再論 学校教育から何を削るか1 基準

 以前「学校教育から何を削るか」というシリーズで約20本の文章を書いた。それをまとめてKindle本にしようかと思っていたのだが、まだまだ内容が不十分な部分があり、延ばし延ばしになっていた。そして、もう一度、ひとつひとつ書き直して、まとめようという気になっていたところ、昨日の文章で書いたように、定年問題が進行していることもきっかけに、歩みだそうと決意した。前回書いた部分の書き直しなので、重なる部分があることをお断りしておきたい。
 現在の公立小中学校がブラック職場となり、教師たちが過重労働に苦しんでいること、そして、その結果として毎年大量の離職者、休職者がいることは、広く知られるようになっている。どうしたらいいのか、多くの人が論じているが、徹底的な改革が必要である。そして、その改革の前提として、今やっていることのなかで、教育上絶対に必要なことと、なくしてもいいことを大胆に区分して、不要なことを削っていくことが大事であると、私はずっと考えている。もちろん、絶対に必要なことの多くは、大部分の人が共通にそう認識していると思われるが、不要だという部分は、賛否両論あるだろう。私が、これから、提起する「不要」な教育については、従って、異論もたくさんあるだろうし、そこにこそ教師としての生き甲斐を感じている人も少なくないことは、了解している。だから、それぞれの学校や地域で、共通に不要と思われることを削って、教師や子どもの負担を軽減していけばよい。ここではその道筋をつけたいと思っている。だから、私が不要と思うことを、かなり広くとって、問題提起したいということだ。

 全体の構想はたっているが、まとまっている部分から書いていくことにする。
 
 必要と不要をわける基準
 まず第一回として、義務教育として必ず必要な部分と、そうでなく、削除してもよいと考える部分をわける基準について整理しておきたい。あくまでも「義務教育」段階に限定している。
 必ず必要な部分とは、社会に生きていく上で、誰にも求められる能力・資質・知識に関わる内容である。厳密にどこまでかは、考えの差はあるとしても、
・基礎的な5教科(国語・数学・理科・社会・英語)
・身体的能力と健康に関わること
 不可欠と私が考えるのは、以上だけである。
 
 では、不可欠とはいえないことは
・各人によって好みが異なる領域(競技体育、芸術、技術)
・多くの学校行事
 不可欠ではないと考えるだけで、あってはならないというわけではない。人によって好みが異なる領域については、学校の特色として実施することもあるだろうし、適宜、学校や地域の合意の下に、選択的に教育内容に含めればよいという趣旨である。
 
 なぜそう考えるのか。
 身体的能力を例に検討してみよう。
 現在の小中学校では、体育の占める部分が大きくなっており、小学校段階から地域のスポーツ大会に出場し、勝敗を競う。特に小学校の場合、新任教師の採用にあたって、大学時代の体育会系部活を経験している人が、強く求められる傾向がある。しかし、これは、義務教育を大いに歪めているといわざるをえないのである。
 スポーツは勝敗を競うものだが、人には得手不得手がある。また好き嫌いがある。不得手で嫌いな種目を強制されても、教育効果などない。結局、得意で好きな子どもたちが中心となって、競技大会などに出場し、そのための準備に時間とエネルギーが割かれることになる。これは公正な資源の配分とはいえない状況を生み出している。好き嫌いが重要な要素である競技スポーツは、「義務教育」としての共通課題にはなじまない。学校外の社会体育として行うことのほうが、ずっと趣旨に適う。そして、学校としての体育は、基礎的身体能力を向上させる運動や、健康保持に必要な内容を学ぶことに集中すればよいのである。
 競技スポーツを学校体育のなかに大きな比重をもたせることの弊害は、指導者の問題にも関わってくる。小学校の教師は、競技スポーツについて、専門的な知識や指導力をもっているわけではない。素人が教えることは、逆にそのスポーツの楽しさから遠ざけてしまったり、あるいは危険をもたらす。水泳の授業で事故が起きやすいのは、そうしたことが原因のひとつになっている。従って、基礎的身体能力向上の体育を学校教育で、競技スポーツは社会体育で、役割分担をするのが、もっともスポーツを広く普及するのに、効果的である。これを実施するだけで、小学校教師の負担はかなり軽くなるはずである。
 
 以下基本的にはこのような基準を中核として、学校教育(義務教育)にはなくてもよいことを、大胆に提示していきたい。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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