ウクライナ支援へのポーランドの強固さ

 ウクライナへのロシアの侵略が始まって、際立っていることのひとつに、ポーランドのウクライナに対する支援の強さである。国境を接していることもあるが、ウクライナ避難民をもっともたくさん受け入れているし、また、ウクライナへの軍事支援についても、主導するような役割を果している。様々な武器がウクライナに、欧米から供与されているが、多くの場合に、より強力な武器をウクライナが求めると、アメリカやドイツは当初応じることに躊躇の姿勢を示す。それに対して、ポーランドがより積極的な支援を主張するという構図がずっと続いている。昨年の侵略初期では、ポーランドも米独の反対によって、提案を引っ込めることが多かったが、最近では、むしろ、米独の反対を抑えるように、自ら積極的に動いて、米独もそれに従うような場面が増えている。戦車の供与がそうだった。ポーランドは、欧米が「協議」をしている間に、戦車の操縦の訓練をウクライナ兵に対して行なっていたし、それを公言していた。それは、実際に欧米の多くの国が戦車供与を決めてから、実際に使用可能になるのを早める効果があった。

 そして、今は、戦闘機にその対象が移っている。ポーランドは、いち早く欧米型戦闘機の操縦について、ウクライナ兵への訓練を始めるとしている。
 
 では、何故ポーランドは、これほどまでに、ウクライナ支援に熱意を示しているのだろうか。これはポーランドの歴史を振り返れば、実感として理解できる。
 ローマ帝国解体後、中世を通じて王国が形成され、一時期ポーランド王国が隆盛を誇ったこともあったが、近代に国民国家が形成される時期になると、ポーランドは苦難の歴史を多く辿ることになる。オーストリア、プロシャ、ロシアによって、三分割され、19世紀を通じて、その支配下にあった。しかし、そのなかでも、独立運動は活発に行なわれていた。ショパンの「革命」という曲は、そうした独立運動への連帯をあらわしたものだ。
 第一次大戦後、三分割していた王国(帝国)がすべて崩壊した結果、ポーランドは独立することができたが、その後も、苦難は続く。ヒトラーがポーランドに攻め込んだのが、第二次大戦の開始となり、その後ポーランドはドイツとソ連によって分割されてしまう。そして、戦後もソ連に事実上占領され、その後属国扱いされる。
 ソ連がアフガン侵略によって国力を低下させ、やがて東欧の独立とソ連の崩壊が生じる。
 注目すべきは、ポーランドはソ連崩壊前から、連帯などの国内運動があり、ソ連崩壊による棚ぼた独立ではなかったことだ。つまり、長い抑圧のなかで、耐え忍んで抑圧を受け入れるのではなく、なんとか独立を回復させようという意思が、長く保持されており、東欧独立のなかでも、それが発揮されていたわけだ。
 しかし、そうした姿勢は、これで終わりではなかった。ソ連が崩壊したあと、ワルシャワ条約機構の廃止とNATOの廃止が話し合われ、双方が廃止することが合意されたのだが、その後NATOは存続することになり、現在に至っているわけである。なぜ、NATOは継続したのか。私自身、長くアメリカの世界支配意思の現れであると単純に思っていたのだが、実際には、東欧諸国が廃止に強く反対し、NATOに加盟したいという意思を表明したことが大きかったことがわかった。その中心がポーランドだったと思われるが、それだけソ連に対する恐怖心と警戒心が強かったといえる。歴史をみれば、その思いは納得がいく。
 こうした歴史的背景があって、ウクライナ支援の強固さが堅持されているのだろう。
 もし、ウクライナがロシアに征服されるようなことがあれば、ロシアと直接国境を接することになり、それは確実に何らかの形で圧迫されると考えているわけだ。
 
 マルクスとエンゲルスが共同で書いた「ポーランドのために」という短い文章がある。1863年のポーランド蜂起の記念祭が1875年に行なわれた際に書かれたものである。ここでは、ポーランド人が、アメリカ独立革命やフランス革命で、蜂起する側で義勇軍として参加したこと、ヨーロッパでの革命にも参加していたことを踏まえ、ポーランドの運命に特別の関心を寄せる理由として「抑圧者にたいする不断の英雄的闘争によって、自分たちが民族独立と民族自決の歴史的な権利をもつものであることを証明した、くびきにかけられた一民族に対する共鳴」「ポーランドの特殊な地理的位置、軍事的、歴史的状態」「ポーランドこそ、全世界の革命兵士としてたたかってきたし、現在もたたかっている唯一のスラブ族であるばかりでなく、唯一のヨーロッパ民族でもあること」をあげている。自分たちの国家が、三大国によって分割され、消滅しているにもかかわらす、抑圧された者たちが立ち上がった他の国に対して、応援にいっていたことは、私も知らなかった。抑圧された民族への実践的な共感が、ポーランドの民族的遺産なのかも知れない。そういう目でみると、ウクライナへの支援は、自国の安全を守るためもあるが、それ以上に、やはり、不当な侵略をする国家への真正の怒りがあるように思われる。
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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