ベラルーシ外相マケイが死去

 ベラルーシの外相ウラジーミル・マケイ氏が26日突然死亡したという。各紙が報道しているが、共通している内容は以下の通りだ。
・マケイ外相は、ベラルーシの独裁者ルカシェンコの下で、10年に渡って外相を務めていた。
・閣僚のなかで、唯一ロシアに影響されない人物だったと言われている。
・直前まで会談をこなし、また28日にもロシアのラズロフ外相との会談が予定されていた。
・死因はわからない。
 元気だったはずの重要人物が突然死去したのだから、当然憶測が飛んでいる。64歳ということだから、当然脳卒中のような発作で、突然亡くなったという可能性は否定できない。しかし、直前まで会談をこなしていたし、重要会談を控えていたということだから、健康上の問題はないとすると、その可能性も低いような気がする。すると、誰かに殺害されたということになるが、もっとも多くのひとたちが想像しているのは、ロシアによる暗殺だ。

 ロシアは、ベラルーシに対して、ウクライナ戦争に参戦するように強く促してきたが、現時点では、協力はするが、参戦はしないという姿勢をベラルーシは貫いている。そして、その姿勢を強く主張しているのが、マケイ外相であるとみられている。だから、ロシアがマケイ外相を暗殺することで、ベラルーシ指導者たちを脅迫して、参戦させるための一手であるというわけだ。ウクライナが、参戦に反対している有力政治家を暗殺しても、何の利益もないから、ウクライナ側の陰謀と考えるのは、かなり無理がある。もし明確な病気による突然死であれば、当然ベラルーシ政府から、その旨の公表があるだろう。しかし、暗殺の場合には、明確な公表は期待できない。特に、ロシアの仕業であるすれば、公表など絶対にありえないだろう。
 
 今後どうなるのだろう。これも、想像するしかないが。
 病死の場合には、ベラルーシの対応に、急激な変化があるとは思えないから、ロシアによる暗殺だと考えてみよう。閣僚たちは動揺し、ルカシェンコもロシアの脅しを察知して、参戦せざるを得ないかと決意する可能性が高い。外相を暗殺されては、国家の沽券に関わるから、今後協力はできない、と反ロシアの立場に転換する、などという可能性はあまり考えられない。現在ベラルーシ国内にロシアの軍隊がかなり駐在しているのだから、なおさらだ。
 いよいよベラルーシも参戦することになったら、ベラルーシの軍隊と国民はどうするだろうか。おそらく、軍隊のなかにも反対勢力が出てくるだろうし、国民は反戦運動を高揚させるに違いない。実際に、ウクライナに行って、ウクライナの軍に参加しているベラルーシ人もかなりいるとされる。ロシアですら、部分動員にあれだけの反対運動が起きたのだから、ベラルーシが参戦するとなれば、大統領選挙の結果への抗議活動以上の反対が起きるに違いない。そして、治安部隊やベラルーシの軍隊に対して、抗議活動を潰すように命令がだされるが、その命令が忠実には実行されない可能性がある。すると、駐留するロシア軍に対して、抗議活動を弾圧するように命令が出されるのだろうか。ロシア軍が、ベラルーシ人の抗議活動に銃撃を加えた場合、ベラルーシ人の抗議活動に参加していない部分に対して、また、国際社会に対して、かなり大きな反感が生じる。ロシア軍がそのまま鎮圧して、完全にベラルーシをロシアの支配下においてしまうか、あるいは、ベラルーシ国民が抵抗し、軍隊もそれに同調して、ロシア軍を追い出す可能性がゼロではない。
 
 想像はいろいろと可能だが、ルカシェンコが、さすがに外相を暗殺するようなロシアには、多少距離をおく必要があると覚悟して、現在いるロシア軍をひきあげさせ、完全な中立を守る立場にたつ、というのが、もっとも好ましい展開だ。可能性は少ないが。いずれにせよ、マケイ外相の死去は、小さくない転換をもたらすのではないだろうか。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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