安倍氏の葬儀は終わっているのに国葬?

 安倍元首相の国葬論議は、いまでも激しさをましており、反対派の一部は、各国の在日大使館や招待されている人にむけて、欠席要請の手紙を出したりしているようだ。それに対する反発も大きい。
 しかし、よくよく考えても、なぜ9月27日に行われる儀式が「国葬儀」なのかが、常識的にも理解できない。安倍元首相の葬儀は、7月12日に東京増上寺で行われている。ちゃんと報道もされているのだ。https://www.bbc.com/japanese/62131438
 葬儀を2回行うのか。それとも、増上寺で行われたのは葬儀ではないのか。通常、正規の国葬として行われているものは、文字通り「葬儀」であって、2度目の儀式ではない。エリザベス女王の国葬は、そこで初めて行われる「葬儀」である。これは当たり前のことだろう。だから、政府がやろうとしているのは、一般的には、「忍ぶ会」として行われている儀式といえるだろう。それを「国葬儀」と呼ぶのは、いかにもごまかしではないか。

 誰が、いつ決めたかという点についても、かなりあいまいで、異なる報道がある。7月22日の朝日デジタルでは、岸田首相が決断したのは、参院選直後だったとする。まだ増上寺の葬式は行われていない。本当に、葬儀としての国葬をしたいのならは、安倍家とも調整するはずである。しかし、安倍元首相の死去後数日で、「周辺に」検討を指示し、14日に記者会見で発表した。https://digital.asahi.com/articles/ASQ7Q6GB5Q7QUTFK00L.html?pn=6&unlock=1#continuehere
 その際の法解釈は、前に書いたように、いかにも無理だ。法をねじ曲げているとしかいいようがない。従って、当然のように、国民から広範囲の反対論がでた。そうすると、「安倍さんが亡くなった直後は、内閣と自民党の合同葬を開く方向で話が進んでいました。それを巻き戻したのが麻生太郎副総裁で、“保守派が騒ぎだすから”と、岸田さんに3回も電話をしたそうです。最後は『これは理屈じゃねんだよ』と、強い口調だったといいます。国葬実施の方針が決まったのは、7月14日の会見の1時間前でした」という記事がでる。https://news.yahoo.co.jp/articles/47b9edfcedc35d21fcaa49f640c2cb038ae95cce
 本当は岸田首相は、反対だったんだというわけだ。
 どちらが本当かはわからないが、一国のリーダーとしての資質を疑われることは、避けられない展開だ。
 
 私は、国葬反対の立場だが、その理由は
・国葬に関する法律が存在せず、国会の議決を経ていないのは、「国」としての儀式とはいえない。
・正規の葬式が実施済である。無駄な費用。
・弔問外交などは、事実上無理であると言われている。直前にやってきて、儀式が終わればすぐに帰国する。
・そして、最大の理由は、安倍元首相は国葬に値する人物ではない。
 
 国葬反対が、世論調査では過半数だから、こうした反対論は説得力があるということだろう。逆にいうと、賛成論のなかには、首をかしげざるをえないものがいくつかある。もっとも奇妙に思ったのは、高橋洋一氏の論だ。youtubeで述べているのだが、国葬にかかる費用は、2億5千万だけで、そのほかの警備費は、予備費から出すので、費用はかからないのだという。政府は総額16億といっているが、多くの人は、それでは済まないと思っている。そして、それは実際にかかる費用だと思っている。ごく当然のことだろう。しかし、高橋氏が、新たに予算を必要とするのでなく、決まっている予備費を使うのだから、費用としてかからないというのは、詭弁以外のなにものでもない。どこからだそうが、実際に費用としてかかる、つまり、何もしなければ、そうしたお金を使わずにすむ、その差額が「かかる費用」なのだ。どこから出すかは、関係がない。予備費からといっても、その費用を支出しなければ、他に使うことができるし、また使わなければ、それだけ余ることになり、けっこうなことではないか。「予算は使い切るべし」などというのは、悪しき慣習であって、国家財政の改善には、不要な予算は削るべきものなのだ。
 
 おそらく統一教会は、この国葬を自分たちに都合のよいように利用するだろう。目立った宣伝をすれば叩かれるので、信者むけに、統一教会を強力に支えてくれた安倍晋三氏が、国葬という名誉ある儀式で送られました、というような教会内宣伝で活用されるに違いない。それもまた負の遺産となる。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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