ガーシー問題を考える

 ガーシー議員が除名され、更に逮捕状の発行、そしてパスポートの返還命令とたて続けに厳しい措置がとられている。私は、彼が国会にまったくでないということで、大きな問題になって初めて名前を知ったくらい、彼には関心がなかったが、除名が話題になり始めたころからは、さすがに注目せざるをえなくなった。しかし、話題になった暴露的youtubeをみようと思っても、かなり前のことなので、通常の探し方では出てこない。どうしてもみたいわけではないので、今のところ、逮捕状がとられるほどの酷い内容なのかは、よくわからない。彼のyoutubeは見ていないが、この除名や逮捕状騒ぎは、実に多くのシステム上の問題を孕んでいるといえる。
 
 まずは、国会議員の資格を失わせる除名についてである。これには、わずかだが、気にいらない議員や政党に対して、除名で排除できる道を開いてしまう危険があるという「警告」があった。しかし、ネット上のコメントとしては、それはごく少数派で、今回は、かなり慎重になされ、しかも理由が国会に出席しないという理由だから、もっと速やかにすべきであった、あるいは、これを機会に、基準を明確にすべきであり、そのきっかけになるという、除名肯定の意見が圧倒的に多かったと感じられる。

 オンラインでの参加を認めるような方向での改革は、十分に考慮される必要があるだろうが、今回の除名については、仕方ないと、私も感じた。合理的な理由ではない、刑事犯としての容疑で逮捕状がでるような状況のために外国に逃げている、そして、そのために国会に出席しないというのであれば、やはり、国会議員としての資格は認められないだろう。公約に、国会に出席しないといっていても、とりあえず、認証のときなどには出席して、会議は出席しないのであれば、まだ納得もいくが、完全に外国にいて、あらゆる機会を欠席するのでは、公約だったといっても、納得するひとは少ないだろう。しかも、謝罪をすればよかったのに、それすら拒否したわけだから、弁解の余地はないように思われる。
 
 議員を除名になったあとのことも問題となる。ガーシー議員は比例での当選だから、議員をやめれば、通常はNHK党の次点の候補者が当選するわけだが、除名処分であることと、NHK党が党名を変更してしまったという、ふたつの問題がある。比例については、比例で当選した議員が、なんらかの理由で(不祥事が多い)で、党籍を離脱したときに、議員を継続できるのはおかしいという議論もあり、私はそう思っている。比例は、党として責任を負うのだから、党籍を離れたり、除名された場合は、その当選枠そのものを失うようにすべきではないかと思う。まして、今回の場合には、党名を変更してしまったのだから、その党名であれば、投票しなかったというひともいるはずであり、少なくとも、その党を支持していることにはならないはずである。
 
 こうした欠陥を理由に、比例代表制は廃止して、小選挙区制に一本化すべきだという意見も多数あるが、それには賛成できない。そもそも選挙という制度は、民意を反映させるために行なわれるのであって、有力勢力を選び出すために行なうものではない。小選挙区は、最も支持されているひとが選ばれ、次点以下のひとは、当選者とそれほど得票率がかわらなくても、選ばれない。そういうひとがたくさんでる可能性もあり、5人でれば、理論的には21%の得票率で当選可能であり、投票率が50%であれば、全体の1割の支持で、すべての権限を掌握してしまうのである。これは、明らかに民意の反映とはいえず、民意を反映させるためには、比例代表制が合理的なのである。
 
 次に国会議員の不逮捕特権である。ガーシー氏の行動で不可解なのは、除名されなければ、逮捕されないわけから、国会会期の末期に再度外国にでることも可能だったろう。そのあたりの事情はよくわからないが、一般的に国会議員の不逮捕特権の意味は、あまりよく理解できない。国会議員といえども、重大犯罪を犯していれば、逮捕されてしかるべきだろう。ただ、取り調べの合理性が確立すれば、逮捕はあまり重要ではないのかも知れない。日本は、先進国というわりには、あまりに簡単に逮捕をしすぎるようにも思われるからだ。90歳で自動車事故をおこし、2人を死に至らしめたひとは、逮捕されないことを、上級国民の特権と非難されたが、逮捕とは、あくまでも証拠隠滅を諮るとか、逃亡することを防ぐためのものであって、そうした恐れがまずありえない人物については、逮捕する必要はないのである。逮捕しないまま、起訴して、有罪になれば収監すればよい。また、日本では、保釈の要件が厳しすぎ、国費を使って留置しておくわけだから、無駄な費用をかけているように思われる。自白したら保釈するなどというのは、いかにも人権の後進国という感が拭えない。
 逮捕を重視するのではなく、あくまでも在宅での捜査を行なえるのであれは、逮捕せずに起訴という場合が、もっと追求されてよいのではないだろうか。そうした場合、国会議員の不逮捕特権は、あまり意味がなくなる。国会開会中は、逮捕されない特権があっても、起訴されない特権はない。むしろ、不逮捕特権のために、国会会期中は、議員への捜査そのものをしないような雰囲気があるとしたら、そのことのほうが問題であろう。
 近年、国会議員に限らず、地方議会の議員でも、深刻な犯罪を行なう者がいる。きちんと捜査してほしいものだ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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