして、そうしたところの多くが、今深刻な労働力不足なのだそうだ。しかし、以前はまったくそうでなかった業種でも、人手不足が深刻になりつつあるのが実情である。典型的には学校の教師だ。少し前までは、学校現場が教師不足で深刻な状況になったことなどなかった。いつでも、志願者のほうが多く、採用する側は、好きなように選抜ができた。そして、正規採用をせずに、1、2年臨時採用として、じっくり気にいるかどうかを見定めてから正式採用するようなやり方も、広く行われていた。今でもそうした県があるかどうかはわからないが、全国的には、教師は完全に不足状態で、校長や教頭が担任をせざるをえないような学校もあるらしい。そして、東京都は、事実上定年がなくなり、いつまでも働きたいだけ働けるともいわれている。
 かの官僚の世界でも、不足になっているわけではないが、志願者が大幅に減っているという。

 
 なぜ、こうなったのか。少子化の影響ももちろんあるが、結論的にいえば、働く者を大切にせず、消耗部品のように扱い、しかも、低賃金労働で賄おうとしてきたつけだといってよい。学校での教師不足は、その典型であるし、また、技能実習生などという看板で集めた外国人労働者を、やすい単純労働者として酷使してきた。そして、いつの間にか、というより、わかっていた者にとっては、当然の成り行きとして、そうした職場に応募しなくなり、生産性が落ち、経済力全体が低下した。
 外国人労働者に頼ろうとしても、今や外国人にすら見放されつつあるともいえる。労働者として大切に扱われないのだから、当然士気も低下する。
 
「各業界で深刻なアルバイト不足 「代わりはいくらでもいる」時代は終焉」
という記事があったが、各種業界での人手不足を報じている。問題なのは、こうした状況においても、事態が深刻であることを認識しない経営者たちが少なくないということらしい。これは、教員不足に対する文科省の対応をみてもわかる。免許をもっていない社会人でも教師になれるという政策を打ち出しているが、実は、そんなことはずっと前からやっているのである。だから、何も打開策とはいえないし、今のブラック状態で、より恵まれた状況で働いていた社会人が、学校の教師に応募する人が、多数出てくるとは思えない。肝心なことは、教師の殺人的な労働状況を本気で改善すること以外にはないのである。しかし、文科省の労働環境改善策は、まったく小手先の辻褄合わせに過ぎないことしか、打ち出していない。長年、これでやってきた上層部のひとたちにとっては、変えるということは、本当に難しいのかも知れないが、しかし、本気でやれば、学校の労働環境は変えることができるのである。
 
 アルバイトを雇う店のオーナーなどは、かつてはいくらでも応募者があったから、アルバイトを尊重するなどという姿勢をもてないままきていると、そういうところには、アルバイトもよりつかないという事態も起こっているようだ。当然だろう。
 それから、技術革新がおきているにもかかわらず、そこに適応していこうとせず、安い労働力(特に外国人)に頼って乗り切る道をとった多くの中小企業、そして、それを容認した政府が、結果として、日本の賃金水準と労働技術水準を低く推移させた、ひとつの元凶だろう。こうした場合、政府が指導性を発揮して、技術革新に適応できるような行政的施策をするか、あるいは、安い労働力でしのぐようなことを援助しないこと、つまり放置することに徹すれば、状況は変わったかも知れない。そういう意味では、リベラルは、新自由主義と批判してきたが、新自由主義としても徹底できなかった脆弱な施策に終始したのではないだろうか。
 ある時期から横行しだしたリストラにしても、労働者を大切にする、かつての日本企業のよさは、影をひそめ、労働者を使い捨てのコマとして扱うようになったし、また、労働者の側でも、労働組合が弱体化して、労働条件の向上を闘い取ることができなくなったことも、それに拍車をかけてしまった。
 
 学校の教師不足は、今後どんどん進行するだろう。文科省は、大学における教職課程についても、大学が教職課程を拡大して、学生に免許取得の機会を提供しようということを抑圧するようになっている。だから、私のいた大学では、教職志望者がたくさんいたのだが、教職をとれないと勘違いして、取得者が激減しているのである。つまり、他学部の授業をとることによって、教職をとれるのに、それを受験生に知らせてはいけない、などという、まったく理不尽なことを強要している。これだけ、教師志望者が減って、採用試験受験者が減少しているのに、大学での教職履修を制限するような措置をとっていることを考えれば、ますます教師志望は減っていくだろう。そして、教師不足が深刻になるわけだ。基本は、過酷な労働条件や管理体制なのだが。
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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