プーチンの動員令は反対勢力の弾圧にも

 これまでもロシア中央から離れた周辺で、兵を募集してきたことが指摘されているが、動員令の発令で、この傾向は更に強まることが予想される。これまでは形式的には「志願兵」だったから、断ることは多少なりとも可能だった。もっとも、そうした貧しい地域では、給料をあてにして積極的に応募する人も少なくなかったと言われるが。
 しかし、動員となると、断ることはできない。拒否すると10年の入獄になってしまうと脅されている。むしろ、一端刑務所にいれられてから、そこから強制的に戦地に送られる可能性が高いようだ。
 極東とロシア南部のイスラム教徒の強い地域での「動員」が活発になっていると報道されている。その一例が、ダゲスタン共和国だ。

 不覚ながら、これまでダゲスタン共和国を知らなかったが、ジョージア(西側)やアゼルバイジャン(南部)に隣接するカスピ海沿岸の国だ。これまでもウクライナに多数出兵して、しかも戦死が多いとされている。つまり、多数兵隊としてとられているだけではなく、危険な地域に派遣されているということだろう。
 極東では、サハ共和国での反対デモが報道されている。https://www.jcp.or.jp/akahata/aik22/2022-09-27/2022092707_01_0.html
 サハ共和国は日本よりもかなり広い自治共和国で、自然資源が豊かな地域だ。男性がデモにでると拘束されて、徴兵されるので、女性が中心に抗議デモを繰り広げたそうだ。それでも逮捕者がでている。こうして、以前と同じように、周辺地域での徴募だったのが、今回は動員なので、「赤紙」であって拒否できない。そうすれば、周辺地域の勢力を削ぐことに、徴兵がますます利用されることになる。
 
 ロシア国内だけではなく、現在ウクライナ占領地域での住民投票が行われているが、その結果をまたずに、徴兵が始まっているとされている。形式的にロシア編入が実行されれば、ここでの動員は、躊躇なく行われるにちがいない。占領地域であるから、反ロシア的な人物も多いだろうし、むしろ反ロシアの人物を徴兵して、危険な部署につければ、反ロシア派を「合法的」に弾圧できるというわけだ。
 
 しかし、常識的に考えて、このような地域からばかり動員する場合、士気は低いし、むしろ反乱の恐れすら抱え込むことになる。その危惧がない兵員として、北朝鮮が期待されているようだ。8月には、ドンバス地方に北朝鮮から「労働者」という形で、人員が多数入っているという。https://news.yahoo.co.jp/articles/58c1d03013110978e1a3e64bf7a794ab6b1e84c7
 国連決議で、北朝鮮は国連加盟国に出稼ぎ労働にでることを禁止されているが、ふたつのルガンスクとドネツク「人民共和国」は国連加盟国ではないので、違反にならないということらしい。国連的には、ふたつの共和国はウクライナ領なのだから、当然出稼ぎ禁止のはずであり、ロシアという国家が、国連のルールをいかに踏みにじっているかという一例である。ロシアにとって、北朝鮮からの派兵は非常に便利なようだ。武器を携帯してやってくるし、とにかく懸命に働く。士気低下になやむロシア軍としては、実にありがたいひとたちだ。そして、実際には兵隊たちだから、いざというときには、戦闘に加わるだろう。
 北朝鮮としても、貴重な外貨獲得や資源を入手できる大きな利点がある。記事によれは、北朝鮮人たちは、修理にも長けていて、修理が必要となった兵器を再生させることも期待されているというのだから、ロシアにとっては重宝このうえない存在だ。だが、いまロシアに不利になっている戦況から考えれば、北朝鮮軍が前線に送られて多数の死傷者を出す可能性も高い。北朝鮮は、死者への支払い獲得で、それをも自国の利害のために利用すると思われるが。
 
 突然の動員令が、ウクライナ東部での一部敗北が深刻であったことによることは間違いない。西側の予想では、動員した兵士の訓練などが時間がかかるし、そもそも兵器がかなり枯渇状態にあるので、たいした効果はないとしているが、効果的であるかどうかは、目的にもよるのではないだろうか。確かに、兵力としての劇的効果はないにせよ、大軍が補充されれば、それなりの効果はある。朝鮮戦争で投入された中国兵は、前が崩れても雲霞のごとく押し寄せて、米軍を悩ませたという。問題は、それほど多数の動員が、ロシアに可能かということと、可能だったとしても、どんなに危険な目にあっても、命令にしたがって前進するかどうかは、かなり疑問だ。
 北朝鮮軍は、さらに、占領地を「領土」として安定させるための人員(行政や警察機能)としては、役にたつし、前述したように、反対派の弾圧手段として活用すれば、国内における反対派の力を削ぐ効果がある。
 もちろん、それらは諸刃の剣であって、反対派が戦闘地域に派遣されれば、反乱要因になりうるし、士気が低いままでは、集団投降の可能性もある。30万人の装備や食料を確保し、確実に届けるのは、かなりの困難を伴う。食料不足になれば、そうした反乱や投降を促しかねない。ロシア革命は、兵士の反乱が大きなきっかけとなった。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です