ウクライナ ポーランドへのミサイル事件への疑問

 ポーランドに着弾したミサイル問題は、いまだにしこりを残している。未解決というべきだろう。というのは、ゼレンスキーがまだウクライナの誤射であることを認めていないからだ。ゼレンスキーとしては、なかなか認めがたいというのも理解である。
・現場の兵士たちが、自分たちの誤射ではないと主張しており、指揮官としては、証拠もなしに兵士たちを疑うわけにはいかない。
・NATOとしては調査しているが、ウクライナは調査に参加できず、納得できる情報が示されていない。
 以上のふたつの理由である。ゼレンスキーの立場にたてば、当然の対応といえる。最高指揮官が、命をかけて闘っている兵士たちの主張を、証拠もなしに否定できるわけがない。具体的な証拠なしに、兵士たちの主張を否定すれば、兵士たちの士気は低下してしまう。更に、NATO側は、ウクライナの誤射であると主張しているが、私がみている限り、衛星での追跡などの具体的な軌道を示すような証拠を、公開していない。おそらく、非公開でゼレンスキーに示すこともしていないのではないかと思われる。少なくとも、NATOは、ウクライナの軍指導者やゼレンスキーに証拠をみせ、兵士たちを説得させる、という手順は踏むべきであろう。

 
 以下は、当然証拠はないし、断言できることではないが、しかし、疑いとしてはどうしても残る。まずこれまでの事実経過を整理すると、
・ ポーランドの発表が最初だった。ポーランド領内にミサイルが着弾し、二人が死亡したこと、ロシア製のミサイルであったこと。
・ これを受けてだろう、ゼレンスキーがポーランドに、ロシアがミサイル攻撃をしたと発表した。
・ しかし、バイデンもすぐに、これはロシアのミサイルではない可能性があると発表した。
・ しばらく調査期間があり、ロシアのミサイルを迎撃するために撃った、ウクライナの迎撃ミサイルが軌道を外れてポーランドに着弾したのだ、とNATOから発表された。 
 
 何がすっきりしないかというと、ひとつは、バイデンの反応があまりに速かったこと。そして、衛星や偵察機が入手したという情報が、公表されていないし、また、ゼレンスキーにも知らされていないらしいこと、調査にウクライナを参加させていないことである。
 もちろん、可能性としては低いと思うし、アメリカやNATOがこれだけ支援しているウクライナをだますようなことはないと思うのだが、やはり、疑念は消えない。どういう疑念か。
 つまり、もしかしたら本当はロシアからのミサイルだったが、それを認めてしまうと、NATOが武力を含めた対応をしなければならくなり、本格的にロシア対NATOの戦争になってしまう。それを避けることが絶対に必要で、そのためには、ロシアからのミサイルではなく、ウクライナの誤射にしてしまおう。そうして、ウクライナ支援をより強力にすること、そして、本当に悪いのはロシアの攻撃であることを明確にして、ゼレンスキーを説得しよう、という対応だったのではないかという疑念である。
 ウクライナの誤射だというのは、もちろんありうるのだろうが、どういう状況ならそうなるのか。
 当然ミサイルはロシアから飛んでくる。100発程度だったというのだから、迎撃ミサイルも含めて、かなりの量のミサイルがウクライナ上空を飛び交ったことになる。その軌跡を分析して、直ぐにポーランドに落ちたのがロシアからのものではないとわかるものだろうか、ということ。
 また、ロシアから飛んでくるミサイルを迎撃するのだから、当然ロシア方向にむかって撃つはずだ。それが反対側のポーランドに落ちるというのは、想定しにくい。ロシアから飛んでくるミサイルに向かって撃ったが、軌道を外れて方向を変えることはあるだろうが、正反対になってしまう。
 ポーランドにおちた破片がロシア製の迎撃ミサイルS300のものであったが、その射程距離は200キロほどなので、ロシアからは届かないというのだが、ベラルーシから撃った可能性もある。
 
 まったく逆の想定も可能だろう。
 ゼレンスキーは、NATOが直接参戦してくれることが望ましい。いくら武器を供与してくれるといっても、欲しいものがすべて揃えられるわけではないし、NATOが直接参戦すれば、装備も完全になるし、ウクライナが絶対有利になる。だから、NATOの5条に基づいて参戦せざるをえなくなるように、あえて誤射に見せかけてポーランドに撃ち込んだという想定で、これは既にアメリカの保守派から出ているという。トランプ支持層のなかに、ロシア支持勢力が一定存在しているからだ。だが、いかにも危険すぎるし、そういう愚策を、ウクライナがとる可能性は極めて低いはずだ。
 
 こうした疑念は、単なる疑念であり、NATOとポーランドが厳密に調査した結果として、ウクライナの誤射だったということなのだから、基本的にはそれを信じるしかないし、また、現場の兵士との関係はあるにせよ、そのNATOの説明を受け入れることは、ウクライナにとってけっして不利ではないように思われる。不完全なS300などという迎撃システムではなく、欧米のより完璧なシステムを、もっと多数導入してほしい、もっと武器を供給してほしいと、要求することができるからだ。また、ここで、絶対にウクライナの誤射ではない、とつっぱねることは、ロシアにとって好都合だろう。ゼレンスキーにとって、本当に難しい舵取りが続く。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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