読書ノート『ルポ 大学崩壊』田中圭太郎(筑摩新書)1

(投稿していたと思っていたら、なぜかされていなかった文章。21日にアップするはずだった原稿です。)
 ウェブに章ごとで、いくつか掲載されているのを読んで、全部読まねばと思い購入した。今半分のところだが、私も大学に勤めていたので、実に憂鬱になる話の連続だ。
 前半を読んだが、構成は、
・破壊される国公立大学
 ここでは京都大学、北海道大学、東京大学、下関市立大学が扱われている。
・私物化される私立大学
 山梨学院大学、札幌国際大学、追手門学院、上野学園大学、日本大学が出てくるが、リアルタイムで問題となった事例が多い。
・ハラスメントが止まらない
 追手門学院、山形大学、東北大学、宮崎大学が扱われているが、教師、学生両方の被害者が登場する。そのなかで、大学でここまでひどいことがあるのか、と思わせられたのが、宮崎大学での「セクハラ捏造」だ。

 
 ある男性教師が、宮崎大学を退職して、首都圏の大学への就任が決まっていた。ところが、移る直前に、学則にもない「特別調査委員会に出席」するように通達がくる。何ら調査されることがないので、事務局に問い合わせた。単に攻撃的な反応を繰りかえされたので、弁護士と相談して、大学に確認すると、「指導の学生の卒業論文に、半裸の女子学生らしき写真が多数掲載されていた」ことを調査するという文書を送られた。更に、14項目の質問があったが、いずれも思い当たることが全くなかった。
 「思い当たることがないので、具体的に文書で教えてください」と回答し、予定通り他大学に赴任した。この移籍は、4カ月前から決まっていたという。ところが、突然、懲戒解雇という通知が送られた。そして、一方的にメディアで報道されたために、新しい大学で呼び出しをうけ、「自主的にやめるか解雇か」決めるようにいわれたが、報道は事実ではないと反論すると、解雇されてしまったというのである。
 そこで、男性教師は、宮崎大学に対して、いくつかの訴訟を起こす。その際、証拠保全が必要と、提訴前に証拠資料の押収を要求したところ、裁判所が実行した。そのために、証拠が保全され、それかの証拠が男性を陥れる捏造を示すことになった。事実を歪めた女子学生の自死(友人との軋轢が原因を思われるが、教師の責任だとメモの歪曲-本物のメモにその教師だけが味方だったと感謝の念が書かれていた-他の教師の指導生の卒論を、その教師の指導と歪曲、等々、様々なことが、抑えた証拠で明らかにされたにもかかわらず、大学は最高裁までもちこみ、最高裁で捏造を認定されてしまったというのだ。
 田中圭太郎氏の解釈では、この教師は研究業績もあり、学生に人気がある。現在の大学でも、ゼミ希望者が多いという。結局、考えれらる理由は、「嫉妬」以外にはないだろう。
 
 30年ほど前のことだが、地方の国立大学で、似たような仕打ちをうけた教師を思い出した。研究者としても高く評価され、学生にも非常に人気があった教師が、突然強制猥褻罪の汚名をきせられたのである。ゼミの女子学生に関係を迫ったというのである。裁判の途中で知り合い、資料なども受けとり、精神的応援以上のことはできなかったが、彼の潔癖は明らかだった。私のほうも、忙しく、地域的に離れていたので、結果がどうなったかは、わからずじまいだったが、まわりの教師たちの嫉妬が原因だと思ったものだ。
 しかし、私の知っている例なら、だれか同僚の嫉妬に狂った教師が、警察に虚偽の告発をすることで成立するが、宮崎大学の場合は、大学当局、かなりの教師集団、事務、そして学生を動員することが必要である。裁判所によって、ほぼすべて捏造による懲戒免職であったことが認定されたのだから、大学のかなりの部分が加担していたことになる。これでは、まるで犯罪集団ではないか。
 優秀な教師への嫉妬から、何人かが嫌がらせをすることは、大学といえでもありそうなことだが、ここまで管理当局まで巻き込んだ大がかりな、しかも、実際にはないことを、証拠まで捏造して懲戒解雇までもっていくというのは、私の想像を超えている。さすがに文科省が指導をいれたということだから、事実なのだろう。まさしく「大学崩壊」といえる。
 
 
 他の事例は、多くが、大学管理部門における、理不尽な管理態勢と、私腹を肥やしている管理者たちが暴かれている。研究・教育機関には、最もいてほしくない人物が、なぜこうした名門大学に現れるのか。
 後半を踏まえて考えてみたい。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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