ロシア内部の軍事施設を攻撃

 ここ数日間のウクライナ情勢に関しては、ウクライナから遠く離れたロシア領内の軍事施設が攻撃されたことに、話題が集中している。これは、非常に大きなターニングポイントになりうる。
 当初、旧ソ連製の偵察用ドローンを、ウクライナが改良して攻撃機として使ったという説だった。偵察用だから、かなり航空可能距離が長く、1000キロ飛行可能だから、十分攻撃できる。ロシアのこの地域の防空施設が脆弱なために、攻撃を許したというわけだ。
 しかし、それには反論もでている。モスクワ周辺だから、防空施設はかなりしっかりしており、ウクライナ領内から700キロもドローン飛んできて、爆撃まですることは絶対に不可能であるという、ロシア元軍人の解説が出ているそうだ。ロシア自身によるやらせの可能性もあるが、わざわざモスクワに近い空軍基地の、しかも重要な爆撃機を損傷させるようなことを、現時点で行うメリットはあまり感じられない。とすると、やはり、少なくとも反ロシア勢力によるものだとすると、筑波大名誉教授の中村氏によれば、ウクライナ協力者のロシア人が実行したか、あるいは、入りこんでいるウクライナ特殊部隊に、協力して、近くからドローンを飛ばしたという。また、カザフスタンから飛ばしたという考えもできるそうだ。
 いずれにせよ、ウクライナの意思が起こしたとすれば、アメリカとの関係において、予想しがたい事態になっていく可能性がある。

 この間のアメリカの動きを見ると、ウクライナ支援は継続することにかわりはないにしても、ロシアを直接攻撃することについては、やはり、極めて制限的に振る舞っている。あくまでウクライナ領内に攻めてきているロシア軍を駆逐するための支援に限定している。しかし、ウクライナからみれば、ウクライナへのミサイル攻撃は、ほとんどすべてロシア国内から発射されているのだから、ロシア領内の軍事基地を攻撃しないと、ウクライナへの攻撃、特に民間インフラへの攻撃を阻止することができない。いくら、迎撃能力が高まっても、100%ではないわけだ。どんどんウクライナの民間インフラが攻撃されて、電気がとまってしまうような事態は避けなければならない。そのためには、ロシア領内の軍事施設の破壊か最も有効だ。それは、アメリカだってわかっているはずである。だから、ゼレンスキーは、アメリカの意思に反しても、必要なことを実行したのだろう。
 
 振り返ってみれば、ゼレンスキーは、ロシアによる侵攻の当初から、アメリカのいいなりだったわけではない。亡命を勧めたアメリカの意向に反して、徹底抗戦を宣言し、現在までウクライナ国民を鼓舞し、世界から援助を引き出して、闘い続けてきた。しかし、欧米と対立しては、国家として生き残ることはできない。だが、そのまま従っていれば、ウクライナはずっと長期の戦争を強いられ、市民生活は破壊されてしまう。ならは、アメリカの意思に反しても、自分たちの製作した武器を使って、ロシア領内の軍事施設を攻撃し、少しでもミサイル攻撃を防ごうということだ。アメリカの提供した武器を使っているわけではないから、アメリカとしても、そんなことはやめろとはいえない。ゼレンスキーは、アメリカに融和的な姿勢をやめろ、と迫っているわけだ。しかも、ゼレンスキーはロシアの崩壊そのものを起こりうることを述べ、そうした事態にならないように願っている欧米の指導者に、苦言を呈するまでになっている。
 しばらくは、ゼレンスキーとバイデンのせめぎ合いが続く。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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