月並みだが、大谷と藤浪の違い

 ヤフーニュースが、4月21日は大谷翔平、22日は藤浪晋太郎の記事で大賑わいになったという。もちろん、大谷は称賛の渦、藤浪は非難の渦と、正反対なのだが。それぞれ単独はもちろん、二人の比較も散々に書かれ、語られている。なにしろ同じ年齢で、同時に高校野球の時代から、話題の選手であり、とにも、プロにはいって、当初はライバルであったのは事実だ。藤浪もプロの最初の2,3年は、阪神の中心的な投手として活躍したのだから。しかし、金本監督になって、まったく活躍できなくなって、そのまま大リーグに挑戦したので、大リーグで藤浪を獲得するチームがあるのか、と当初は信じられなかったほど、日本では低迷していた。それに対して、大谷は、大リーグ2年目あたりで肘の故障が見つかり、手術を受けるなど、大変な時期もあったが、それ以外は、極めて順調に成長してきた。大谷ほどの選手で、これほど、年々成長し続けている人も珍しい。二人を比べるのもおこがましいし、散々されているけれども、自分自身で重要なことを確認したいという目的で、二人の違いを比較してみたい。
 
 結論になってしまうが、すべての日常性が、二人の相違を作り出しているということだろう。

 大谷は、日本ハムに入団して、新人のときに、先輩から誘われた食事会を断っていたという。自分の練習メニューを崩すことを避け、とにかく、自分に課している日常的なトレーニングを優先させていたわけだ。スポーツの世界は上下関係が厳しいのが普通だから、先輩の善意の誘いを断るのは、非常に勇気がいることに違いない。下手すれば、にらまれていびられる、いじめられる可能性もある。ずっとそういう姿勢で、小さいころから、計画をたて、それを実行してきた大谷だから、おそらく、断りかたなども、角がたたないように、うまくできているに違いないし、人間的なやわらかさを感じさせるから、険悪な関係にはならなかったのだろうが、それよりも、練習の成果が着実に表れて、文句のつけようのない成績をあげていたことが大きいのだろう。それに誰でも、プロの選手は、中学・高校までは二刀流だった者がほとんどで、それをプロでやることが、どれだけ難しいことかはわかっている。大谷の場合、監督が主導的に、二刀流をさせているのだから、大谷の練習が自分たちは、まったく違うレベルのものだということは、理解されていたのだろう。先輩の食事会を断るから、他の日常生活も推して知るべしで、すべてを野球のために使っているということだ。それはいまでも続いてる。
 
 それに対して、藤浪は、プロに入って、プロの練習は高校よりも楽だといっていたらしい。高校で甲子園常連校では、監督の指導が徹底しているのに対して、プロでは自主性が重んじられるから、それを勘違いしたのだろう。そして、タニマチの支援を受けたり、かなり遊んでいたと言われている。高校で抜群の能力を発揮して、甲子園で優勝したりした選手は、あまり熱心に練習をしなくても、しばらくの間は活躍できる。しかし、プロにはいって、本当に必要な練習を怠っていると、そのうち、どんなに才能溢れる選手でも、並の選手になってしまう。金田、王、野村、落合、張本、イチローなど、生涯記録として大きな成果をあげた選手は、いずれも、極めてストイックな生活をして、最後まで猛練習をしていた。そして、それぞれ独自の練習スタイルを編み出していた。どんなに才能溢れる選手でも、プロの世界で、なまけて活躍し続けることができるわけがない。どれだけ大谷が激しいトレーニングを継続し、藤浪がしていないかは、身体を比較すれば一目瞭然だ。ふたりとも、背が高く、高校時代はヒョロリとした感じだったが、現在の大谷は、筋力トレーニングをして、身体がスリムさは保持しているが、がっしりしている。筋肉隆々という感じで、身体をみれば、パワーのすごさがわかる。そして、野球をするために必要な筋肉を、的確に強化しているそうだ。それに対して、藤浪は、高校時代の体型とほとんど変わっていない。プロとしての身体強化をしていないのが、体つきでわかる。
 結局、コントロールというのは、思った通りに投げられるような技術だが、その技術は、投げるために必要な筋肉を正確に鍛えて作られているかにかかっている。大谷の練習ビデオをみると、普通に投げる練習だけではなく、様々な筋肉を鍛えるための、あまりみない練習メニューをこなしている。それは、専門家のアドバイスをうけつつ、合理的に考えられたものなのだろう。だから、大谷は、球が速かったり、変化球が激しく曲がったりするだけではなく、コントロールが非常にいい。WBCの最後の球、トラウトへのスライダーも、実に正確にコントロールされ、空振りをさせていた。
 藤浪の場合、あれだけの速球を投げるのだから、そういうトレーニングはしているのだろうが、おそらく、コントロールを身につけるための、必要な、しかし多彩なトレーニングをしっかりしていないのだろう。8点とられたときの全投球をみたが、確かに球は速いが、暴投が多いし、からだすれすれのところにいく球が目立つ。内角を攻めるために、コントロールされているのではなく、いってしまうという感じだ。
 気分的に落ち込んでいるとか、自信を喪失しているから、自信を取り戻せば勝てるようになる、などというレベルではないように思われる。才能とは、努力を継続できる能力をいうのである。
 
 
 
 
 
 
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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