大谷の顔面への投球は

 4月24日(日本時間では25日)の試合で、大谷翔平に対して、うまくよけなければ、確実に顔を直撃する投球があった。何度もビデオをみたが、本当にきわどいタイミングでよけており、大谷の反射神経のよさを印象づけるものでもあった。あたったら、かなり深刻な事態になった可能性すらあった。
 投手が退場になるのかと思ったが、まったくそんな雰囲気もなく、審判もとくに注意したようにはみえなかった。日本なら、確実に危険球判定で退場ではないだろうか。しかし、大リーグはここらの考えが違うようだ。日本では、とにかく、頭部近くの危険な投球をしたら、危険球とみなされて、退場になることがある。しかし、大リーグでは、危険球であるかどうかは関係なく、報復死球とみなされると退場になるようだ。そうした映像を集めたものが、youtubeにあるが、投球が打者にあたったと同時に、躊躇することなく、球審は退場を指示している。そして、そのほとんどが、特に危険な箇所にあたったものではなく、あてられた打者も、特別痛がっている風でもない。つまり、危険な投球ではなく、「報復」をしたことが退場になるのだという。

 では、報復であるかどうか、などはわかるのだろうか。また、当日の試合ではなく、前日の試合の報復ということもありうる。その試合より前の試合に対する報復が、退場になるのかどうかは、私にはわからないが、もうしそうだとしたら、前の試合の情況も把握しておかなければならないのだから、球審も大変だろう。当日の報復としても、報復として投げた死球なのか、単に手元が狂っただけなのか、厳密にはわからないはずである。球審はどうやって判断するのだろう。
 当然、その前に死球があったことが、まずは判断材料だろう。そして、投げる直前の投手の視線が、通常は捕手のミットに向けられているが、打者をみながら投げた、そして、まっすぐに打者にあたった、と感じられたら、報復と判断するだろう。しかし、投手によって、打者の構えを重視して投げるから、打者をみながら投げる人もいるだろうし、本当に手元が狂ってしまったこともあるだろう。そこらは、球審の主観的な判断としかいえない領域なのだろう。
 
 ただ、日米野球の違いのひとつであることは間違いない。背景として、大リーグでは、報復が普通にあるらしいが、日本では、あまりないと感じる。まったくないとはいえないようだが。報復は、当然なんらかの処置をしなければ、ずっと続くことになる。だから、報復を断ち切るために、たいした危険球ではないとしても、即時退場にしていると解釈できる。退場になったあと、報復の連鎖が断ち切られるのかどうかは、わからないが、この辺で治めておこう、ということにはなるかもしれない。
 それに対して、日本では、報復は、それほど深刻な「慣習」になっていないので、純粋に危険球を重視し、報復とは関係なく、また、ミスであるかどうかも関係なく、退場になることが多い。だから、大谷のあの映像をみた日本人は、何故投手が退場にならないのか、疑問に思った人も多かったに違いない。
 もちろん、大リーグも危険球について、まったく無関心というわけではないと思う。内角の投球は、投手にとって辛めに判定し、外角の投球は逆に甘めに判定する。つまり、ストライクゾーンが正式なルールより、外角にずれているわけだ。ルール通りに判定する日本とは明確に違う。WBCで村上が当初調子がでず、戸惑っていたのは、そのストライクゾーンの違いが原因のひとつだったという。内角を辛めにとるのは、内角は危険球になりがちだからだ。確かに、これは対処法のひとつだと思うが、やはり、明らかな危険球は、それ自体を措置、例えば退場にすることも必要な気がする。ストライクゾーンで危険球を避けさせることはできないと思うのだが。
 
 勝手な想像だが、死球の報復としては、バッターが次の打席で、強いピッチャー返しの打球を打つ、というのは、実際にあるのだろうか。投手はグローブをもっているので、よほどのことがない限り、頭部に打球を受けることはないと思うが、恐怖を与えることはできる。もし、そういう打球を報復の雰囲気があるなかで売ったら、たとえヒットになったとしても退場になるのだろうか。報復投球の場合、実際に打者にあたらなくても、認定されて退場になっていた映像があった。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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