再論 学校教育から何を削るか6 通知表2

 通知表を作成するのが、教師にとって大きな負担であることを、さすがの文科省も認識したようで、中教審にその対策を審議させた。そして、答申は次のように提言している。読者もぜひこの文章について、自分なりの評価をもってほしい。
---
 学校教育法施行規則により作成が義務付けられている指導要録については,観点別に学習評価を実施することが現行制度上求められており,これに伴う定期テストの問題作成・採点,通知表・調査書・指導要録の作成等の学習評価,それに伴う成績処理については教師が行うべき業務である。
 一方,これに関する業務のうち,宿題等の提出状況の確認,簡単なドリルの丸付けなどの補助的業務は,教師との連携の上で,単なるボランティアではないスクール・サポート・スタッフ等を積極的に参画させるべきである。また,教育委員会は,この点に限らず,業務の効率化や事務作業の負担軽減のため,ICT を活用する環境の器の更新を図るべきである。

 新学習指導要領下の学習評価については,教師の勤務実態を踏まえ,指導要録のうち指導に関する記録については大幅に簡素化し,学習評価の結果を教師が自らの指導の改善や児童生徒の学習の改善につなげることが重要である。
<文部科学省に求める取組>
ア 作業を効率的に行うためのICT 機器やネットワーク環境等の整備やOA 機器の導入・更新の地方財政措置による支援
イ スクール・サポート・スタッフの体制整備
ウ 指導要録における文章記述欄の大幅な簡素化
エ 指導要録の記載する事項を全て満たす通知表を作成するような場合には,指導要録と通知表の様式を共通のものとできる旨の明示整備やOA 機
---
 教師の過重労働をなんとか軽減する必要があるという認識については、大いに共感したいところだ。しかし、その方法については、基本的な考え方、改善の妥当性、改善の可能性すべてについて、疑問が生じる。
 まず可能性について考えてみよう。
 スクール・サポート・スタッフを整備するという。ここでは「宿題等の提出状況の確認,簡単なドリルの丸付けなどの補助的業務」などを行うとされる。おそらくICT等の支援も行うのだろう。そして、ボランティアではないと断っているから、正規職員あるいは臨時職員ということになる。ただでさえ、教育に対する支出が先進国のなかで極めて低い日本が、こうしたスタッフを雇用することに前向きになるようには思えない。どの程度のスタッフを採用するのかは、まったく触れられていないが、かなりの財政的措置が必要とされるだろう。
 しかし、絶対に不可能ということも難しい。正規の教諭と補助的なスタッフという組み合わせは、文科省の「重層構造」に更に近づくから、財政的に認められるなら、ぜひおきたいと考えるかも知れないからである。
 
 では、そうしたスタッフの設置によって負担を軽減するのは、適切なやり方なのだろうか。提出物の確認は、内容的には教師がやることだろうから、提出したかどうかのチェックと考えられる。大変な作業とは思えないから、私が忙しいなかでやるとしたら、子どもに提出するときに、自分で名簿にチェックさせる。おそらく、小学校一年生でも、それは可能だろう。簡単なドリルの丸つけだって、子ども自身にさせたほうが、教育的に効果がある。むしろ、自分で採点させて、わからないところをはっきりさせ、質問させて、再度の説明によって、理解させることのほうが、大切なことではないか。できた子どもに、教えさせることも意味がある。つまり、わざわざ教師がやるようなことではないのだとしたら、それは子ども自身にさせることは可能である。つまり、そういうスタッフをわざわざ配置する必要性を、私は感じないのである。
 
 考え方そのものの妥当性はどうか。
 子どもにさせたほうが教育的であることは、そうしたやり方で軽減できるから、現在でも可能であるし、それをわざわざ補助的なスタッフを配置することで行うことは、妥当とはいえない。それよりも、指導要録と通知表、それに伴う作業は、教師が行うべきであるとするが、作業そのものの妥当性が、ほとんど検討されていないことである。唯一されているのが、「指導要録の記述部分の削減」である。指導要録や通知表そのものの回数削減や項目削減は検討されていない。年3度を1回にすれば、かなりの削減になる。更に点検や権限問題も検討されていない。更に、より重要なのは、学級あたりの人数の削減であろう。多くの人数の処理が必要なので大変になることは明らかだから、あらゆる点で、学級の人数削減が重要になってくる。
 
 従って、現状を前提にした軽減策であり、現状そのものの「過剰性」を検討しようという姿勢が感じられない。これでは、教師の過重労働を軽減することなど、難しいと言わざるをえない。
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です